今や利用していない人を見つけるのが難しいほど、私たちの生活に深く浸透している「Amazon」。先日、Fire TV内臓の4Kテレビを低価格で発売するなど、その攻勢を緩める気配は一向にありません。Windows95の設計に携わった世界的プログラマー・中島聡さんは自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』の中でAmazonに関する4つの記事を紹介。「Amazonはもはや誰にも捕まえることができない」という指摘に強く共感するとともに「これだけのひとり勝ちはかつて見たことがない」と、現代の黒船Amazonの躍進を畏怖・畏敬の念を滲ませながら分析しています。

私の目に止まった記事

● Amazon built Fire TV directly into a cheap 4K set

AmazonがFire TV内臓の4Kテレビ(43インチ)を$449という低価格で発売した、という報道です。とにかくPrime Memberを増やし、彼らにとって「なくてはならないサービス」を提供することだけを重視しているAmazonとしては、「簡単にAmazonの配信サービスを簡単に楽しめるテレビ」を低価格で発売することは理にかなっています。

私が得た内部情報によると、Appleも何年か前にはApple TV内臓のテレビを発売することを真剣に考慮したそうですが、コモディティ化が進む家電で、Appleが必要とする粗利率(35〜40%)を確保することは難しく、かつ、プロダクトラインを増やすことは在庫リスクを増やすことになるため、断念したそうです。

ここで重要なのは、「なぜAppleに出来ないことがAmazonに出来たのか」を理解することです。

Amazonは、上に書いた通り、Prime Memberを増やすことがビジネスを伸ばす上で何よりも重要なので、極端な話、(Appleと違って)粗利ゼロで販売することが可能なのです。

Amazonがさらに有利なのは、ほとんどが直売であるため、需要の予測が容易で、在庫リスクを最低限に抑えることが可能です。この記事によると、生産は(中国ではなく)サウス・カロライナ州のElement Electronics(「Element Electronics Announces Availability of Amazon Fire TV Edition, the First Smart TV Featuring Alexa」)だそうですが、Amazonの持つ購買力と流通チャンネルを持ってすれば、「注文が入るまではElement Electronicsの在庫」というビジネス・アレンジメントも十分に可能になり、そうなると文字通りの「在庫リスクゼロ、粗利ゼロ」での低価格販売が可能になります。

ちなみに、これは、SamsungやSonyなどのテレビメーカーにとっても大きな打撃になる可能性が大きいと思います。1年後には、米国で販売されているテレビの4分の1がAmazonテレビ、という状況になっても、全く不思議はありません。

● Amazon Echo Is Poised To Change Business Like The iPhone

10年前に登場したiPhoneは、携帯電話機のマーケットに大変化をもたらしただけではなく、私たちのライフスタイルを大きく変えてしまいましたが、Amazon Echoの登場は、同じような規模の大変革の始まりかもしれない、という記事です。

実際に「スマート・スピーカー」の市場の伸びを見ると、(一人に一台ではなく)一家に一台なデバイスであるにも関わらず、iPhoneと同様の立ち上がりをしているそうです。

確かに素晴らしい立ち上がりで、ポテンシャルもあるとは思いますが、私自身が数ヶ月間使った感想は「まだまだ」です。役に立つ機能は限定されているし、完成度も発売当初のiPhoneと比べるとまだまだです。iPhoneの場合には、使った瞬間に「なくてはならないデバイス」になりましたが、Echoは明日なくなっても全く困りません。

● Why Amazon is eating the world

Amazonの強さについて書かれた文章は、これまでたくさん読みましたが、この文章は、私がこれまで漠然と感じならが上手に説明できなかったことを、非常に端的に説明してくれています。

Amazonは、書籍のオンライン販売からスタートした会社ですが、今は化粧品から家電まであらゆるものを売るようになっています。それに加え、流通ネットワークを全世界に張りめぐらせることにより、世界のどこにでも1〜2日で商品を届けられるようになっています。

つまり、Amazonは「商品のラインナップを増やす」という横方向の成長だけでなく、流通・在庫・宅配という縦方向へも成長しているのです。

この手の垂直統合型のビジネスは、他の業界でも見られますが、Amazonが特徴的なのは、それぞれのレイヤーのサービスをことごとく外販している点です。AWS(Amazon Web Service)が典型的な例ですが、流通・在庫管理・小売販売などの各レイヤーもサービスとして外販し、競争に晒しているのです。

筆者(Zack Kanter)は、この各レイヤーをサービスとして外販して競争に晒していることこそ、Amazonの強さだと指摘してます。垂直統合型のビジネスは、「内部調達」の甘えによる非効率化(=コスト増)がしばしば起こりますが(日本の大手家電メーカーでは、頻繁に起こっています)、Amazonは各レイヤーを競争に晒すことにより無駄を省き、結果として、「誰よりも早く安く」商品を届ける力を身につけたのです。

筆者は、Amazonはもはやuncatchable(誰にも捕まえることができない)だと指摘しますが、私も強くそう思います。これまで私が見てきた企業は、どこでも、大きくなればなるほど、無駄は増えるし、働く人たちも保守的になって行きます。Amazonは、各部門を常に競争に晒すことにより、そんな大企業病に陥ることを上手に避けているのです。

● Understand The Retail Apocalypse With One Giant Chart

今週は Amazon 関連の記事ばかりが目につきましたが、その極め付けが、この記事に貼り付けられている下のグラフです。米国の小売業者の過去30年ほどの売り上げの推移を表したグラフですが、これを見るとAmazonのひとり勝ちであることが良くわかります。

それも単に売り上げがNo.1であるだけでなく、一番になった後も成長率が際立って高いという点が特徴で、こんなひとり勝ち状態は他に見たことがありません。

image by: Zapp2Photo / Shutterstock.com

 

『週刊 Life is beautiful』

著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)

マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

出典元:まぐまぐニュース!