「出戻り希望」の人たちを再雇用する会社が増えているようです(写真:Nikada/iStock)

「隣の芝生は青い」は勘違いだった――。転職したばかりなのに、前の職場を懐かしむ人。後悔して、前の会社への出戻りを画策する人。そんな「出戻り希望」の人たちを再雇用する会社が増えているようです。


この連載の一覧はこちら

「人事のミカタ」が再雇用=出戻り社員の受け入れ実績について調査したところ、72%の企業が「再雇用したことがある」と回答。2016年の調査に比べ5ポイント増加しています。

筆者が取材する企業でも、再雇用を増やす会社が増えていると感じます。こうした背景からでしょうか。退職した社員とのつながりを“継続”するための組織づくりに力を入れる企業が増えています。

インターネット広告大手のセプテーニ・ホールディングスやヤフーでは、千人規模の卒業生ネットワークを構築しているとのこと。このネットワークには再雇用の可能性につなげる狙いもあるようです。

こうした卒業生は「アルムナイ」は呼ばれ、注目のキーワードになりつつあります。こうした再雇用の取り組みは、人手不足の貴重な解決策のひとつではないでしょうか。今回の記事では、有効な活用方法を考えてみたいと思います。

批判的な意見を口にしていたSさん

筆者は前職リクルート時代、退職した部下から「出戻りたい」と連絡を受けたことが何度かあります。そのうちの1人が取引先のベンチャーに転職したSさん。当時の職場に閉塞感を感じていたようで、よく批判的な意見を口にしていました。たとえば、

「この会社は意外にも経営との距離が遠い。もっと、若手社員が自分の意見を発言する場がつくれないのでしょうか?」

など。筆者は、前職の職場は比較的風通しがよく、経営に対して意見を言える風土は十分にあったと記憶しています。ただ、Sさんが担当していたベンチャー企業は経営者と若手社員が意見を言い合いながらビジネスをつくりだしている職場環境でした。そのため、それと比較して不十分だと感じたのかもしれません。

ついには、そのベンチャー企業に転職するとの報告が筆者にありました。Sさんには転職後、経営企画室室長という肩書が用意されていました。

「今より風通しのいい職場で活躍できることを楽しみにしています」

と自信満々で転職をしていったのを思い出します。それから1年半が経ったころに、職場の飲み会にSさんが参加してきました。同期社員のお祝いに駆け付けたようですが、顔つきに覇気を感じることができませんでした。以前なら文句は言うものの、仕事には情熱的に取り組む姿勢が印象的な、周囲からも頼りにされる存在でした。そんなSさんが自信をなくしているように見えたのです。そして、筆者のそばに寄ってきて

「ご無沙汰しています。以前は無礼な発言ばかりで失礼いたしました。相談があるのですが、改めて時間をいただけないでしょうか?」

と声をかけてきました。その翌週に面会して話を聞くと、出戻りたいとのことでした。転職したベンチャー企業で経営企画室長になったものの、会社の経営は外からみていたものとはかけ離れていたようです。経営者は社員に対して過酷なマネジメントを強いており、待遇は劣悪。とても成長など見込めない、さらに、自分に対して経営者たちは

「君に意見される筋合いはない。言われたことをやってくれればいい」

と何も口出しできない立場にすぎなかったようです。「どうやら、隣の芝生が青く見えただけで、元の職場環境は恵まれていたようだ。叶うならば、前の職場に戻ってやり直したい」。そう感じたようです。

貴重な戦力となった

筆者はSさんの要望に即答は避け、何回かの面談を重ね、社内での検討を行い、再雇用を決断しました。その後、再雇用されたSさんは以前のような文句を言うことはなく、新たな気持ちで活躍してくれたと記憶しています。また、社内で不満を感じている後輩社員に対して

「隣の芝生は青く見えるかもしれないけど、それほど甘くない。自分自身が実感したから、その失敗談を話してあげるよ」

とたしなめる重要な存在にもなってくれました。

Sさん以外にも何人か再雇用をしましたが、それぞれに貴重な戦力となってくれました。

ちなみに再雇用のきっかけは、本人からの直接応募が半数を超えているとの調査もあります。再雇用したことがある企業がいう理由は「即戦力を求めていたから」「人となりがわかっているため安心だから」という回答が上位を占めます。それに加え、会社にとって貴重な戦力の「復活」として、期待も大きいことでしょう。

ただ、一度は会社に不満を持ったり、何らかの理由で辞めていった人です。本当に再雇用して、社内から反対意見は出ないのでしょうか。

「辞めた会社に戻りたいとは甘えているんじゃないか?」

と、懐疑的な意見が出るのは出戻りたい当人もわかるでしょうから、それなりの覚悟は必要。それを踏まえたうえで、それでも戻りたいと覚悟をし、「手をあげた人」が、再雇用の検討を前進させる1つの条件となるのかもしれません。

「出戻り再雇用」を行う傾向は続いていく

いずれにしても人手不足に困る会社は、その状況を改善するため、「出戻り再雇用」を果敢に行う傾向は続いていくでしょう。

そこで想定されるのが、先述した「アルムナイ」(辞めた社員ネットワーク)の活用。SNSなどを活用して会社の退職者(最近は卒業生とも呼ばれます)のゆるやかなやつながりを通じ、情報交換や交流を行うこと。

アクセンチュアやサイボウズによるネットワークも有名です。そのメンバーに求人や各種イベントの招待、サービスのディスカウント、ビジネスのアイデア共有などの情報が頻繁に提供されているようです。

そうしたネットワークから手があがり、再雇用につながることを、会社は多少なりとも期待しつつ運営がされています。

筆者の前職リクルートも、卒業生のつながりがいくつも存在します。有名なネットワークがMR会。「もとリクルート会」の略称で、ネット上や交流会を通じて、卒業生が情報交換や交流を深めています。

ただし、ここは会社が介在して運営がされているわけではありません。あくまで卒業した後のお互いの仕事やプライベートの充実が目的です。

そうした自主的な、“勝手連”的なものではなく、会社が主催するアルムナイのネットワークの広がりは、これから相当に進んでいくと予想します。会社の取り組みは少しずつ徐々にという状況ですが、新たな採用の手法としても、注目度が上がっていくのは間違いありません。