「あなたはうつ病です」「それは擬態うつ病です」。ありとあらゆる精神疾患の悩みに、ざくっと答える。ホームページ上で募集し、苦しんでいる人たちのメールをそのまま載せているので、読むとインパクト抜群。『家の中にストーカーがいます』は、治療ではなく、症例に興味を持ってもらうための本です。

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Q.付き合って3ヶ月になる彼はうつ病で……
A.彼はうつ病ではありません。単なる甘えです。それは擬態うつ病です。

Q.時折私の名前を呼んでゴロゴロしているだけで……
A.甘えているだけです。

Q.私は単に都合のいい女で適当にキープされているだけなのでしょうか?
A.そうです。

なんともバッサリだ。
『こころと脳の相談室名作選集 家の中にストーカーがいます “こころの風邪”などありません、それは“脳の病気”です』(Kindle)は、精神科医、林公一がDr林のこころと脳の相談室で答え続けた膨大なQ&Aの中から、本人がピックアップしたもの。

うつ病、統合失調症、双極性障害など、様々な質問と答えが載っている。
質問もバラエティに富んでいる。
「12歳のころから頭の中で声がします。月に帰りたいです」
「皆と同じようにiPodの手術を受けたい」
「国内をさまよっている母と姉を助けたい」
読んでも全くわからない質問も多い。

解答は常に直球。
「あなたはうつ病です」
「ご主人は覚せい剤をやめていません」
「これは幻聴です」
精神科では通常、ソフトな前置きをしてから病気の解説をし、治療に入る。
しかしそんなことは一切しない。治療の手助けの本ではないからだ。

中でも目を引くのは新型うつ病(擬態うつ病)に対しての態度だ。
彼は、新型うつ病(本文では擬態うつ病と述べている)に対して、とにかく厳しい。
なぜなら、新型うつによって、本来のうつが隠れてしまうからだ。
林公一は以前からこの問題を提起しており、『擬態うつ病/新型うつ病ー実例からみる対応法』という本も書いている。

あまりにも「新型うつ病は甘え」と言い切っているので、読んでいて「本当にそうか?」と疑問に感じた。

本書の狙いはそこにある。
まず第一段階として「興味を持ってもらう」。
そして第二段階として「精神疾患について疑問視させる」。
作者のチョイスも恣意的。統合失調症に対する家族の偏見問題など、彼が伝えたいことが端的に現れている質問が選ばれている。

個人的に面白かったやりとりを一つ。
Q,ここ数ヶ月の間に彼女の様子が少しおかしくなってきました
A,あなたは単にふられつつあるのではないでしょうか
人の苦しみはそれぞれ。治らないものもあるね。

林公一 こころと脳の相談室名作選集 家の中にストーカーがいます “こころの風邪”などありません、それは“脳の病気”です(Kindle)

(たまごまご)