安保関連法案が参院へ送られた

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「憲法違反だぞ」。これは、財務省時代のかつての上司の口癖。上司曰く、「黙ってオレのいうことを聞け」という意味だと。上司はとても気さくで、筆者と議論したくなると、「お茶、飲まない?」と筆者を役所内の喫茶店に誘う。

役所内だから、緊急時にもすぐ連絡がつくので都合がいい。こうした議論をするときには、上司と部下との関係はなく、「皆、同期」というルールだ。筆者は役人時代に、このルールに随分と助けられた。ただし、議論を打ち切るタイミングを決める権限は、上司がもっている。そのときに上司からしばしば出てきたのが、「その意見は、憲法違反だぞ」だった。

「憲法違反だぞ」の意味

筆者ははじめ意味が分からなかったが、上司はこう説明してくれた。

――憲法違反の主張を通すには、憲法を改正しなければいけない。しかし、日本の憲法は、世界一の硬性憲法で改正はまず無理。ということは、「憲法違反」と指摘された主張は、たとえ議論の内容で合理性では優れていても、通すことはできない。これは、議論には絶対負けない論法なのだ。だから「黙ってオレのいうことを聞け」という意味になる――

筆者は、議論する時間が終わったと理解して、笑いながら、職場に戻った。

この言葉(憲法違反)は、今議論になっている安保関連法案では、反対派がよく使うフレーズである。ただし、その内容は感情的で、単なる思考停止でもある。上記に紹介した上司との議論のように、笑って済ますことができる話ではない。

安保関連法案では、集団的自衛権の行使によって、日本が戦争に巻き込まれる確率が高くなるか、低くなるかが、本質的なポイントである。

筆者は、米プリンストン大学で国際政治・関係論を学んだ。民主主義国家間では戦争しないという民主的平和論のさきがけで有名なマイケル・ドイル教授(現コロンビア大教授)の下で、主に数量分析を中心として、平和論を勉強した。その時に出会った本で、ラセット・エール大教授とオニール・アラバマ大教授によって2001年に出版された 『Triangulating Peace』がある。

これは、1886年から1992年までの戦争データについて数量分析して、同盟関係をむすぶことで40%ほど戦争のリスクが減少するなどという実証結果を示している。

個別的自衛権の行使より抑制的になる

集団的自衛権の行使は同盟関係の基本中の基本なので、何らかの同盟関係を結んでいる国では、本来、議論にさえならない。この点、日米同盟がありながら、集団的自衛権の行使の是非を議論する日本は不思議な国だ。中国らの一部の国を除けば、多くの国では、今回の法案について、同盟関係がありながら集団的自衛権の行使を認めなかったこれまでの「非常識」を、世界の常識に変えるくらいのことと思っている。

世界の多くの国がどこかと何らかの同盟関係をなぜ結ぶかといえば、そのほうが戦争のリスクを減らせるからである。加えて、同盟なしの場合より、防衛費が安上がりにできるからである。ちなみに、日米安保なしで防衛しようとすれば、今の防衛予算は4倍以上の20兆円以上になるという試算もある。

集団的自衛権の行使は、(1)戦争のリスクを減少させること、(2)防衛費が安上がりになること、から望ましいのだ。さらに、国際政治・関係論では、集団的自衛権のほうが、集団のチェックがあるので、(3)個別的自衛権の行使より抑制的になること、とのメリットも知られている。

なお、上にあげた『Triangulating Peace』では、中国は民主主義国ではないので、戦争のリスクが高まることも示されている。この意味でも、日本が集団的自衛権の行使を行うのは、より合理性がある。

一部の野党やマスコミの「憲法違反だぞ」は、こうした合理性を無視する言葉だ。そもそも日本の戦争のリスクを減らす話が憲法違反になるはずがない。

++ 高橋洋一プロフィール高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。