組織におけるボリュームゾーン世代が感じる閉塞感(写真:IYO/PIXTA)

男女別に年齢ごとの人口をグラフで表す「人口ピラミッド」。日本では総務省が推計していますが、その形はもはやピラミッドとは呼べないほどいびつな形をしています。


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スーダン、インドなど発展中の国は14歳以下の若年層の割合が高い一方、65歳以上の高齢者が少ないため、すそ野が大きく広がる富士山型。これからを担う若者が多いという点で理想的です。

一方で日本。先進国の典型とされる「釣り鐘型」がさらに変化した「壺型」です。若年層の人口が少なく、高齢者の人口が多い形です。筆者が子どもの頃に学校で学んだ人口ピラミッドとの大きな違いに驚きを感じます。30年前は富士山型から釣り鐘型に変化していく過程にあったのですが、“釣り鐘”を通り越していまや“壺”なのです。

ピラミッドを世代別にじっくり眺めてみましょう。やや、衝撃が走ります。40代前半(40〜44歳)と後半(45〜49歳)、60代後半(65〜69歳)は人口が900万人ほどと、圧倒的な「ボリュームゾーン」です。一方、10代後半(15〜19歳)、20代前半(20〜24歳)、20代後半(25〜29歳)などの若者は、それぞれ600万人台しかいません。

ちなみにゼロ〜4歳になると400万人台まで落ち込みます。ボリュームゾーンの世代の半分以下です。まさに少子高齢化ですが、世代間のバランスがいびつなことはさまざまな問題を引き起こします。ボリュームゾーン世代は職場においても課題に直面しがちです。

大量採用世代が遭遇する課題

景気がよく、人手不足感のあった60〜70代の世代は最近の世代と比較すれば、すべてボリュームゾーンといえるかもしれません。まさに高度経済成長の名残による大量採用世代。ただ、この世代は会社が成長していたため、多くの人が自然な流れの中で管理職になることができ、「誰が早く出世するか」という競争が個々の課題意識でした。出世レースによる勝ち負けが題材になるドラマが数多くつくられたのもこの時代でした。

それ以降になると少々状況は変わります。景気が悪化して採用が抑制される時期が続き、一時的な回復期に大量採用が起きました。具体的には景気がよかったバブル世代の50代や、就職氷河期が終結した2006年前後に新卒で入社した世代です。同世代が比較的職場に多い状況で何年かが経過して、いくつかの課題に遭遇することとなりました。それが、

・ポスト不足
・昇給停滞

です。

取材した食品メーカーに勤務している50代のSさんは、同期入社がその会社の歴史上、過去最大規模だったとのこと。通常は30人程度の新規採用なのですが、その年の採用は100人を超えたため、社内の会議室で収まっていた導入研修が外部会場に変更。その手配でトラブルが起きて人事部がバタバタしていたことを今でも覚えているといいます。

ただ実際に自分がその影響を直接的に受けたのは、それから数年後のことでした。通常であれば同期全員が昇格できるはずの主任に、なれない人が何人も出たのです。さらに管理職になる時期が遅れ、管理職になれないまま子会社に出向となった同期が30代で出たといいます。その会社では、子会社への出向は40代までないのが社内での暗黙のルールだったのですが、

「そうしないと、いつまで経ってもこの世代で管理職への昇進率が低いままになる」

と変更されたのです。こうした一連の施策への失望は極めて大きかったといいます。

管理職のポストが足りない

筆者も会社員時代に、こうした閉塞感を体験したことがあります。かつて勤務していたリクルート社では自分の世代(50代前半)がいちばんのボリュームソーンでした。当時設立からまだ浅い会社だったこともあるのですが、同世代の社員が全社員の半数を超えるという、極端な状況。職場には社会人1〜3年目の社員があふれていました。

ところが、その後に会社のおかれた環境が変わり、新規採用に急ブレーキがかかることに。その期間が長く続き、筆者が30代になったときには、自分の世代の人数の多さがひときわ目立つ状態でした。

もともとは管理職への登用が早いことで有名な会社であったのですが、こうなってしまうと、登用したくても管理職のポストが足りないのです。先輩たちが管理職に登用された年次になっても、登用はゼロのまま。ついには管理職への登用を増やすために管理職予備軍に対する新たな肩書を付与してお茶を濁すような施策が行われました。

この施策により、同世代から管理職のような立場になる人は出ましたが、あくまで「管理職のようなもの」でしかなく、「出世できない」という閉塞感が解消されるまでには至りません。この会社に長くいても将来の自分の立場は厳しいかもしれない……と考えて退職する同世代が増えたのもこの時期でした。

同世代が多いリクルート社に閉塞感を感じた人が、それを感じない会社はどこか? それが組織内に同世代の人が少ない、ベンチャー企業への転職や、自身での起業であったと筆者は認識しています。こうして、リクルートは人材輩出企業となり、元リクルート社員がいたるところで活動しているわけですが、それぞれが活路を求めて動き、新たな活躍の機会が生まれたことは、望ましいことであったと思います。

ただ、閉塞感があるからといって、会社を辞めて転職したり起業したりする……というのはそう簡単なことではありません。その会社や仕事に愛着があり、辞めたくない人も当然多くいるでしょう。では、いったいどうしたらいいのでしょうか?

筆者は同様の課題が20代にも迫っていると考えます。今、各社が人手不足で大量採用が続いており、すでに組織におけるボリュームゾーン世代になっているケースも多いからです。

この大量採用が永遠に続くことはありえません。近いうちに減少に向かう会社が相当増えることでしょう。そのときに、同期が多すぎることでポストがないなどという閉塞感を感じる状況になる可能性は低くないと思います。その状況を見越して、準備を各自がしておくべきでしょう。過去の歴史を振り返っても、ポスト不足になったときに会社が何かしてくれるとは限らない、むしろその可能性は低いためです。

自分が活躍できる場所はどこにあるのか

20〜60代の会社員に対して、「同期がいて良かったと思ったことはありますか?」と質問した調査で、「はい」と答えた人が約75%もいました。同期の存在自体はポジティブにとらえる人が多いようです。

確かに、同世代が同じ職場にいると、安心感があり、心地いいかもしれません。しかし、ここまで書いてきたような「ボリュームゾーン世代」問題により、将来的には閉塞感を感じる可能性が高いと思います。

その問題に苦しまないためにも、3年後ないしは5年後の自分に対するキャリアプランを考えておくことが重要でしょう。社内ないし社外において自分が活躍できる場はどこにあるのか? 好きなことややりたいことに固執しすぎることなく、冷静に自己分析をして、キャリア戦略を立てたいものです。

よく、外部環境の変化から自分のキャリアを描く人がいますが、それに加えて職場環境の変化もとらえてみてほしいのです。ボリュームゾーン世代の一員として、はたして自分が活躍できる場所はどこにあるのか。それを考えることは無駄ではないはずです。

ちなみに筆者の考える活躍とは社会人としてそれなりに稼ぎつつ、自分の果たすべき役割を担える状態になること。転職して自分に合う職場を新たに探すのか。あるいは自らが商売を始めるのか? 選択肢を多めに考えてみるべきでしょう。そのうえで自分が果たすべき役割が担えそうな道を探すのです。

世間的に広がる適職診断などで測るのもひとつの方法かもしれませんが、信頼できる関係者(家族・友人)に「自分に合う仕事は何だと思うか?」と質問をぶつけてみるのも効果的です。

筆者も若い頃に質問をしてみたことがあります。当時は営業職として職場でそれなりの成績を上げていましたが、社外の信頼できる友人に質問をぶつけると「会社を経営するべき」という回答が返ってきました。その回答が自分のキャリアプランに大きく影響をしたのは間違いありません。

同じ職場の同僚に聞けば「営業で頑張ればいい」と、現状維持プラスその延長上で、との回答しか返ってこなかったと思います。職場の同世代がボリュームゾーンであるがゆえに、その大きなうねりに流されないような「選択に幅を持った」「客観的で」「将来を見据えた」視点をもってほしいと願います。