「この場をお借りして……! 今、●●の新曲聞いてます」は違和感?

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個人ブログやツイッターで、このようなフレーズが使われていることに私は違和感を覚えてしまう。

・「この場を借りて報告しちゃいます! ダイエット中なのに、メロンパン買っちゃいましたー!」
・「この場をお借りして……。昨日の夜、彼氏と別れました……」
・「先ほどのツイートで誤字しました。この場をお借りして、お詫び申し上げます」

私が覚えた違和感のゆえんは、「この場をお借りして」というフレーズだ。この言い回し、"他人の領域を借りた"時に使うような気がしているので、自分のサイトやブログといった自身の空間にてこのフレーズを使うのは間違っているんじゃないかと思っているからだ。それとは別に、なんだか芸能人ぶっている気もしてモヤモヤする……。

そもそも「この場を借りて〜」という時の"場"は、どんな"場"なのだろうか? 都内でスピーチ教室の講師をしている浅野さんにお話を伺った。

【借りるのは、"場所"ではなく"機会"】


まずは、ブログやツイッターで書かれている「この場を借りてご報告〜」、この私が覚えた違和感を浅野さんにぶつけてみたところ……意外な解答が。

浅野さん:「ふむ。使い方は間違っているとは言えないですね、場合によっては特に問題ないですよ」
「この場をお借りして〜」というフレーズは、スピーチや挨拶のシーンで使われることも多いという。
浅野さん:「『この場をお借りして』という時の"場"は、基本的に、場所ではなくて機会を指しています」

浅野さんいわく、この「場」とは、場所ではなくて"機会"なのだという。他人の領域だとか、自身の空間だとかといった具体的な場という解釈ではないのだそう。「この場をお借りして〜」と、英語でスピーチするときは"機会"という意味の単語を用いて「take this opportunity〜」と言うそうだ。

さて、冒頭で出した「この場をお借りして」の例が正しく使われているとして、多少無理やり、浅野さんに解説していただいた。
「この場を借りて報告しちゃいます! ダイエット中なのに、メロンパン買っちゃいましたー!」
―――例えば、ダイエット食以外のものを食べてしまった場合に、ジムのトレーナーや友人に個別に直接報告するなり詫びるなりする機会を設けなければならないにもかかわらず、自分のツイッターなりブログで簡単に報告を済ませてしまって申し訳ないという意味を込めて使っているのでしたら間違ってはいないでしょうね。(浅野さん)

「この場をお借りして……。昨日の夜、彼氏と別れました……」
―――こちらも同様ですね。彼氏と別れたなんて重大なことは、いままで相談にのってもらった友人やその他関係者に直接言ってまわる機会を設けなければならない事なのだけれども、自分のツイッターで簡単に報告してしまって申し訳ないという思いを込めて使っているのでしたら間違っていませんね。(浅野さん)

「スタバの新作美味しすぎるー。あっ……この場をお借りして、先ほどのツイートで誤字したこと、お詫び申し上げます」
―――こちらの場合は、上記2つとは少し異なりますでしょうかね。他の話題(ここではスタバの新作)がメインとなっている「場」において、別の話(ツイートの誤字)をついでにしてしまうことに対して恐縮だという意味を込めているのでしたら、正しい使い方ではないでしょうか。(浅野さん)

【お借りして〜、のあとに続く言葉が大切】


そもそも「この場をお借りして〜」というフレーズができた過程としては、その言い回しの後に続く行為が、本来であればそれ専用に場を設けるべきものだという概念があるからだと、浅野さんは言う。

例えば、「この場をお借りして御礼」「この場をお借りしてお詫び」など、御礼やお詫びは、それをするためだけの「機会」を設けるのが丁寧な方法だと考えられているため、そういった機会を設けられなくて申し訳ない……といったニュアンスがこのフレーズには含まれているのだという。

結婚式で、親の代表あいさつなどでなどによく用いられる下記のセリフ。
「〜至らぬところもありましたし、また失礼なこともあったとは存じますが、この場をお借りしてお詫び申し上げます。皆様今日は本当にありがとうございました」
これも、本来であれば来客者一人ひとりに、お詫びの場を新たに設けてすべきところを、このスピーチという機会を使って済ませてしまうことに対して、という意味でつかわれているのだそう。

なるほど。そういった重要な挨拶や報告であればなんら違和感はないのだが……。

ともあれ、解説していただいた浅野さん、この場をお借りして御礼申し上げます!
(うどん)