ラーメンは本当にパリで人気なのか? 

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私は普段パリに生活の基盤がある。そこで最近日本に帰ると「パリではラーメンが人気なんですよね?」と、しきりに聞かれる。日本でテレビをつけると、パリの日本食レストランが集まるエリアが映し出され、昼時にラーメン屋の前でフランス人が行列し、慣れない手つきではしを使い食べる映像を流していた。パリで本当にラーメンは人気なのだろうか?

パリで暮らす日本人の視点からすれば、フランスでラーメンは人気とは言えない(もちろん、どこを基準にして「人気」と定義するかは、それぞれ異なるのだけれど)。一方で、以前と比べて「フランスでラーメンが一般的になったか」と問われれば、それは「なった」だろう。だが「フランス社会全体がラーメンに関心を向けているか」というと「向けていない」と感じる。

もちろん、パリの各ラーメン屋はとても頑張っている。千葉の「なりたけ」がパリに出店してくれたおかげで、フランスでも日本と同じ味のラーメンを食べられるようになったし、今年10月にロンドンに新規店舗をオープンした「一風堂」も、欧州2カ国目としてパリに開店予定だ。一風堂を営む力の源グループが再生支援した「どさん子」は、海外1号店としてすでにパリに進出済みである。パリにおけるラーメンのクオリティは、年を追うごとに確実に上がっている。

しかし、それを「人気」とするかは少し疑問だ。今、欧州でラーメンが、もっとも盛り上がっている場所といえばロンドンだ。そのロンドンとパリを比べた時に、両者には決定的な違いがある。現地の料理人がラーメンという分野に参戦しているかどうか、という点である。パリの場合、(そこにフランス人が食べに来ることはあっても)基本的に日本人の手によるラーメンである。ロンドンの場合、現地の料理人が現地の人へ向けて作っている、本格的なラーメン屋がある。

パリのラーメン事情を語るときに、よく引き合いに出されるのが、昨年パリで6日間にわたり行われた「ラーメンウィーク」だ。日本(および米国)から来たラーメン屋6店が、日替わりで味を振る舞い、それを求めに多くの人々が行列した。在仏日本人は皆こぞって食べに行こうとしたし(東京の山手線の内側とほぼ同じ面積であるパリに暮らす日本人は、大使館に在留届を出している人だけでも1万人を超える)、日本に興味があるフランス人たちも多く訪れた。ただし6日間という期間限定イベントだけで、フランスの盛り上がりを判断するのは難しい。

どうも煮え切らない文章になっているが、つまりパリのラーメン事情はそういう感じなのだ。ラーメンはフランス人にポジティブに受け取られているものの、フランス人皆が注目しているというような日本の受け取り方は、現状と少し異なる。すなわち今が頂点ではなく、まだまだパリにはラーメンで盛り上がれる余地があるということ。ここからが本番なのだ。
(加藤亨延)