食品メーカーを中心に、急激な円安を背景とした値上げが次々と始まっている。それに真っ先に悲鳴を上げたのは、小売店だ。

首都圏で10店舗近くを展開する食品スーパーの社員で、東京都豊島区内の店舗で店長を務めるA氏がこう話す。

「実は、メーカーが発表してない品も含めて、店内のあらゆる商品が値上げになっています」

その品目について、A氏が怒濤(どとう)のように語り出す。

「森永『アロエヨーグルト』(80g×2パック)は9月から仕入れ価格が20円上がって110円となり、売価を10円程度値上げしました。定番の特売品として108円で売っていた品ですが、それももうできません。明治『プリン 超BIG』は220gから200g入りに規格変更され“超BIG”とは呼べなくなっています。

値上げが客離れに直結する卵と牛乳もそう。卵は週ごとに値上げされ、この1ヵ月で売価は188円から208円に上がりましたし、牛乳は例えば10月からメイトー『しっかり濃厚4.4』の仕入れ価格が10円アップし、近日中に売価を208円から218円に上げないと赤字が出る状況です。

菓子類は増税以降、続々と規格変更(減量)されて一服していますが、チョコ菓子は原料のカカオ豆の高騰が続いており、最近では有楽製菓『ブラックサンダー』が2mm短くなるなど、また“チョコっと”減量の動きが出始めています(苦笑)」

そんなA氏が最も頭を悩ませているのがバターだという。

今年8月頃にメーカー各社が生乳価格の高騰を理由に値上げに踏み切ったのだが、その後、慢性的な品薄状態に陥ってしまった。

「ウチの売り場では1週間ほどバターが品切れ。メーカーに問い合わせても『ない』と。次回の入荷見込みもありません」

売り場の棚には「バター品薄のお詫び」との張り紙があった。何が原因なのか? ある酪農家がこんな窮状を訴える。

「円安と原油高によって乳牛のエサになる輸入穀物が高止まりし、生産コストが上昇、出荷すればするほど赤字になる状況が続きました。また、先を見ればTPPで海外の低価格品が大量に流入してくる不安もある上、跡継ぎもいませんので、これを機に廃業する酪農家が続出している状況があります。

そうした背景もあって、飼養頭数も全国的に激減し、生乳不足の問題が顕在化。生乳は日持ちしない牛乳やチーズに優先的に回されますので、多くのスーパーでバターが品薄になっているというわけです。生乳不足が解消されない状況が続くと、牛乳もさらに値上げされ、バター同様に品薄になる恐れがあります」

そんな現象は、100円ショップでも見受けられた。都内で数店舗を構える100円ショップチェーンの社員がこう話す。

「最近はメーカーからの値上げ圧力が強まり、商品の袋からフック穴がなくなるなど、包装資材が簡素になる商品が増えています。売価100円を維持できなくなっているのは、包装のないサイズの大きなプラスチック製品。原油高騰がモロに響き、9月頃から洗面器、ゴミ箱、A4サイズ以上の資料トレーなどが納入できなくなりました。

ビニール傘は、正直、現状のままでは赤字ですが、売り場からなくすわけにはいかないので、近々、長さを短くするか、安いビニール素材に変えるか、いずれかの規格変更を行なう予定です」

こうした状況はいつまで続くのか? 第一生命経済研究所の主席エコノミスト・永濱利廣(ながはまとしひろ)氏が話す。

「円安・原油高の状況は10月中旬の数日で若干和らいではいますが、日本政府は今後もしばらく紙幣の供給量を増やす金融緩和策を継続する方針で、アメリカは逆に紙幣の供給量を減らす金融引き締めに入り、過去の経験からしてもこれを3年程度は継続させます。

そのため、円安ドル高の状況は、少なく見積もってもあと2年程度は続き、輸入コストが高値になる1ドル=110円近辺で推移する可能性もあります。原油価格も収束のメドが立っていないイラクやウクライナの情勢次第では、再び高値圏に入る恐れもあります」

少なくとも2年! そんな物価高がこのまま続くと、一体何が起きるのか? 投資家B氏がこう話す。

「“デフレ企業の逆襲”です。すでにその芽は出ていて、かつて“デフレの象徴”と呼ばれた企業が続々と値上げに踏み切っています。ユニクロは秋冬物の商品を一律値上げし、松屋や吉野家は牛丼の“プレミアム化”を図って価格を引き上げ、家電量販店では家電製品の価格.comの最安値を提示しても対抗値下げに応じなくなっているのがその典型例。

そこには、今年15年ぶりの賃上げ率を実現したことや、4月の増税を契機に『値上げを怖がる必要はなくなった』と考える企業側のホンネが透けて見える。今後、デフレ下の過当競争で損した分を、円安による原料高騰や来年の再増税に乗じて一気に取り戻そうとさらなる値上げを図ってくることも考えられます」

これを“脱デフレ”というのだろうか。ドミノ値上げはまだまだ続く――体力のある大手は価格に転嫁できるとして、100円ショップはその間に消えゆくのか?

(取材/興山英雄)