ザックジャパンの窮地を救うのは、闘莉王しかない
ブラジルW杯開幕がおよそ1カ月後に迫る中、日本代表は"緊急事態"を迎えている。ずっとチームの主力だった長谷部誠(ニュルンベルク/ドイツ)、内田篤人(シャルケ/ドイツ)、吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)が、いまだ戦列を離れたままだからだ。もちろん、彼らが復帰できれば何ら問題はない。しかし、もしも負傷が完治しなかったらどうするのか。たとえ、ケガが治ったとしてもベストな状態でプレイできなかったらどうするのか。5月6日にWeb Sportivaで掲載した『長谷部、内田、吉田不在のベストメンバーを考える』に引き続き、日本サッカーに精通するジャーナリストに提案してもらった。
欧州"負傷組"の穴をどう埋めるべきか(2)
杉山茂樹氏の提案
長谷部誠、内田篤人、吉田麻也。従来のスタメン3人は、はたして本大会に間に合うのか。微妙な状況だと言われている。だが、W杯メンバーを決める前に、テストマッチをこなして、新戦力を探る機会も、新たな組み合わせを試す場も、もうない。
ザッケローニ監督は、スタメンを固定して戦ってきた。長谷部、内田、吉田の3人にしても、必ずと言っていいほどスタメンで起用してきた。積極的に他の選択肢を求めようとはしなかった。そうしたやり方をしてきた結果、本番直前にして、不安が募る状況を招いてしまったわけだ。
その危機管理能力は、最低レベルにある。代表チームの監督を務めたことがない"悲しさ"を露呈している格好だ。
まず、もし長谷部が間に合わなかった場合はどうするか。これまでの流れからすれば、スタメンで起用される可能性が高いのは、山口蛍だ。しかし、僕の見立てでは、長谷部が備えているオーガナイザー的(チーム全体を見る目)な要素は、山口よりも青山敏弘(サンフレッチェ広島)や高橋秀人(FC東京)のほうが持ち合わせていると思う。山口は、交代選手としてアクセントをつける側に回るほうが向いている。
では、スタメンは青山か高橋かということになるが、彼らふたりもやや力不足。今の勢いを考えるならば、鹿島アントラーズの柴崎岳を抜擢したい。とりわけ、その滑らかなボール操作、ボールを前に持ち運ぶ能力に魅力を感じる。同様のタイプで言えば、決して選ばれることはないだろうが、川崎フロンターレの大島僚太も有力な候補と言える。
長谷部の「代役」は、柴崎か大島。僕ならば、そうする。中村憲剛も有力候補だが、彼は長谷部の代役ではなく、遠藤保仁の代役として選んだほうがいい。遠藤と中村憲はタイプが被る。同時に使うのはあまり好ましくない。
だが本来、もっとも理に適った選択は、最終ラインの今野泰幸をボランチにコンバートすることだ。所属クラブのガンバ大阪でもプレイしているように、今野の本職は守備的MFだ。ザッケローニ監督も、サイドバックまでこなすユーティリティー性を高く評価しているが、これまで今野をボランチで起用したことはない。テストさえしてこなかったが、今からでも遅くない。
「今野を守備的MFで起用せよ!」
これが、緊急事態を収束させる最善の方法だと思う。が、センターバック吉田の出場まで危ぶまれるとなると、さすがに今野を一列前に上げることは難しい。センターバックの控えがあまりにも手薄だからだ。ボランチ今野を実現するには、まず吉田の穴を埋めなければならない。
ここで浮上する疑問は、誰もが日本屈指のDFと評価する闘莉王を、ザッケローニ監督がこれまで一度も呼ばなかったことだ。長谷部、吉田が不在という最悪の事態となれば、もうなりふり構ってなどいられない。たとえ招集実績がなくとも、闘莉王をメンバーに加えるべきだろう。
そうして、センターバックには闘莉王と森重真人、守備的MFは遠藤と今野を配置。これが、オーソドックスな形だと思うのは、僕だけではないはずだ。
次に、右サイドバック内田の穴はどう埋めるのか。先発候補の一番手は酒井宏樹だろうが、ブンデスリーガでの活躍度、現在の調子を重視すれば、酒井高徳を起用するのが賢明だろう。
そうなると、右が酒井高、左が長友佑都となるが、僕は、彼らの配置は左右入れ替えたほうがしっくりくるように思っている。なにしろ酒井高は、右利きにもかかわらず、左利きのようなボールの持ち方ができる。右利きの選手が無理をして左サイドを務めている不自然さがないのだ。その点は、長友以上だ。
内田の代わりには、もうひとり適任者がいる。駒野友一だ。彼のよさは、ステディーなところ。プレイ自体に意外性はないが、安定感では右に出る者がいない。右サイドと左サイド、両方できる点も魅力で、W杯でグループリーグを突破して、4試合目、5試合目を戦おうとすれば、こうした選手はひとりでも多くいたほうがいい。それだけ選択肢が広がるからだ。
さて、長谷部、内田、吉田の穴埋めは以上のとおりだが、前線のメンバーについても触れておこう。
本心を言えば、僕は本田圭佑の1トップ(0トップ)という布陣でいきたいが、ザッケローニ監督にはそんな考えはないだろうし、あまりにも非現実的な提案をしても仕方がない。1トップは、大迫勇也と柿谷曜一朗。日本代表の戦い方に合っているのは大迫だが、能力的には互角。調子のいいほうをスタメンで使えばいいだろう。
2列目の3人も順当に、トップ下が本田、右サイドが岡崎慎司、左サイドが香川真司でいい。しかし、サブのメンバーに関しては一考が必要だし、実際にザッケローニ監督も、誰を選ぶべきか、一番悩んでいるのではないだろうか。
特に、従来のメンバーでありながら、清武弘嗣のメンバー入りは怪しい状況だ。日本代表ではもう何試合も存在感を発揮していないし、所属クラブのニュルンベルクでも輝けずにいる。ひと言で言えば「伸び悩み」。最近、サブとして重宝されている工藤壮人や齋藤学との比較でも、清武のほうが下に見られているかもしれない。
巷では、川崎フロンターレの大久保嘉人を選出するべきだ、という声も多いようだが、代表チームによりフィットするのは、浦和レッズの李忠成だ。
4−2−3−1の「3」の左を務める香川は、試合中のほとんどの時間を、そのポジションから離れて、真ん中でプレイしている。結果、日本代表の左サイドは、左サイドバックがひとりしかいない時間帯が非常に多い。高いレベルの戦いになればなるほど、これは大きな問題になる。そこで、準備しておきたいのは、香川に代わる人材。それが、李だ。
李は、ある意味でザッケローニ監督の"恩人"でもある。2011年1月のアジアカップ決勝戦。vsオーストラリア戦で決勝ゴールを決め、劣勢な状況を救ったのは、李の左足だ。長友のセンタリングから鮮やかなボレーシュートを決めた。代表チームにとってはもちろんのこと、何よりザッケローニ監督にとっては、まさに値千金の一発だった。
というのも、あのアジアカップの優勝で、ザッケローニ監督の評価が決定的なものになったからだ。もし敗れていれば、ザッケローニ監督に現在の居場所はあっただろうか。そのことを考えたら、李が復調した今、ザッケローニは彼を選ばずにはいられないのではないだろうか。
はたして、ザッケローニ監督の選択はいかに。
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki