中国人が心から誇る「万里の長城」。先祖の営々たる努力で築かれた、世界最大規模の建物だ。その「万里の長城」が今や、「瀕死の長城」という。(写真は同記事を掲載した法制日報の紙面から)

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 中国人が心から誇る「万里の長城」。先祖の営々たる努力で築かれた、世界最大規模の建物だ。その「万里の長城」が今や、「瀕死の長城」という。

 中国最後の王朝である清朝は北方から来た支配民族であり長城の建設はしなかった。現在に残る長城は主に、その1つ前の明朝が建設したものだ。その「最も新しい」長城がすでに、無残な姿をさらしている。保存状態のよい北京近郊の「八達嶺の長城」などは例外で、中国当局によると、明代長城のうち、完全に保存されている部分は全体の8%に過ぎず、全体の7割以上は「状態が悪い」という。

 長城破壊の原因としてはまず、管理や保護の不足がある。放置する。レンガの間から草が生える。それでも放置する。レンガの間に根が伸びる。長城はそこから崩れていく。

 レンガが人為的にはがされる場合もある。中国メディアの法制日報によると、明代長城でも要地のひとつだった寧武関の所在地である山西省・寧武県を訪ねた。レンガは見当たらず、崩れた長城に草が生い茂っていた。

 住民に話を聞くと、「ただの土塁じゃないのかね」と言った。長城とは知らなかったという。住民は続けて「前に、道路や鉄道を作るので、ずいぶん壊したよ。このあたりは石炭置き場になったので、その囲いとして残った」と説明した。

 レンガの盗難では、特に文字が刻まれたレンガが高値がつくので狙われるという。

 法制日報は、河北省承徳市で文化財保護担当者に聞いた話を紹介した。長城で文字の刻まれたレンガ数個を発見した。ところが「文字付きレンガ」の発見を知った地方の指導者が、現地の村の幹部を使ってレンガを取り去った。「他人にプレゼントする」ためだったという。

 長城が修復される場合にも問題がある。各地の長城は規格が統一されているわけではない。北京の「八達嶺」は首都防衛の役割もあり、「最も重厚」に作られている。長城を修復する場合、もとからの長城を完全に撤去して、「八達嶺風」の長城にしてしまう例があるという。

 法制日報は「本物の文化財を破壊し、偽の骨董品を改めて建設」と批判した。

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◆解説◆
 長城を建設した理由は一般に「北方の遊牧民族の侵略を防ぐため」とされるが、中国北部のいわゆる「少数民族」の人々には別の言い分もある。

 漢族は歴史上、農業技術の進歩に伴い北に向けて少しずつ開墾を進めた。遊牧民は一般に、夏には北の土地で、冬には南で放牧する。ある年の秋、それまで冬の宿営地にしていた土地に戻ると、見知らぬ農民が開墾していて、もはや放牧地として使えなくなっている。

 遊牧民と農民に争いが発生する。農民は遊牧民に入らせないように土地を囲う。その集大成である「長城」は、農民が絶え間なく遊牧民の土地を蚕食したシンボルだという。(編集担当:如月隼人)(写真は同記事を掲載した法制日報の紙面から)