2月28日、翌日から発売する今シーズンのチケットを手にするためテント待機をするファンたち(写真:ひろスポ!提供)

ここ数年、異常ともいえるチケット争奪戦が展開されている、広島東洋カープ(以下、カープ)の本拠地・マツダスタジアム。3月1日に発売される公式戦のチケットを求め、約1カ月前から順番待ちの列ができ、おびただしい数のテントが発生する光景は、もはや年中行事となりつつある。

昨年はチケットを求める列の場所取りが始まったのは2月6日だったが、今年はさらに11日早い1月26日に1号テントが出没した。

カープは毎年、2月下旬までに年間シートの販売と、年間シートホルダーとファンクラブ会員対象の優先販売を済ませ、3月1日に一般販売をマツダスタジアムに設けられている窓口で開始する。

マツダスタジアムで開催される、そのシーズン全てのゲームのチケットを開幕前に売りに出す。この方式をとっているのは、12球団中カープと阪神タイガースだけであり、そのほかの10球団はゲーム開催日の概ね1〜2カ月前だ。

ファンクラブ会員も一般発売も狭き門

年間シートは昨年に引き続き、前年からの更新者と球団スポンサーへの割当などで枠がいっぱいになり、ファンクラブ会員も更新しなかった人が出た分の補欠募集のみであるため、ファンクラブ会員になること自体が狭き門となっている。

一般販売が始まった時点で完売している座席種が相当数出るため、一般販売もまた狭き門だ。

このため、3月1日の一般販売目がけて1カ月前から順番待ちの列ができるのだ。正確には、一般販売開始前日の2月末に配布される整理券を求めての列だ。昨年配布された整理券は2000枚。つまり、2000人がテント生活をしながら整理券を求めて並んだが、今年はさらに増えて2600人にまで膨らんだ。

昨今のカープ人気を反映し、ここ数年は発売から間もなく、シーズン全試合の指定席が瞬く間にほぼ完売してしまう事態が続いている。

昨年は発売から2時間で、ビジターパフォーマンス席(カープの対戦相手チームのファン専用の応援席)と内野自由席、それに車いす席を除く全ての指定席が完売した。今年の完売は2日目になってからだったようだ。

カープは1人が買えるチケットの枚数を制限していないので、昨年は窓口で2時間半粘り、500万円以上購入するツワモノも現れた。当然、整理券が高値転売の対象にもなっている。

こうなると否応なく飢餓感を煽られ、いわゆる転売屋だけでなく、観戦目的の人も多めに購入してしまう。

結果、大量のチケットがチケット転売サイトに出品される。年間シートの販売や、ファンクラブ優先枠での販売が始まると同時に出品は始まっており、一般販売が始まると、その数はさらに増えるのが現状だ。

枚数制限をしなかったワケ

この事態に、カープファンは当然に不満を募らせている。今年も比較的早い整理券番号を持った男女がほぼ同時に窓口で長時間粘り、大量のチケットを購入する姿が目撃されている。


窓口で購入する男性、手もとにはチケットの束が見える(写真:カープファン提供)

昨年は1人で何試合分でも、何枚でも購入できたが、今年は5試合に制限した。それでも1人が買える枚数の制限は見送ったので、「こうなることは最初からわかっていたはず」だと、広島を拠点とするスポーツニュースサイト「ひろスポ!」の責任編集者の田辺一球氏は指摘する。

なぜ球団は枚数制限を見送ったのか。球団はチケットが売れずに苦しんだ時代を忘れていない、というのがその理由だ。

チケットが売れない時代にせっせとチケットを買ってくれたのは、町内会や親睦団体など地元のコミュニティだった。開幕前に一括で販売する方法を採用したのは1997年。これも「土日のゲームのチケットを早く確保したい、もしくは売れるものがあるのならさっさと売ってほしい、というファンの要望に応えたもの。1人が買える枚数を制限すると、苦しい時代から支え続けてくれた地元のコミュニティを締め出すことになってしまう」(カープの球団広報、以下球団)。

ただ、今年は「窓口で(どのゲームのどの席を買うか)迷う人が必ず出るので、窓口での携帯電話の使用を禁止したうえで、残席状況がリアルタイムで把握できるシステムを入れたタブレットを球団職員に持たせ、並んでいたファンたちが窓口に立つときには買うチケットが決まっているようにした。発券機も1台増設して3台に増やし、発券効率を高めたので、1日で発券できる枚数が昨年よりも300枚多い1300枚になった。昨年よりも整理券配布枚数は600枚増えたのに、発券にかかった時間は大幅に短縮できた」(球団)という。

「整理券」配布前に「人数確認券」も配布

「大量購入する人には引換券を渡し、別室で受け渡しをする形をとった。その際に氏名、連絡先、購入目的を聞いている。比較的多いのはカープ戦の観戦ツアーに使うという旅行代理店だった」(球団)ともいう。

それでも、2人の男女が窓口で大量購入する姿が目撃され、一方の女性は200万円相当の購入だったと言われている。

これについては、「初期の段階では連絡が徹底しておらず、1人や2人に対して、氏名、連絡先、購入目的を聞かずに売ってしまったケースだと思う。ただ、1人が購入した最高額の200万円が上限で、昨年のような500万円クラスの人はいなかった」(球団)という。

つまり”5試合まで購入という制限は多少なりとも効果があった”ということだろう。

昨年同様、チケット転売サイトには大量の出品が並んでいる。座席を特定できないような出品方法をとっているものもあり、転売目的の購入者の手口も年々高度化している。たとえば、アルバイトを雇って1人が買う枚数を分散させれば目立たなくなる。疑心暗鬼にかられて転売目的でない普通のファンでも多めに買う場合もあるため、余れば出品してしまうのだろう。

今年は割り込み防止目的で、整理券配布前日に「人数確認券」も配布した。ただ、事前に配布時間を告知したので、結局配布時間直前に大量の割り込みが発生。「たまたまトイレや買い物などで列を離れていた人からクレームがつくので、配布時間を告知しないわけにはいかなかった」のだ。

結局割り込み防止にはならなかったが、その分、整理券配布日当日の大量割り込みによる混乱は回避できた。「並んでいる人の傾向など、ある程度の情報収集ができたので、来年に生かしたい」(球団)という。

なおも山積する課題

チケットを販売する球団側は来年以降も開幕前一括販売を継続する意向だ。発売時期を分ければその都度この騒ぎが起きるからだ。シーズン途中で同じ騒動が起きたら対処は不可能だろう。

昨年のクライマックスシリーズのチケット販売を、コンビニなどに外部委託したのも同じ理由による。外部委託すれば、当然球団は委託手数料を負担しなければならない。球団に自力で売り切る力があるのなら、あえて外部委託する必要は本来ないが、ペナントレースが終わっていない段階で球場で販売すれば、収拾がつかなくなると踏んだのだ。


あるグループが内野自由席の場所取りをしている様子(写真:カープファン提供)

さらに、内野自由席のチケットを大量購入し、勝手に「準指定席」として転売しているグループも存在するようだ。開門ダッシュで座席を確保する役、購入者をゲートから座席まで誘導し、転売グループが指定した席に座らせる役など、メンバーそれぞれに役割分担があるとみられている。

球団はこの件については「ファンから聞いてはいる。まだ情報収集段階だが、情報が蓄積できたら分析したうえで対処を考えたい」という。

また、ビジターパフォーマンス席のチケットをカープファンが買い、コンコースで立ち見をする問題を解決するため、今シーズンから巨人戦、阪神戦以外のカードではビジターパフォーマンス席が大幅に縮小される。

ビジター球団の地元ファンからは悪評芬々らしく、手すり一本でカープファンとビジターファンが隣接するリスクも新たに発生する。「警備は大幅に増やす」というが、果たしてどうなるか。カープファンの不満が解消する日はまだまだ先になりそうだ。