■お家芸となったリーグ途中での選手補強

平日夜に松本山雅FCのホームゲームでリーグ公式戦が開催された記憶は、筆者の中にはない。8月28日に天皇杯長野県予選決勝戦、9月3日に天皇杯一回戦がそれぞれアルウィンで開催される。その“天皇杯ウィーク”の真ん中に、JFL前期第5節、FC琉球戦が開催された。震災によりリーグは1ヶ月の順延を余儀なくされ、その順延分をこれから消化していくことになる。特に厳しさを増すのは11月。リーグ公式戦だけで6試合、天皇杯も3回戦まで勝ち上がったとすればもう1試合増える。

松本山雅はこの移籍ウィンドウの開いた7月下旬から8月上旬にかけ、イ・ジョンミン(福岡)、船山貴之(栃木)、飯尾和也(横浜FC)の3人の新戦力をチームに迎えた。そして8月24日には1ヶ月間練習生としてチームに帯同してきた大橋正博(Kリーグ・江原FC)も獲得。計4人の補強に成功した。リーグ途中での選手補強は“お家芸”。2009シーズンには鐡戸裕史を、2010シーズンには飯田真輝、弦巻健人を獲得している。彼らの獲得がシーズン後半における反撃攻勢の一端を担っただけに、この4人が稀に見る混戦となっている今シーズンのJFLを抜け出し、勝利を得るためのキーマンとなってくることは間違いない。特にアタッカーの船山と大橋に期待する部分は大きく、平日夜にも関わらず、6228人の観客が集まった。

■FC琉球戦に見る新しい布陣

松本山雅のシステムは、4-5-1。木島良輔の1トップに、大橋のトップ下。左右サイドハーフには船山と木島徹也。それぞれが試合の展開に応じて、ポジションチェンジを繰り返している。ボランチの弦巻もパスセンスに溢れた選手で、加藤善之監督の「ディフェンスラインの裏を突いていく」狙いを強く感じる布陣だ。対する琉球はボランチ2枚の4-4-2。一時はリーグ首位を走っていた好チームだが、後期に入り順位を落としている。

試合開始後は両チーム共に相手の出方を伺うような穏やかな展開だった。が、徐々に主導権が松本に移るに従い、現在の琉球が調子を落としている理由が分かって来た。中盤から前の選手の動きが鈍く、ボールを持っても回すことが出来ずに2トップにロングボールを放り込むサッカーになっていた。当然、空中戦には圧倒的な強さを誇る飯田がディフェンスラインに仁王立ちしており、競り合いにも殆ど完勝。時折ヒヤリとする場面もあったものの、それも単発の攻撃に終わっておりチームとしての怖さは見られない。一方でディフェンスラインは奮闘しており、特にGK森本悠馬の活躍が素晴らしく、多くの際どいシュートを防ぎ、守護神としてゴール前に君臨していた。前半は多くのチャンスを作り、得点の匂いもしていたのだが、なかなかゴールを割る事が出来ない。

■先制点のきっかけを作った大橋

しかし前半終了間際に喉から手の出来るほど欲しかった先制点を得る。きっかけを作ったのは大橋だ。右サイドでボールを受けた大橋がゴール前で構えていた木島良輔にドンピシャのパスを送ると、ダイレクトで詰めていた弦巻に渡し、更に左から駆け上がっていた船山に低い横パスを出し、それをヘッドで確実に決める――。筆者が何度か書いてきたように、松本の攻撃は個人技による打開が多く、これまでは点が線に繋がらずにチャンスを逸する展開があまりにも多かった。個人能力で相手をねじ伏せられるうちは上手くいくが、対戦相手に研究されると次の攻め手に欠ける。これでは長いリーグを戦い抜くことは難しい。しかしこの試合では、まだまだ連携面などに不安はあったものの、細かいパスを繋ぎながら相手ディフェンスラインを寸断していこうという意図が見えた。

筆者が特に好印象を抱いたのが、パスが繋がったことだけでなく、二列目以下の中盤選手が大胆にゴール前に詰めていたことである。このゴールシーンでは、ボールを受けた弦巻には、『自分でシュートを打つ』、『左からゴール前に詰めていた船山にパス』、『木島良輔に再度戻す』の3つの選択肢が存在していたことになる。今まで前線の選手が相手ディフェンダーに囲まれ孤立し、強引にシュートを打つのみだったことを考えると、バイタルエリアでの選択肢の多かったこのゴールは率直に喜ばしい。結果的には得点はこの1点のみに終わったのは修正点だが、後半も主導権を離すことなく繋ぐサッカーを見せ続けた。