学生の窓口編集部

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スマホやカーナビで位置を知るために、無くてはならないものとなっている「GPS(Global Positioning System; 全地球測位システム)」。もはや現代社会の必需品といっても過言ではないですね。

このGPSは、地球上空を周回している約30個のGPS衛星からの電波を受信して自分の位置を割り出すことができるというものですが、現在では新たに「日本版GPS」と言われる準天頂衛星システムの整備が進められていることをご存知でしょうか。

■ 準天頂衛星とはいったい何モノ?

天頂というのは自分の真上を指しますので、準天頂衛星というのはほぼ真上にある衛星のことを意味しています。従来のGPS衛星の補完を大きな目的として開発が進められ、2010年にその初号機である準天頂衛星「みちびき」が打ち上げられました。

2015年現在は、その衛星1機のみで運用されていますが、1機の衛星だけでは日本の上空をおよそ8時間しかカバーできません。そこで、2017年には3機を追加で打ち上げ4機体制にすることで、24時間365日の運用を目指します。

ただ、それでも準天頂衛星だけでの単独測位はできないため、2023年までにさらに3機追加して計7機での運用体制にする予定となっています。

■ なぜ準天頂衛星が必要なのか

GPSで位置情報を割り出すためには、4機の衛星の電波を受信する必要があります。けれども、現在のGPS衛星は必ずしも常に自分の上空にいるわけではないため、街中で高層ビルの陰に隠れてしまったときなど、うまく電波を受信できず、正確な位置を測れなくなるケースも出てきてしまいます。

一方、準天頂衛星のように真上にあれば遮るものが無くなるため、そのような問題も解消され、より高精度な位置情報が利用できるわけです。

また、アメリカが運用しているGPSは、無料で開放している代わりにその品質は保証しておらず、戦争などの要因で意図的に制限をかけることがあります。しかし、インフラとして重要となった位置情報システムをこのように何らかの理由で利用できなくなってしまうと、私たちの社会活動が混乱しかねないため、すべて純国産で構築・運用するという点でも大きな意味を持っています。

■ 準天頂衛星によって拓かれる未来とは

将来、準天頂衛星が実用化されることによって、高精度な位置情報や正確な時刻情報というのが利用できるようになりますが、そうなると私たちはいったいどのような恩恵を受けられるようになるのでしょうか。

その1つが、2013年に「産業技術総合開発機構(NEDO)」が行った、トラックの自動隊列走行実験です。4台のトラックの位置情報を誤差なく正確に把握することによって、わずか4mの車間距離を保ちながら、時速80kmで自動走行することが可能になっています。これが実用化されれば、目的地まで寝ていても自動で運転してくれる車(まさに「自動車」?)なんていうのも登場するかもしれませんね。

このほか、地殻変動の監視による地震・津波の早期検知、交通事故現場における緊急通報や東日本大震災のような大規模災害発生時の迅速かつ正確な状況把握、老人の歩行者支援など、国民の安心・安全を高める様々な効果も期待されています。

さらに、この準天頂衛星はアジアやオセアニアの一部地域でも利用することが可能ですので、そのエリアでの位置測位サービスの提供による新たな海外ビジネスが生まれるかもしれません。

■ まとめ

今回は未来の日本版GPSともいえる「準天頂衛星」についてご紹介しました。

従来のGPS衛星は高い建物や山に隠れてしまうと、うまく電波を受信できず正確に位置を特定できないこともありますが、常に日本の上空に準天頂衛星が回っているような環境が作られ、高精度な位置情報がいつでも利用できるようになれば、まったく新しい社会やビジネスが登場してくる可能性だって大いにありますね。

(文/TERA)

■著者プロフィール
小さい頃から自然科学に関心があり、それが高じて科学館の展示の解説員を務めた経験も持つ。現在は、天文に関するアプリケーションの作成や、科学系を中心としたコラムを執筆している。