【米国はこう見ている】米メディアが選ぶ「メジャー最高の先発9投手」の中に日本人3投手 ダルビッシュ有、田中将大、岩隈久志の凄さ
メジャートップ9人の先発投手は?
MLBは今季日程の3分の1を過ぎたところだが、「現時点のメジャー最高の先発投手は誰か」という特集がESPNで行われ、地元で話題になっている。
データ分析に定評のあるデビッド・スコーエンフィールド記者が「クリス・セールがメジャー最高の先発投手かもしれない」との見出しで現在メジャーを席巻する9投手を選出。ドジャースのザック・グレインキーやナショナルズのスティーブン・ストラスバーグら実力者が選外となる中、日本の誇るエーストリオ、レンジャーズのダルビッシュ有投手、ヤンキースの田中将大投手、マリナーズの岩隈久志投手が選ばれている。日本時間7日の試合前の段階のデータを基に、以下の投手を「最高の先発投手」リストに上げている。
【クリス・セール(ホワイトソックス)】
今季はこれまで7試合に先発し、5勝0敗で防御率1・59、被打率は1割2分6厘、52奪三振、8四球。スライダーは「大の大人を泣かせるほど」の決め球と評価されている。ホワイトソックスのスタジアムがメジャー有数のホームラン天国として知られている不利もあるが、防御率は2012年に3・05、13年は3・07と、ここ数年安定した成績を残している。記事では、「独特のスリークォーター気味のフォームで、不自然なほどの腕の振りからコンドルという異名を持つこともボーナスポイントだ」と称賛されている。
一方で、マイナスポイントもあるという。メジャーのキャリアで200イニングを投げたシーズンはまだ1度しかなく、今季も開幕直後に左腕屈筋の負傷で故障者リスト(DL)入りした期間があったため、難しいかもしれない。肘に負傷を抱えることも懸念材料だ。今季登板した7試合のうち平均以上の打撃力を持つチームとの対戦はインディアンス戦のみだとも指摘されている。
【クレイトン・カーショー(ドジャース)】
記事では「ここ3年間で最高の投手であり、実際には2度選出されたサイ・ヤング賞に3度選出されるべきだった」と絶賛されている。今季は4勝2敗、防御率3・32で苦しんでいるが、三振と四球の割合は昨シーズンよりも向上している。
スコーエンフィールド記者は「神様が悪魔を追い払うために一球を必要とするならば、カーショーのカーブを選ぶだろう」と決め球の衝撃を表現。過去3シーズンでの平均登板回数は232イニングで、タレント揃いのドジャースの先発ローテーションでも揺るぎない存在だ。記事ではドジャース守備陣の脆弱性も指摘されており「守備範囲の狭いセンターのマット・ケンプとショートのハンリー・ラミレスという不安定なディフェンス陣で投げている」と擁護。「1回2/3しか持たずに7失点を喫した一戦(5月17日・ダイヤモンドバックス戦)を除けば、彼は今まで同様に圧倒的な存在だ」と記している。
その一方で、減点材料も挙げている。防御率3・32は物足りない数字であることは確か。腰痛でシーズン序盤を欠場したことも懸念材料だという。昨年打たれることのなった決め球のカーブも、今季は1本塁打を含む3長打を許した。また、昨年のカージナルスとのナ・リーグ優勝決定戦第6戦で打ち込まれたことも指摘されている。
ダルビッシュ、田中もリストアップ
【ダルビッシュ有(レンジャーズ)】
レンジャーズの絶対的エースの完成度は高い評価を受けており「もしも、ピッチャーの彫刻を土から作り出し、そこに命を与えるとするならば、ダルビッシュそっくりにしたいと誰もが思うだろう」という印象的な書き出しから記事はスタートする。
この原稿の基となっているデータは、ダルビッシュが6勝目を挙げた日本時間6日のインディアンス戦(7回4失点で勝利)の直前のものだが、その時点で「ヒッターズパーク」と呼ばれる打者有利な本拠地にも関わらず、5勝2敗で防御率は2・08だった。2013年には計26本塁打を浴びたが、今季は3本に留めていることにも触れている。
カーショーの方が300イニング平均での被打率は低いが、ダルビッシュはピッチャーと対戦することはできないと指摘。交流戦では事情が異なるが、DH制のあるレンジャーズ所属のア・リーグと、DH制のないドジャース所属のナ・リーグとの違いによる投手の有利性の違いも考慮している。
四球の数も減少傾向で、最近4試合はブルージェイズ、タイガース、ナショナルズという強打を売りにする3チームを含めて31回2/3を投げ、41奪三振4失点という優れた結果にも着目している。その一方で、「メジャーでいまだ完投した試合がないこと」、「1試合での投球数がかさみ、早目の降板につながること」、「昨年9月は腰痛に苦しんだこと」に加え、「首痛で今季数試合を欠場したこと」がマイナス材料として挙げられている。
【田中将大(ヤンキース)】
先発12試合すべてでクオリティスタート(QS=6回以上を自責3以内)を記録し、9勝1敗。さらに、防御率2・02はリーグトップという、抜群の成績が冒頭に紹介されている。楽天に所属していた昨年から見れば、レギュラーシーズンで通算33勝1敗という驚異的な数字だ。
記事では、メジャーでも有名になった決め球について「彼のスプリットは、自然の摂理に逆らうものとして複数の宗教団体から禁止されている」と実にユニークに描写されている。スプリットでは被打率1割3分5厘、48奪三振、2四球。宝刀を打たれての本塁打は、デビュー戦の初回にメルキー・カブレラ(ブルージェイズ)に打たれた1本だけにとどまっている。この1球はメジャーで初めて投げたスプリットだった。これまでに315球を投げているが、ほとんどダメージは受けていないという。
最近では、5月20日のカブス戦で喫した今季初黒星から復調し、3試合連続1失点で3連勝を飾っている。その一方で、懸念材料はまだ先発12試合に過ぎないという部分。2度目以降の対戦を迎える相手がどんな対策を立てているのか、注視する必要があるという。
また、クオリティスタートに関しては、負けた試合で4失点を喫している(自責点は3)ので、少しだけ疑問の余地がある。今季8本の本塁打を打たれており、“一発病”という心配もあるかもしれない。「最初の先発5試合で10三振以上を3度奪ったが、それ以降は二ケタ三振がない」というデータも紹介されている。
完投経験のない昨年のサイ・ヤング賞、シャーザー
【マックス・シャーザー(タイガース)】
昨年のサイ・ヤング賞投手は6勝2敗、防御率3・20とまずまずの数字だが、三振、四球、ホームランの割合はピッチャーとして最高の栄誉に輝いた昨年と同じだという。記事では「彼のように4球種がすべて決め球となる投手はほとんどいない」と絶賛されている。今季は無失点のままで降板した試合が4試合ある。
今オフにはFAとなる見込みだが、開幕前にはタイガースの長期契約を断り、1552万5000ドル(約15億8000万円)の単年契約を結んだ。「(タイガースが延長条件で提示した)年俸総額1億4400万ドル(約147億円)もの大型条件を断り、FA市場に乗り込むガッツも賞賛に値する」と記されている。
マイナス要素はダルビッシュと同様に、メジャーでの完投経験がないこと。現時点で最高の投手かといえば、微妙だという。実際に、最近3試合の登板で計16失点を喫し、被打率も悪化している。2013年は素晴らしいシーズンだったが、キャリア通算防御率は3・64だ。
【アダム・ウェインライト(カージナルス)】
2009、2013年にナ・リーグで最多イニングを投げ切った(09年、13年ともに最多勝投手)。今季も日本時間7日の試合前の時点でリーグ最多93回1/3を投げ、1位の8勝(3敗)、防御率2・31、被打率1割9分4厘。記事では「彼のカーブは(打者の)膝と心を打ち砕き、銀行預金すら破産させることで有名」と決め球を称えられている。ポストシーズン通算防御率2・53は、比較の存在がないほどのトップで、今季6試合で7回以上を無失点に抑えている。
ただ、マイナス要素もある。被打率は上昇傾向。ナ・リーグ中地区は近年、カージナルス以外は貧打の球団が多いが、大量失点を喫する試合もあり「昨年は9失点と6失点の試合が、今季は7失点と6失点の試合があった」というデータを紹介しながらも、「ここはあら探しです」と注釈を付けている。
【フェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ)】
「キング」と呼ばれるマリナーズのエースの凄みを表現するために、セイバーメトリクスの評価指標である「FIP」が用いられている。2・62は過去3年でメジャー2位の数字。1位のカーショーは2・57だが、ア・リーグのヘルナンデスの方が強い打線と対峙していると高く評価されている。今季は8勝1敗、防御率2・57で、打たれた本塁打はわずかに3本。6シーズン連続で200イニング以上を投げている。
そして、決め球に関する描写はやはりユニークだ。「チェンジアップ、あのチェンジアップ。もしもシェークスピアが存命なら、チェンジアップに関する愛の定型詩を書いただろう」。名作「ロミオとジュリエット」の名文句に重ねながら、こう記されている。
今季のチェンジアップの被打率は1割4分3厘で49奪三振、3四球。本塁打は1本打たれたが、「お前を称えよう、(ホームランを打った)マット・ドミンゲス」とも書かれている。ここ数年はマリナーズの酷い守備陣の前で投げ続けており、特に13年シーズンの外野陣は酷かったというが、三振と四球の比率はキャリア最高。わずか1〜2点という打撃陣の乏しい援護で勝たなければいけないプレッシャーと対峙してきた。「『キング』という異名にも誰も異論はないだろう」とされている。
メジャー最高の先発投手の中に日本人3投手がランクイン
【岩隈久志(マリナーズ)】
岩隈の記事は隠れた大記録の話題からスタートしている。「2012年7月にマリナーズのローテーションに加わって以来、(先発として)ア・リーグ最高の防御率を誇っている。昨年はセイバーメトリクスの評価指数であるWARでア・リーグの投手最高の評価を手にし、サイ・ヤング賞候補3位に選出された」と伝えられている。
ヘルナンデスの項目で記述した守備陣と攻撃陣の酷さを参照との注釈も入れている。田中のみならず、岩隈の決め球でもあるスプリットは「美しきもの」と表現。この2年間で被打率1割7分4厘、99三振、8四球で、被本塁打は4本。今季7試合に先発し、四球はわずか4つ。制球力の素晴らしさも理解できる。
マイナス要素は、今季序盤を指の負傷で欠場し、日本時代からもケガの耐久性にそこまで定評がない点だという。さらに、メジャーでの完投経験もない。9イニングあたりで6・4という三振数もさほどでもないとしている。昨年は25本塁打を打たれたが、今季も6本塁打を許している。「キングというあだ名ではない」という記述で締めくくられているが、それはおそらくジョークだろう。
【ジョニー・クエト(レッズ)】
資金力にさほど優れないレッズでプレーしているにも関わらず、日本時間7日の試合前時点でメジャートップの防御率1・68であることが高く評価されている。「往年の名投手ルイス・ティアント投手のような独特のフォームも凄い」と言及。今季3試合で完投し、被打率は1割5分1厘。奪三振率は3年連続で向上しているという。
ファストボール、カットボール、スライダー、チェンジアップが武器で「このボールはいついかなる時でも頼りになる」と評価。今季、自責点2以上を喫したのはわずか1試合で、右腕としては牽制球が最も巧みな投手の1人とも分析されており、過去2年で計3度、今季は1度しか盗塁を許していないという。
マイナス要素は持続性が不足している点で、防御率は自責点にカウントされなかった5失点にも助けられているという。健康面のトラブルもかかえており、2011年シーズンの先発は24試合、昨季は11試合のみ。「200イニング以上を投げたのはまだ1シーズンしかない」と指摘されている。
メジャー最高の先発9投手の中で、実に3分の1にあたる3人も日本人投手が占めるという事実は、まさに驚異的とも言える。ダルビッシュ、田中、岩隈は、超一流としての地位を、すでに築き上げている。