『Hafa Adai』井口裕香 ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント(Amazonより)

写真拡大

“アイドル声優”がブームとなっている近年。「声優」という枠組みを超え、歌手やアイドル、DJなどとしても注目される声優も増えてきているようだ。例えば、水樹奈々さんや、田村ゆかりさんといった著名声優たちは、一アーティストとして数千人規模のライブを行うなどし、多様な活動でファンを集めている。
筆者は、ふとした事からこの界隈に興味を持ち始めたのだが、未だ声優さんのライブに行ったことは無かった。声優さんのライブってどんな人が来ているんだろう……、どんな盛り上がり方をしているんだろう……など一般人(と言っては語弊があるかもしれないが)からすれば、想像がつなかい世界ではないだろうか。

そんなこんなで今回は、数多くのアニメ作品などに出演し、一昨年には歌手デビューを果たした井口裕香さんという女性声優のライブに、勇気を振り絞って乗り込んでみたので、その模様をレポートしたいと思う。

【ライブ開演前から高まる熱気】


開演前から、会場周囲は熱気が高まっていた。最寄り駅近くの店で販売されていたサイリウムは、井口さんの色(?)である黄色だけが全滅。グッズ類も、開場を前にしてSOLD OUTのステッカーが貼られている商品があった。Twitter上では、名前で検索するだけで情報戦のようなやりとりが行われ、ライブへの期待などが怒涛のように流れこんできた。また、Tシャツへの寄せ書きの参加者を募るツイートなどもあり、ネットからもファンの輪が広がっていくのを感じ取れた。

と、ここまで一気に脳に浮かんだ文章をライブの余韻に浸りながら書いていたのだが、唐突に書き始めてしまったので、「なんなんだこのキモオタが書いたコラムは」と、困惑してしまう人が大半だろう。せっかくなので、ライブの出来事を振り返る前に、彼女のこれまでを振り返ってみたい。

【ジャニオタ公言、西友勤務経験の声優】


井口裕香さんは1988年7月3日生まれ。13歳で声優としての活動をスタートさせ、高校卒業年にあたる2007年から活動が本格化。2008年には今回のライブにも少なからず影響を与えたライトノベル作品「とある魔術の禁書目録」の主役・インデックスに声を吹き込むことになる。その後も「迷い猫オーバーラン!」「フラクタル」「To LOVEる ダークネス」など、何かしらの形で耳にしたことがある(かもしれない)作品の、重要な役どころに数多く出演している。

自身のことについても実にオープンだ。ジャニーズの大ファンであることを公言している井口さんは、自身のラジオで、ライブに行った時の報告を度々行っている。リスナーからのメールにもジャニーズ関係の内容が送られてくることがあるし、もしかしたら、井口さん自身がジャニーズファンを増やす役目も担っているのかもしれない。ちなみに、過去のアルバイト経験なども自らの口で語ることがあるのだが、経験したバイトの中には西友でのお仕事もあるという。

ライブレポに入る前に駆け足で紹介してしまったが、気になった人は、現在放送中のアニメ「艦これ」で芸の幅の広さを知ったり、文化放送で毎週月曜日23時から放送している「井口裕香のむ〜〜〜ん⊂( ^ω^)⊃」などを聞いたりして、ぜひとも魅力を知っていただきたい。

【透き通った歌声に続き、野太い大歓声が鳴り響く会場】


さて、話をライブに戻そう。
ホールの照明が暗くなり、まず最初に流れてきた音楽は1stアルバム「Hafa Adai」の最初に収録されているmananaというinstrumental曲。「ウオオオオオ」という、テレビ番組の1コーナーでしか見たことのない世界に感動を覚えつつ、オレンジ色のサイリウムを左手に握りしめ、同じ列の人より1歩後ろに下がった。左利きとして生まれたことを懺悔しなければいけない理由が、また1つ増えてしまった。

1曲目から間髪入れず、同じくアルバムの2曲目であるFun Fanfareのイントロが流れてきた。前奏のテンポが変わるタイミングで舞台に登場した井口さん。現れた瞬間に脳内では「ジャジャーン!!!」というSEが鳴り響いた。この歌は、井口さんのイメージにぴったしカンカンな、アップテンポの非常に明るい曲である。サビでは透き通っていながらにして力強い歌声に続き、野太い大歓声が鳴り響いていた。

2曲が終わり、最初のMCに入る。声優という仕事をこなし、毎週ラジオの放送を2回も行っているだけあって、お客さんのいじり方から話し方に至るまで素晴らしかった。会話に困るとすぐ「声上げろ」などと言いながらコール&レスポンスを求めるDJとは大違いだ。が、MCよりも長かったのは次に歌う「POPCORN SMILE」のサビの振り付けについての説明だった。大半のお客さんも振り付けを一発でマスターしていたのだが、「イー!」「ゲッツ」という説明の影響で、掛け声がショッカーやダンディー坂野さんになってしまったりと、会場の各所から笑いが漏れながらの練習となった。曲が始まってみるとホール全体が再び一体感に包まれ、右手が曲に合わせてパパッと変わっていく姿が印象的だった。

そのあと数曲を挟み披露されたのは、デビュー曲である「Shining Star-☆-LOVE Letter」。綺麗な夜をイメージしたようなこの歌とも衣装が凄くマッチしており、細部に至るまで楽しむことができた(変な意味でなく)。ちなみに、歌手としてデビューしたのはこの歌がきっかけなのだが、このライブではデビュー前に発表されていた楽曲も歌っている。

ライブの終盤、舞台セットが変化。どことなくポップな雰囲気のあった可愛らしい井口さんの衣装も、純白ドレスの衣装に様変わり。「夕立セレナーデ」の途中では、サイリウムを使った色鮮やかな虹が作られ、曲に合わせて左右にゆっくりと動いていた。今回のライブで「後ろの席で良かった」と思えた理由の1つである。

【感動のラスト、鳴り止まないアンコール】


そしてライブ最後の曲、自ら作詞した「キミのチカラ」が始まった。涙をこらえながら歌っている井口さんの姿を見て、ほんの少しだけ涙が出てきてしまった(これを書いている今も、思い出し泣きをしてしまいそうだ……)。歌唱中には、マイクを使わずに井口さんの想いの丈を叫ぶ一幕もあった。5秒もないほどの短い言葉ではあったが、そのなかには彼女のさまざまな思いを感じ取ることができた気がする。

アンコール時には、井口さんのニックネームである「ゆかち」が5分ほど繰り返された。およそ2000前後の席から発せられたその声は疲れを見せることなく、時間が経つにつれて徐々に声が大きくなっていく。井口さんはこれでもかという程パワフルなパフォーマンスを披露し、会場もこの日1番の盛り上がりを見せ、冬の寒さを吹き飛ばす勢いだった(会場内は半袖でも平気なくらい暖かかったのだが)。

前列ではヲタ芸と思しき動きをする集団がいるなど、普段行くライブやイベントでは決して目にする事ができなかった光景を見られたことも、とても楽しかった。筆者は、アニメ自体を常日頃から見ているわけではないので、隣り合った席の人と会話が弾んで友だちになって――という嬉ハプニングは起きなかったが、Twitterを介してファン同士の繋がりが増えていく様子などは、見ていて微笑ましかった。

歌ではしっかりと「歌手」としての姿を見せつつ、MCでは親しみを込めて「芸人」とまで言われるトーク技術を見せてくれた魅力たっぷりの井口裕香さん。2015年もさまざまな所で活躍されることを、心より願っている。