fullsizeoutput_f13
 これまで、これと言った特筆すべき作戦を見せたことがなかったハリルホジッチ。だが、オーストラリア戦では本田圭佑の1トップという新しい手を披露した。原因は岡崎の体調不良にある。偶然の産物。結果オーライながら、原口元気(左)、小林悠(右)の両ウイングが、相手の両サイドバック(左・ブラッド・スミス、右・マクガワン)の攻め上がりに蓋をする役割を、忠実にこなしたことが、イラク戦、UAE戦のようなバタバタした姿を、強敵相手に見せなかった大きな理由だ。
 
 真ん中にポジションを取りたがる本田圭佑が、小林のポジション(右)で出場していたら、縦への推進力が高いスミスの攻撃参加を許していたに違いない。
 
 しかし、原口と小林には、それとは異なる対処法もあった。相手のサイドバックが攻撃参加を仕掛けてきた際、一緒に引かず、高い位置に待機して構えるポジション取りだ。前者を忠実な作戦だとすれば、後者は大胆な作戦。攻撃的な作戦と言ってもいい。
 
 大きなリスクを抱えた作戦だ。しかし、相手にも同じくらいリスクがある。原口、小林を後ろに残したまま、両サイドバックは攻め上がるわけだ。その間に自軍がボールを奪われれば、原口、小林はフリーでボールを受けられる態勢になる。

 どちらのリスクが高いか。ピンチに直結する可能性が高いかと言えば、サイドバックが、ウイングを後ろに残したまま攻め上がる行為だ。にもかかわらず、日本はそれをオーストラリアに仕向けることができなかった。ほぼ1回も。

 下がるか、上がるか。このサイドバックと両ウイングの駆け引きは、サッカーを観戦する上での要チェックポイントだ。両ウイングがサイドバックの攻撃参加に毎回必ず、付いて下がればいいというモノではない。

 様子見ぐらいはするべきだ。最初に相手のサイドバックが上がったとき、原口、小林は、それにあえて付いて下がらない。そこで、相手のサイドバックがどんな対応をするか。牽制してみるのだ。それによってその後、相手の攻撃参加の機会が減ればしめたモノ。お構いなく強気にガンガン攻め上がってくれば、超攻撃的な喧嘩腰の姿勢で臨んできていることが判明する。

 相手のサイドバックの動きは、おそらくベンチの指示に基づくものだ。独自の判断ではないはずだ。それを受けての動きで、相手の監督の思惑は判明する。

 それをせずに、勝手に自重しているところに、工夫のなさというか、日本の非攻撃的精神を見た気がした。原口と小林が、相手の両サイドバックにプレッシャーを掛ける行為は、概念的に攻撃的サッカーの範疇に収まるサッカーだ。しかし、その枠内においては守備的だった。忠実、慎重といえば聞こえはいいが、ボール支配率で大きな差をつけられ、一方的にゲームをコントロールされる姿はあまりに痛々しい。

 日本サッカーのアイデンティティーを、すっかり失ったようなサッカーを見せられると、よく耐えた! と、拍手を送りたくなる気にはなれない。全く別のチームに変身してしまったようでさえある。

 しかも、オーストラリアの布陣は中盤ダイヤモンド型の4−4−2だ。細かく言えば4−1−2−1−2。サイドアタッカーが、両サイド各1人しかいない布陣だ。対する日本のサイドアタッカーは各2人。原口、小林の後ろには槙野智章、酒井高徳が控えている。数的優位な状況にあるわけだ。オーストラリアのサイドバックは、本来なら攻撃参加を控え目にするのが常道。サイドでの攻防という視点に立てば、日本は最初から優位に立っていたのだ。

 にもかかわらず、ハリルホジッチは両ウイングに「必ず下がれ」の指示を出した。別の原稿にも書いたけれど、2016年南アW杯本大会に臨んだ岡田ジャパンを見る気がした。今回同様、本田を1トップに据えた布陣に穴はなかった。両ウイング(左・大久保嘉人、右・松井大輔)も忠実に守った。だが、オランダ戦、パラグアイ戦はほぼ専守防衛。自衛隊はそれが使命なので、打ち合ってはマズいが、これはサッカー。それではぜんぜん面白くない。しかも相手はオーストラリアだ。ハリルホジッチは、試合前も試合後も、「相手はアジアナンバーワン。アジアチャンピオンだ!」と、思いっきりリスペクトする言葉を吐いたが、強いと言ったってたかが知れている。自らの弱気をカモフラージュする言葉に聞こえて仕方がなかった。