日本酒は奥深い

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 いまや海外でも大人気の日本酒。和食とともに世界に誇る日本文化だけど、実は知らないことが多いのでは? 例えば、「甘口」と「辛口」の違いを説明できるだろうか。

地域によって好みが分かれる

 日本酒造文化史の研究家で、昨年10月に『江戸の居酒屋』(洋泉社新書)を刊行した伊藤善資さんに教えてもらった。

日本酒度が物差しとなります。日本酒に含まれるエキスのほとんどは糖分ですが、この糖分が多いと甘口、少ないと辛口になる。つまり、辛口といっても辛い成分が入っているわけではなく、単に糖分がより少ないという意味です」

 “いやあ、この日本酒は辛いなあ”などとツウぶっていたアナタは要注意!

 冷や(常温)と燗に関しては、こんな歴史的経緯がある。かつては燗酒が主流で、江戸っ子は夏でも燗酒を飲んでいたらしい。

「例外は神事などで、神様に捧げる酒やお祭りで飲む酒は冷やでした。ところが、1975年前後に吟醸酒がブームになり、香りを楽しむために冷蔵庫で冷やして飲むスタイルが流行り始めたというわけです。白ワインを冷やして飲むという習慣が広まったという背景も、冷酒人気に寄与したかもしれません」(伊藤さん、以下同)

 また、地域によっても好みが分かれる。

「東北地方はスッキリ、淡麗系。暖かい地方は濃醇甘口系が好まれますね。さらに細かく見ていくと、同じ東北でも青森や福島は甘口タイプ、南国土佐は辛口といった逆転現象も。土地ごとの食べ物との関係が強いのかもしれません」

 作り手にも聞いてみた。

 江戸時代後期から続く喜多酒造(滋賀県東近江市)の喜多麻優子さんは、27歳という若き9代目蔵元候補。

北は日本酒、南は焼酎

 3年前から仕込みの現場にも入っている。

「よく混同されるんですが蔵のオーナーが蔵元、お酒造りの最高責任者が杜氏(とうじ)です。昔は蔵元と杜氏が別の人というのが普通でしたが最近は2つを兼ねるケースも見られます。また、杜氏は出稼ぎスタイルで、酒造期以外は地元で米を作ったり漁をしたりという生活が一般的。でも、最近は社員として通年雇用するパターンも増えています」(喜多さん、以下同)

 同じ米と水を使っていても味が異なる理由についてこう教えてくれた。

「ひとつは酵母。香りのある酵母を使うか酸味のある酵母を使うかで、仕上がりは全然違います。もうひとつは日本酒度、つまり甘口と辛口の作り分け。液体にどのぐらいの比重で糖を残すかという調整です。最近の若い人は軽快な味を好みますね」

 さらに驚くのは、日本酒造りの現場に携わるスタッフの徹底した自己管理。喜多さん以下、『喜楽長』の酒造りに携わるメンバーは、酒造期に納豆は一切食べない。納豆菌は強力なため、お酒を腐造させてしまうからだそう。加えて、風邪をひかないよう万全の対策をとって酒造期を乗り切るという。

 最後に、日本酒文化圏と焼酎文化圏についても触れておこう。

 前出の伊藤さんが言う。

「一般的に北は日本酒、南は焼酎に分類できます。伝統的な乙類焼酎の本場は熊本南部と宮崎、鹿児島、沖縄。この地域には日本酒の蔵はほとんどありません。一方で長崎、佐賀、大分、福岡にも焼酎蔵はありますが、日本酒の蔵も多い。特に福岡には日本酒蔵が50以上あり、日本でも有数。むしろ日本酒どころといってもいいぐらいです」

 日本酒について知れば知るほど味わい方も深くなるもの。とはいえ、自慢げに知識をひけらかして辛口の批判を浴びないように!