今週の大きな出来事としては、アストロズのジム・クレーン氏への売却の承認と2013年からのア・リーグへの異動がありました。

クレーン氏は以前もこのブログで触れたとおり、イラク戦争での輸送業務で財を築いていること、その輸送会社の従業員から「人種差別給与」だと訴えられたことがあること、以前もアストロズ買収を目論みながら「ドタキャン」した前科があることなどから、球団買収に必要な全球団の75%のオーナーの承認取り付けに苦戦していました。
しかし、結果としては全球団のオーナーが承認するという圧倒的な「判定勝ち」を得て新オーナーの座を得たのです。

もちろんこの背景には、MLBがなんとしても成し遂げたい両リーグ15球団化にぜひとも必要なアストロズのナ・リーグからア・リーグへの異動に関する駆け引きがありました。
MLB機構および他の29球団とすれば、オーナー交代承認の交換条件としてアストロズにリーグ異動を呑ませたいところでしたし、スネに傷持つクレーン氏も異動問題は買収承認取り付けへの絶好のカードとなっていたのです。

しかし、両リーグ15球団化はそれほど必要なことなのか?というそもそもの疑問をお持ちの方も多いでしょう。
確かに一見きれいな配分ですが、それにより毎日2球団がリーグを跨いで戦うことに成り、MLBにとってのドル箱であったインターリーグの商品性が間違いなく損なわれるからです。
しかし、それほどの代償を払ってでも両リーグ15球団化は成し遂げねばならない理由がMLBにはありました。
それは「史上最強の労働組合」とも言われる選手組合からの強い要望でした。今年の12月に失効する現行の労使協定の更新に際し、組合側から強く要望されていたのがこの項目でした(組合としては移動に関する選手の肉体的負担を均等化する必要がありました)。
NBAの泥沼化した労使対立などを見るにつけ、過去ストライキで多くの犠牲を払ったMLBとしては(そしてバド・シーリグコミッショナーとしては)最悪の事態はなんとしても回避せねばならなかったのです。

そこで出て来たのが、ワイルドカードの各リーグ2球団化です。
これにより、プレーオフ収入の増加が望めるだけでなく、より多くの球団がシーズン終盤までポストシーズン進出の可能性を残すことになり、公式戦がより一層盛り上がります。これにより、総合的なTV視聴率や観客動員のアップに繋げインターリーグの商品性ダウンによる減収を補おうというものです。

また、労使協定更新に向けての楽観的な報道を昨日あたりから現地メディアで目にするようになりましたがこれらは偶然ではなく密接に関わり合っているのです。

しかし、アストロズの売却、選手組合からの両リーグ球団数均等化の要望、労使協定の失効という機構側からすると頭の痛いだけの問題を、互いに結び付けるとともにMLBの増収化策(選手にとっての増収でもあります)に結びつけ一気に解決してしまったシーリグの政治力には驚嘆するばかりです。