クリスティーズ香港のオークションに出展されたパブロ・ピカソの絵。美術館とは違って間近で鑑賞できるのは超うれしい(写真:筆者撮影)

ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。先日、私は香港で行われた世界で最も有名なオークションハウス、クリスティーズのオークションに前夜祭から参加しました。このオークションでは、宋の時代の詩人、書家である蘇軾(Su Shi)の水墨画がなんと、東洋美術史上最高額の約68億円で落札され、大きな話題になりました。

ピカソ、モネ、ゴッホ…世界一の香港オークション

ボストン・コンサルティング・グループの世界の家計金融資産に関する調査(2015)によると、超富裕層の割合が多い国は、1位香港(10万世帯当たり15.3世帯)、2位シンガポール(同14.3世帯)、3位オーストラリア(同12.0世帯)という順番になっています。国土が狭く、街中は庶民的な香港ですが、これだけ多くの超富裕層が生活しているのです。

実は、バブル真っ盛りの1980年代、オークション市場が最も活発だったのは日本でした。1987年には安田火災海上保険(現損保ジャパン日本興亜)がフィンセント・ファン・ゴッホの『ひまわり』を50億円以上の金額で落札し、当時は大きな話題となりました。後から振り返れば、楽々とあのお金を出せたのはバブル時代だったからでしょう。

しかし、バブル崩壊以降はチャイナマネーの影響もあり、世界でいちばん大きい市場は香港に完全に移っています。

「テンミリオン(わかりやすく1ドル=100円で計算すると約10億円)……テンミリオンファイブ(同10億5000万円)……イレブンミリオン(同11億円)」……、と熟練した競売吏(オークショニア)が、僧侶のお経のように入札価格を読み上げていきます。そんなクリスティーズで最大規模の香港オークションは、年2回(例年、5月と11月)ほど行われ、計6日間で会場には約5万人が来場します。

すべての作品が展示される前夜祭には、世界一大きなサファイア、見たことがないほどの数があるエルメスのバーキンコレクション(その多くはクロコダイルなどのレア物や高級品)、パブロ・ピカソ、クロード・モネやフィンセント・ファン・ゴッホなどの有名絵画が勢ぞろいしています。


絵画や世界一大きいサファイアなどのほかに、珍しいクロコダイルのエルメスのバーキンも出品されている(写真:筆者撮影)

しかも、美術館と違って絵画の前にロープがかけられることもなく、ある意味では美術館よりもたくさんの芸術品、工芸品を間近で鑑賞できるので、大興奮でした。

サザビーズやクリスティーズのオークションは、超富裕層だけの世界で、自分には関係ないと思っている人も多いことでしょう。実は、私たちにとっても、まったく手が届かないものではないのです。たとえばクリスティーズのオークションの場合は高いものばかりではなく、下は約2万円から上は数百億円まで幅広く取りそろえているようです。世界10都市で1年間に約80回以上のカテゴリーで350回以上オークションが行われ、昨年の売り上げは過去最高の7兆円だったようです。

昨年の落札記録によると、絵画で約508億円、不動産で約406億円、宝石で約80億円、時計で約20億円、バッグで約4000万円、ワインで約3000万円(1ダース)などといった記録が残っています。最近は、ヴィンテージの時計やワインなどに人気が集まっているようですが、さすがに超高価なワインをがぶ飲みするために落札する人はいないようです。

ここで不動産と聞いて、「オークションで不動産を落札?」と意外に思う人がいるかもしれません。しかし不動産も「一点物」なので、宝石と同じように価値を感じている富裕層が多いのです。希少価値の高いものには、驚くような高価格がつくようです。

オークションにかける「3つのタイミング」とは

では、こうしたものを、いったいどんな人がどういうタイミングで出品しているのでしょうか。当然、出品者の多くは、世界中にいる資産家たちです。彼らが大切にしてきたコレクションをオークションにかけるタイミングは、人生で3つあるそうです。

1つは本人が亡くなったときです。どんなお金持ちも、墓場まではコレクションを持っていくことはできません。家族が処分して換金するようです。

2つ目は借金ができたときです。お金持ちでも事業で失敗して、場合によっては借金を作ることもまれではありません。そんなときは、資産を売却することで現金を作るようです。

そして、3つ目が離婚をするときです。インドネシアの大富豪と離婚して、一生使いきれないくらいの慰謝料をもらったというシンガポールの女性もいます。海外では日本と違って、慰謝料が数百億円など天文学的な数字になることもあるようです。これらの3つが資産を売却にかける主なタイミングなのです。


リッチな印象な香港ですが、実際、物価は非常に高くなっています。物価が高いと言われるシンガポールで暮らす私ですら、高いと感じるほどです。シンガポールと比較しても1.5倍ほど、日本と比較すると2倍以上物価が高いように感じました。

たとえば、夜遅くにお腹がすいたので、ホテルのバーでフィッシュ&チップスを頼んだところ3000円以上もしました。

5時間のベビーシッター料金が2万円超と驚きの値段でした。またシェアリングタクシーの運転手もメルセデス・ベンツやアウディに乗り、1時間で3000円程度副収入があると言います。富裕層が雇っているドライバーの1カ月の給料は20万円以上になるそうです。

当然、不動産価格も高騰していて、人気の1等地の高級マンションの価格は、東京の「3A」といわれる赤坂、麻布、青山をはるかにしのぐほどです。

シャネルに行列を作る人たちの北京語が街中にあふれる

私が滞在した時が、たまたま1年間でいちばんのセール時期であるブラックフライデーにかぶり、バスで中国から買い物に来る一行に頻繁に遭遇しました。エルメス、シャネルの路面店には長蛇の列ができ、ブランドのショッピングバッグをぶら下げて歩いている人が歩道にあふれ、とてもにぎやかでした。

香港と広州を結ぶ高速鉄道が開通し、イミグレーションを含めて1時間程度で行き来することができるようになったのも大きいでしょう。その中で気になったのが、香港の公用語である広東語だけでなく、北京語を話す人が増えてきたことです。

香港はいい意味でも大陸の影響を大きく受け、経済的にこれからさらに豊かに発展していくことが予想されます。オークションでの活発な取引を見れば、その国の経済の力強さがよくわかるものです。