ザッケローニ監督 (撮影:佐野美樹/PICSPORT)

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 ザックことアルベルト・ザッケローニ監督の解任を望む声が、あちらこちらから噴出している。サッカー協会の原技術委員長はザック支持を明言しているが、来月のテストマッチが10月と同じような結果になれば、イタリア人指揮官への逆風はさらに強まるだろう。 

 そして、11月に対戦するオランダとベルギーはセルビアベラルーシ以上の難敵だ。

 監督交代は閉塞感打破のきっかけになり得る。だが、時間の無さはどのように解決するのか。

 11月のテストマッチを消化すると、次の国際Aマッチは3月5日である。しかも、オフィシャルマッチではなくフレンドリーマッチのため、選手の集合は直前だ。国内開催となれば、前日に合流する選手も出てくる。欧州へ会場を求めても、全員が集合できるのは2日前になってしまう。

 その次の集合は、5月のメンバー発表後になる。過去の例をなぞれば、W杯までのテストマッチは3試合と考えるのが妥当だ。代表同士ではない練習試合を含めても、もう1試合加えられる程度である。

 そのスケジュールのなかで、新監督を迎えるのが現実的なのか。僕の答えは「NO」だ。

 マルセロ・ビエルサを招聘できたとしても、彼の戦術をW杯までに消化できるのか。日本人の学習能力と柔軟性なら、ある程度の水準には達するだろう。ただ、対峙する相手のレベルが上がれば、現在のチームが直面している課題が再び目の前に立ちはだかる。

 ザックのサッカーは決め事が多いと言われるが、最終的に問われるのは選手自身の応用力だ。高い位置からプレスをかけるのがチーム戦術だとしても、相手がロングボールを多用してきたら違った対応が必要になってくる。ロングボールの出どころにプレッシャーをかけつつ、最終ラインで跳ね返したあとのセカンドボールの回収を怠らない、といった選択肢も視野に入るはずだ。

 W杯はテストマッチではない。日本の強みと弱みをしっかりと把握したうえで、対戦相手はピッチに立つ。そこで重要なのは即興性であり、選手(たち)自身の判断である。監督の指示を待っているわけにはいかない。新監督を招いたところで、選手自身が変わらなければ同じ迷路へ入り込む。

 守備に軸足を置いてカウンターに勝機を見出す戦いは、チーム内の共通理解を固めやすい。攻撃も守備もある程度パターンにはめ込むことができる。個々のタスクは明確だ。

 攻撃的なサッカーは違う。相手に研究されたなかで、どのように攻め、どのように守るのか。選手自身が判断する場面が多くなる。ピッチ内での臨機応変な対応を促さない限り、日本はこれからも同じ課題にぶつかっていく。

 世界の舞台では、攻撃的なサッカーなど覚束ない。

 チーム内には危機感が芽生えている。「このままではW杯で勝てない」という議論が交わされている。

 指揮官ザックの方向づけは大切だが、実際に戦うのは選手たちだ。ピッチに立つ当事者が導き出す答えは、突き詰めれば監督を上回る。個人のエゴではなくチームが勝つための判断なら、監督は尊重する。尊重されなければならない。

 攻撃力を強みとして世界へ挑むなら、ザックを越えて行け。衝突を恐れるな。監督交代が囁かれる事実を、チームへの叱責と受け止めろ──それが、僕が監督を変える必要はないと考える一番の理由である。