見えてきた「iPhone SE2」 〜噂は本当か?〜
2018年03月23日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)
2018年も2ヶ月半以上が過ぎ、アップル製品の話題は、iPhone XやHomePodからMacBook(または、MacBook Air)の新型と、暫定的にiPhone SE2と呼ばれているiPhoneの新たなエントリーモデルの噂へとシフトしている。今回は、アップルの世界戦略を強化し、iPhoneの新規需要を喚起する上で、レギュラーモデル以上に重要な役割を果たしていくと考えられるiPhone SE2について考えてみたい。
▷iPhone SE2は、こう「ならない」
まず言及したいのは、最近、巷に流布しているプロトタイプと言われる以下のビデオだ。
「まるで、iPhone X」という触れ込みで記事にされることが多いようだが、これは以下のような点から、個人的にはフェイクと考えている。
・リアカメラがiPhone Xと同じ縦2連のデュアルカメラとなっているが、上位機種との差別化のためにも、エントリーモデルにはまだデュアルカメラは採用しないと思われる。
・フロントにTrueDepthカメラを搭載し、Face IDに対応することを匂わせているが、それはコスト面や量産面で難しい。(iPhone SE2のほうがiPhone Xよりも圧倒的に販売台数が多くなる)
こうした観点から、動画内で操作しているのは、ほぼ間違いなく、iPhone SE風のケース、あるいはハウジングを装着したiPhone Xだろう。単なる話題作り、あるいはアクセス数稼ぎのための偽動画だ。
確かにiPhone SE3か4くらいになれば、このような仕様もありうるかもしれないが、 SEシリーズの狙いは、iPhoneの最新機能を安価に提供することではない。十分こなれた技術や仕様をリーズナブルなモデルに仕立てて、新興国におけるアップルブランドやiPhoneのプレゼンスを高めたり、先進国の価格に敏感なユーザーをアップルのエコシステムに取り込んだり、数世代前のiPhoneユーザーの買い替え需要の受け皿となることに目的がある。
折しも、今度のSEはエントリーモデルではなく、iPhone Xの廉価版という位置付けのiPhone X SE的なものになるとの噂も浮上してきたが、筆者としては、これに懐疑的だ。それでは、ハイエンドのラインアップが複雑化しすぎる上、Androidスマートフォンの台頭著しい新興国における売れ筋にはなりえない。その意味でも、「まるで、iPhone XなiPhone SE2」は、2018年の時点ではありえない製品企画といえる。
▷では、あるべき「iPhone SE2」の姿とは?
逆に、iPhone SE2のあるべき姿は、どのようなものだろうか? それは、iPhone SEのときにもそうだったが、最新のレギュラーモデルと同等の基本処理能力を持ちながら、異なるサイズとデザインを採用して差別化し、カメラなどの機能面のスペックを落とすことでコストを抑えた製品と考えるのが妥当である。
つまり、CPUはiPhone 8/8 Plus/Xと同じX11 Bionicにして最新iOSやARKitの実行に十分な性能を確保しつつ、カメラはiPhone 7レベル(リアカメラの場合、画素数やF値はiPhone 8と同じ1200万画素でF1.8だが、撮像素子のサイズが小さく、4K動画のフレームレートも30fpsで固定)に留めるようなイメージだ。
サイズはSEを踏襲しつつ、デザインはiPhone SE/5/5Sよりも4/4Sに近いものとなるだろう。というのは、iPhone 4/4Sは背面がガラス製で、iPhone 8/8 Plus/Xで採用されたワイヤレス充電機能を組み込むのに適しているからである。
エントリーモデルながらワイヤレス充電への対応が考えられるのは、そのための回路のコストが十分こなれていると思われるのと、そうすることでアクセサリの充電パッドの潜在購買層が増え、増収につなげられる可能性があるためだ。もちろん、より安価なサードパーティ製の充電パッドを選ぶユーザーも居るだろうが、アップルのブランド力を考えると、純正品で揃えたいという人も決して少なくないはずだ。
また、本体のコストを下げつつ、同様の理由でアクセサリ販売につなげられるため、イヤフォンジャックも廃止してくるだろう。ユーザーの認証にはTouch IDが使われ、Apple Watchとの組み合わせではもちろん、iPhone SE2単体でもApple Payをサポートして、このモバイルペイメント規格の一層の普及に貢献させることも、ほぼ間違いない。
iPhone SEは格安SIMとの組み合わせで日本でも大ヒットしたが、このような構成のiPhone SE2も“iPhoneは魅力だが出費は抑えたい”という層に強くアピールするものと思われる。
著者の最近の記事
・アメリカで酷評が相次ぐ「HomePod」、だがアップルはこれでいい! なぜなら……
・「ARKit」で裾野を拡げ、iPhone X / TrueDepth+αで頂点を極めるアップルのAR戦略
・HomePodの先にあるスマートスピーカーの将来像
・「iPhone」「Apple Watch」成功の先に、先駆者アップルが思い描く未来 ― ARデバイスの可能性 ―
・単体でLTE通信が可能となった Apple Watch Series 3 の真の価値
[筆者プロフィール]
大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー)
2018年も2ヶ月半以上が過ぎ、アップル製品の話題は、iPhone XやHomePodからMacBook(または、MacBook Air)の新型と、暫定的にiPhone SE2と呼ばれているiPhoneの新たなエントリーモデルの噂へとシフトしている。今回は、アップルの世界戦略を強化し、iPhoneの新規需要を喚起する上で、レギュラーモデル以上に重要な役割を果たしていくと考えられるiPhone SE2について考えてみたい。
まず言及したいのは、最近、巷に流布しているプロトタイプと言われる以下のビデオだ。
「まるで、iPhone X」という触れ込みで記事にされることが多いようだが、これは以下のような点から、個人的にはフェイクと考えている。
・リアカメラがiPhone Xと同じ縦2連のデュアルカメラとなっているが、上位機種との差別化のためにも、エントリーモデルにはまだデュアルカメラは採用しないと思われる。
・フロントにTrueDepthカメラを搭載し、Face IDに対応することを匂わせているが、それはコスト面や量産面で難しい。(iPhone SE2のほうがiPhone Xよりも圧倒的に販売台数が多くなる)
こうした観点から、動画内で操作しているのは、ほぼ間違いなく、iPhone SE風のケース、あるいはハウジングを装着したiPhone Xだろう。単なる話題作り、あるいはアクセス数稼ぎのための偽動画だ。
確かにiPhone SE3か4くらいになれば、このような仕様もありうるかもしれないが、 SEシリーズの狙いは、iPhoneの最新機能を安価に提供することではない。十分こなれた技術や仕様をリーズナブルなモデルに仕立てて、新興国におけるアップルブランドやiPhoneのプレゼンスを高めたり、先進国の価格に敏感なユーザーをアップルのエコシステムに取り込んだり、数世代前のiPhoneユーザーの買い替え需要の受け皿となることに目的がある。
折しも、今度のSEはエントリーモデルではなく、iPhone Xの廉価版という位置付けのiPhone X SE的なものになるとの噂も浮上してきたが、筆者としては、これに懐疑的だ。それでは、ハイエンドのラインアップが複雑化しすぎる上、Androidスマートフォンの台頭著しい新興国における売れ筋にはなりえない。その意味でも、「まるで、iPhone XなiPhone SE2」は、2018年の時点ではありえない製品企画といえる。
▷では、あるべき「iPhone SE2」の姿とは?
逆に、iPhone SE2のあるべき姿は、どのようなものだろうか? それは、iPhone SEのときにもそうだったが、最新のレギュラーモデルと同等の基本処理能力を持ちながら、異なるサイズとデザインを採用して差別化し、カメラなどの機能面のスペックを落とすことでコストを抑えた製品と考えるのが妥当である。
つまり、CPUはiPhone 8/8 Plus/Xと同じX11 Bionicにして最新iOSやARKitの実行に十分な性能を確保しつつ、カメラはiPhone 7レベル(リアカメラの場合、画素数やF値はiPhone 8と同じ1200万画素でF1.8だが、撮像素子のサイズが小さく、4K動画のフレームレートも30fpsで固定)に留めるようなイメージだ。
サイズはSEを踏襲しつつ、デザインはiPhone SE/5/5Sよりも4/4Sに近いものとなるだろう。というのは、iPhone 4/4Sは背面がガラス製で、iPhone 8/8 Plus/Xで採用されたワイヤレス充電機能を組み込むのに適しているからである。
エントリーモデルながらワイヤレス充電への対応が考えられるのは、そのための回路のコストが十分こなれていると思われるのと、そうすることでアクセサリの充電パッドの潜在購買層が増え、増収につなげられる可能性があるためだ。もちろん、より安価なサードパーティ製の充電パッドを選ぶユーザーも居るだろうが、アップルのブランド力を考えると、純正品で揃えたいという人も決して少なくないはずだ。
また、本体のコストを下げつつ、同様の理由でアクセサリ販売につなげられるため、イヤフォンジャックも廃止してくるだろう。ユーザーの認証にはTouch IDが使われ、Apple Watchとの組み合わせではもちろん、iPhone SE2単体でもApple Payをサポートして、このモバイルペイメント規格の一層の普及に貢献させることも、ほぼ間違いない。
iPhone SEは格安SIMとの組み合わせで日本でも大ヒットしたが、このような構成のiPhone SE2も“iPhoneは魅力だが出費は抑えたい”という層に強くアピールするものと思われる。
著者の最近の記事
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[筆者プロフィール]
大谷 和利(おおたに かずとし) ●テクノロジーライター、AssistOnアドバイザー
アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。