九州「太陽光で発電しすぎ問題」とは何なのか
「ブラックアウト」に陥るのを防ぐための出力制限だというが…(写真はメガソーラー大牟田発電所:ミポリン&Y / PIXTA)
九州電力は10月13・14日、20・21日の週末2週連続で、一部の太陽光発電の一時停止を求める「出力制御」(出力抑制)を実施した。離島以外での出力制御は全国初となる。
これらの日の九州は晴天。太陽光発電が増える一方で、気温低下で電力需要は伸びない見通しだった。電力が余って供給が不安定になり、大規模停電につながるのを防ぐため出力制御に踏み切ったのだ。
このように太陽光発電など再生可能エネルギー発電の弱点は、天候次第で発電量が大きく変動する不安定性だ。再エネ先進国ドイツでは、その対策として、電気を水素(またはメタン)ガスに変えて貯蔵するP2G(Power to Gas)の活用が始まっている。
ドイツにおけるP2Gの取り組みについて、『日本の国家戦略「水素エネルギー」で飛躍するビジネス』の著者・西脇文男氏がリポートする。
再エネ主力電源化には、発電の不安定性克服がカギ
政府は、今年7月に閣議決定した第5次エネルギー基本計画で、再生可能エネルギーを「主力電源化」する方針を打ち出した。
再エネを主力電源として拡大していくうえで、問題となるのが発電の不安定性だ。
電力は作り貯めができない。発電と消費はつねに同時同量でなければならず、このバランスが崩れると供給する電力の品質を損ない、最悪の場合停電の可能性もある。
電力会社は、消費量に合わせて小刻みに発電量を調節してバランスをとっている。ここに、変動の激しい太陽光発電や風力発電が大量に入ってくると、バランス調節ができなくなる。
今回の「出力制御」は、バランス維持のためには太陽光発電の一時停止が避けられないことを示すものだ。
今後再エネ発電が増えてくると、こうした事態が多発することも想定される。これでは、再エネ発電の導入にブレーキが掛かってしまう。とても「主力電源」にはなれない。
不安定な再エネ電力を安定電源化する工夫が必要だ。送電網の拡充・広域化、蓄電池の積極的活用、そのためのコスト低減も必要だ。
そうした中、余剰電力を使って水を電気分解し、水素に変えてエネルギー貯蔵する「P2G」システムが注目されている。水素に変換することで、大量の電力を長期間貯蔵することができる(参考:「再エネ発電の不安定さは『水素』でカバーせよ」)
P2Gの取り組みで先行しているのはドイツだ。
ドイツは、総電力消費量に占める再エネ電力の割合を、2030年に50%、2050年までに80%とする意欲的な目標を掲げ、再エネ発電を着実に拡大している。現在でも30%を超え、大量の余剰電力発生が問題となっているが、80%になった場合、再エネ発電が需要を上回る時間帯がほぼ毎日出現する。その対策として、国を挙げてP2Gに取り組んでおり、現在、国内で30を超えるP2G実証プロジェクトが実施されている。
ドイツのP2Gプロジェクトは、余剰電力を水素で貯蔵し再度電力に戻すという基本形だけでなく、水素のいろいろな用途に対応した多様な技術実証が行われている。
最も多いのは天然ガスグリッドへの注入だ。ドイツは、国内に天然ガスパイプラインが張り巡らされている。再び電気に戻すより、水素のままパイプラインに注入し、混合ガスとして熱利用したほうが効率がよいという発想だ。パイプラインは巨大なガスタンクでもあるので、貯蔵と輸送の両面でメリットがある。
ドイツの電力大手E.ONが手掛けるプロジェクトでは、風力発電の電力で製造した水素を最大10%まで天然ガスに混合し、「E.ON WindGas」の商標名で販売している。
メタン化(メタネーション)プロジェクトも多く見られる。再エネ由来の水素をCO2と反応させてメタンガスを製造し、パイプラインに注入する。水素ガスの場合、天然ガスに混入できる割合は最大10%程度だが、メタンガスならパイプラインへの注入に量的制約はない。メタンガスは燃焼時にCO2を排出するが、もともと大気中のCO2を原料としているので、差し引きCO2の排出はゼロだ(カーボンニュートラル)。
アウディやバイエルなどのほか、日本企業も参画
自動車メーカーアウディの「e-gasプロジェクト」は、風力発電由来の水素と近隣のバイオガスプラントが排出するCO2からメタンガスを製造し、アウディが市販する天然ガス自動車の燃料として供給するものだ。なお、このプロジェクトの共同参画会社の1つであるエトガス社(P2Gシステムの開発・販売)を、日立造船グループが2016年に資産買収した。この結果、日本企業が間接的にドイツの国家プロジェクト参加企業となっている。
水素は、化学原料や還元剤として工業用途にも使われるが、そうした用途に再エネ由来水素を利用するプロジェクトも進められている。
化学・製薬大手バイエルの「CO2RRECTプロジェクト」では、再エネ由来水素とCO2を使って、プラスチック製品の元となる化学原料を製造する。化石資源を使わずに石油化学製品を人工的に作りだす試みだ。
ドイツのシーメンスとオーストリアの鉄鋼メーカー、フェストアルピーネが進めるプロジェクトは、製鉄プロセスに再エネ由来水素を使うものだ。通常のプロセスでは、コークスを使って鉄鉱石に含まれる酸素を除去(還元)するが、コークスの製造および還元工程で大量のCO2を排出する。これを水素還元に置き換えるもので、「H2Futureプロジェクト」と名付けられている。
こうした先進的な取り組みは、再エネ発電の不安定対策というだけでなく、再エネ水素の製造および活用に新たな道を開くものでもある。
わが国でも、P2G実証プロジェクトが始まっている。ドイツとは天然ガスパイプライン網の有無など状況は異なるが、参考となる点は少なくない。