古賀茂明さん本日辞職「辞めるっていうのは、改革をあきらめるという意味じゃない」「政治家にはならない」
■改革派官僚、霞ヶ関を去る
古賀茂明さんが、本日、霞ヶ関を去ります。
公務員制度改革や企業再生に尽力し、震災後にはいちはやく東電再生プランを公表した「改革派官僚」の古賀茂明さんは結局民主党の閣僚からは仕事を与えられず、自ら経済産業省を辞めるという道を選びました。「国民のために働きたい」と言い続けてきた古賀さんのやりたかったこととは何だったのか。また、今後はどのようなことをやろうとされているのか。お話をうかがってきました。――遂に経済産業省を辞めるというこになったそうですが、霞が関に遺す言葉みたいなものってありますか
古賀:辞めるって言っても、死んじゃうわけじゃないから(笑)。辞めるっていうのは、改革をあきらめるという意味じゃないんです。それは外に出ても引き続きやろうと思っているんですよ。ただ、今の政権というのは改革ができないし、やる気がないから、僕の使い道って、待ってたってどうせないんですよね。だけど逆に「改革をしよう」という前向きな政権が出てきて、それで僕を使いたいということになれば、今は民間人でも公務員になれるんで、そういう形で登用されて改革に取り組むことができればいいなと思っているんです。「リボルビング・ドア」というんですけど、政権交代に伴って「官と民」が自由に行き来する、そういう例になればいいなと思っています。
※リボルビング・ドア:回転ドアの意。米国では政権交代のたびに高位の官僚が入れ替わり、民間シンクタンクや学界へ出ていく。そして新しい政権と共に別の人材が民間や学界などから登用される。この政権交代に伴う人材流動が回転ドアを行き来する人々の様子に似ていることから。――やり残したことってありますか
古賀:本当は、官僚であり続けて改革するチャンスが与えられたのであれば、ひとつは公務員制度改革。これは案も完璧なものになってなかったし、民主党政権になってさらにどんどん後退している。これをもう一回立て直して、やり直さなければいけないですね。そして原発も含めた電力の問題。これが今のまま行くと、将来禍根を残す可能性が非常に高い。本当はそれを白紙に戻すぐらいの感じでやり直したかったなと思います。
あともう一つ、これはもっと大きな話ですけど、結局、今官僚の中から「増税」しかアイデアがないんですよね。これはもう完全に「ギリシャへの道まっしぐら」になってしまっている。ギリシャは消費税20%になってしまっているんですけども、結局財政再建はできていません。それは何故かというと、ムダをそのまま残した状態、公務員制度改革等もおこなわずに「とりあえず増税」ということを繰り返してしまったからなんです。そして今マーケットに言われているのは、「今さら公務員制度改革をおこなっても焼け石に水で、最大の問題は経済が成長する可能性がなくなったことだ」ということなんです。日本も同じ道をたどる可能性があります。デフレでどんどん経済の規模が小さくなっていく中、「とりあえず増税」で再建をおこなおうとしてるわけですが、いくら増税したって追っつかない。気がついたら消費税も20%とかになってしまっている。そうなってからなんとかしようにも、企業は海外へ出て行ってしまった後で日本はもう成長できないという状態になってしまっている可能性がある。
そこのところをやりたかったですね。本当の意味での成長戦略を作っていくという部分ですね。
――勉強会等でもおっしゃっていた戦う成長戦略を前提とした公務員制度改革といったお話ですね
■国民が動かないと何もよくならない
――原発事故の問題、東電の問題が今フォーカスされていますが、結局変えられないという点では公務員制度をはじめその他の問題と根っこが似ている気がするんです
古賀:そうですよ。それを何で変えられないのか、ということなんですよ。「変えたほうがいい」とみんなが思っていても変えられない、その理由っていうのが「業界の既得権」であり、「官僚の既得権」であり、「政治家の既得権」なんですよ。で、そういう既得権を持った人達が制度を支配している。制度を変えるか、変えないかも含めて支配する構造ができてしまっている。――要するに、政治家に任せても、企業に任せても、官僚に任せても解決できなくなっているんです。
じゃどうすんの? という話ですが、結局、国民が動かないとどうしようもないじゃないですか。だから僕としてもまず、情報をわかりやすく伝えていくというところから始めようと思ってます。みんな、情報がないとどうしようもないですからね。それがひとつ。あと、選挙の時にマニフェストをチェックします、ってだけじゃなくて、日々政治家が何をやっているのかというのを監視していかなくちゃならない。そういう意味ではなかなかマスコミが伝えてくれない情報を伝える、あなた方(取材クルーを見ながら)のような仕事も大切だと思います。
そして、改革をしていこうという政治家をサポートしていく。国民の側からも「この政治家はがんばっているから応援しよう」という言葉をメールしたり、ツイッターで伝えたりということをやって欲しい。僕は少額でもいいですから、できれば政治献金もして政治家をサポートして欲しいと思ってます。あとは、選挙の時は偉そうなことを言ってるんだけど、選挙が終わるとどっかのグループとくっついちゃって、改革なんてやる気のない政治家を落選させるキャンペーンをやるとか。
結局ね、国民が動かないと何も変わらないんですよね。――メールやツイッターを使って政治家にメッセージを伝えるということをやってる人もいると思うんですが、そんなに効果ないような気も
古賀:政治家の事務所にメールしたり、電話したり、FAX送ったりってのはあまりやられてないんですよ。それとあとは、テレビ局や新聞社に電話・メール・ツイートもやってみて欲しい。例えば「○○新聞の今日のこの記事、ひどいんじゃないの?」とか。そういうのを皆で、直接なげかけていく。直接アクセスしないとダメなんですよ。これは効きますよ。――ご存知かもしれませんが、フジテレビを批判するデモが起きています。この主義主張などはひとまずおいておいて、このデモから派生してテレビ局のスポンサーに対しても抗議をおこなうというやり方をとっていますが、これについてはどう思われますか?
古賀:いや、いいんじゃないですかね。合法的な手段であれば。デモというのは国民に与えられたとても重要な「手段」ですよ。日本ではそういうのをあまりやらない、というのがいけないと思うんですよ。できれば幅広い層、赤ちゃんを抱っこしたお母さんでも参加できるような、そういう活動にしていって欲しいと思いますね。――ネット発のデモにしても、ベビーカーを押したお母さん達が参加していたりするんですよね。何か、今までとは違うな、なんか変化が起きているなと感じます
古賀:例えば僕の本が売れているというのも、これまでのような、一部の堅い本を読む人が読んでいるというわけじゃないんですよ。普段はこういった本をあまり手に取らなかったような人でも読んでいる。できるだけ安くと出版社にはお願いしましたけど、やっぱり高いですし、こんな分厚い本読めるかな、ってこれまでだったら思われていたんじゃないですか。――そうですね、見た目分厚くて、難しそうな本に見えると思います
古賀:それがね、出版社にいっぱいハガキや手紙が来るわけですよ。――書籍でそこまで反響が来るなんてめずらしいのでは
古賀:出版社の人もめずらしいと言ってました。先日「報道ステーション」に出演した後も、たくさんの電話やメールが来たらしいんですよ。――やっぱりなんか今までと違うような
古賀:それはね、みんなが「何とかして欲しい」と思ってるんですよ。「何とかして欲しい」のだけれども、「何だかよくわからない」んだと思うんです。僕の本の感想に「自分たちが何かをしなくちゃいけないということがわかりました」というものがすごく多いんですよ。そしてみなさん、本を買ったり感想を送ることで改革を進めようとする官僚をサポートしようという気持ちを持ってくれている人が多い気がします。■政治家にはならない
――辞めた後のことなんですけども、企業から声はかかっていないんですか?
古賀:今、僕を採用して、霞ヶ関から色んな意地悪をされるリスクってのは非常に大きいですからね。昔は、まぁこれはリップサービスかもしれませんが、「いつでもうちへ来てくださいね」という会社はたくさんあったんですけど、最近、一切連絡ないですよね。――(笑)わかりやすいですね
古賀:友達だと思われたくない、みたいな感じですかね。――企業からの声がけは、まったくない?
古賀:企業からはまったくないですね。国民の皆さんからは「がんばってください」という声は山のように頂いているんですけれども。――来たのは、大阪府知事への出馬要請ぐらいですか
古賀:大阪府知事への立候補に関しては非常に熱心に誘っていただきました。ありがたいことですけども。――政治家になるという道は選択されないんですか?
古賀:政治家になる、ってことはないですね。……政治家は、そもそもなるのが大変ですよね。政治家になるためにまず物凄いエネルギーを使わなくちゃいけないし、おそらくお金もかかるでしょう。それから、政治家になったらなったで、すぐ次の選挙のことを考えなくちゃいけない。そうするとつまり――政治家の先生達には恐縮ですが――無駄な作業が大きすぎる。それをやるぐらいだったら、既に政治家だったり、これから政治家になっておもいっきり頑張れそうな人と政策を作って、上げていく方がはるかに効率的です。「分業」ですね。――具体的にこの政治家、というイメージはあるんですか
古賀:んー、こっちも選びますけど、向こうも選ぶわけですからね。……(やや小声で)もうちょっとみんな頑張って欲しいなと思うわけなんだけども(笑)。――こういう、政策をつくって政治家と具体化していく仕事って、これまで日本じゃ殆どなかったときいてるんですが
古賀:まぁでも、原英史さん、高橋洋一さん、そして少し形は違うかもしれませんが岸博幸さんが取り組んでおられる形ですね。――そういう形ができつつあるということですか
古賀:うん、できつつあるね。僕が失敗事例にならなきゃいいけど(笑)。――がんばってください!
[取材協力:東京プレスクラブ]