ジャーナリストの青木理氏が鳥取連続不審死事件の真相に迫る!

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2009年、時をほぼ同じくして、首都圏と鳥取県で「連続不審死事件」が浮上した。でっぷりと太り、お世辞にも美人とはいえない30代半ばの女と交際した複数の男性が、不審な死を遂げていたのだ。

共通点の多いふたつの事件だが、『誘蛾灯 鳥取連続不審死事件』の著者・青木理氏が興味を持ったのは、上田美由紀被告が起こしたとされる鳥取の事件だ。

ひなびた繁華街のスナックに勤め、5人の子供を抱えていた上田被告。不審な死を遂げた男たちの中には、地位もあり、妻子ある男もいた。彼らはなぜ彼女に溺れたのか……? その謎を探るため著者は鳥取に向かう。

―鳥取の事件に惹かれたのは?

「首都圏の事件は、結婚相手のいない中高年の男性が、セレブを気取った木嶋佳苗と婚活サイトで知り合い、金をだまし取られて殺されたというのが警察・検察が描いた基本的な構図。被害男性が彼女に溺れていった理由はなんとなくわかる。でも、鳥取では妻子を持った新聞記者や警察官までもが、借金までして美由紀に多額の金を貢ぎ、6人が不審な死を遂げていた。その理由がまったく想像できなかったんです」

―被害男性はなぜ上田被告に“溺れた”のでしょう?

「一回セックスすると『妊娠した』とウソをついて金をだまし取る。その後は『子供が病気になった』などと、あらゆるウソを並べ立てて金を要求する。一方、美由紀にはマメなところや男を立てるところがあった。ラブレターをこまめに書く。飲み会があるというと、黙って財布の中に2万、3万とお金を入れておく。

男性側にも家庭内の不和があったようですから、そのうちに女手ひとつで子供を育てる美由紀に情が移っていったのではないか。光に集まる性質を利用して害虫を駆除する『誘蛾灯』に引き寄せられていくように。あと40歳前後の男って、どこかに“堕ちたい”と考えるときってあるんじゃないでしょうか」

―だまし取った金を何に?

「衣料品の量販店やコンビニで一度に何万円もの買い物をしていたようです。服は洗濯もせず、次々に新しいものを買ったのか、自宅アパートはゴミ屋敷のようでした。格安品を大量に購入し、大して使いもせず、浪費するというのは、日本社会の縮図のようにも見えます」

―上田被告は2件の強盗殺人容疑で立件され、昨年12月、一審で死刑判決が下されました。

「美由紀がひとりで殺害したとする警察・検察の主張には無理がある。弁護団は、美由紀の交際相手が『真犯人だ』とする根拠の薄い主張をするだけで、有効な反論ができなかった。

裁判所も検察の主張にうすうす疑問を感じながらも、それを丸のみしたように見えます。こんな“ウソだらけ”の裁判で死刑が下されていいのか?というのもこの本のテーマです」

―12月10日から控訴審です。

「一審判決の前後、拘置中の美由紀に3回面会し、その後は手紙のやりとりをしています。そのなかに『私を助けてください』と書かれていたものがあります。おそらく死刑を回避したいという考えだったのでしょう。私は『知っていることをすべて話して、真正面から闘ったほうがいい』と返事を書きました。でもその直後に手紙は途絶えました。

面会した別の記者にも、『信頼できる記者に会ったらすべてお話しします』と私に話したのと同じように言っていたようです。しかし、私の手紙に返事をよこさなくなったことを考えると、それもウソで、控訴審でも本当のことを話す気はないのかもしれません」

(取材・文/西島博之 撮影/岡倉禎志)

●青木 理(あおき・おさむ)

1966年生まれ、長野県出身。ジャーナリスト、ノンフィクションライター。共同通信社で警視庁公安部、ソウル特派員などを務めた後、2006年からフリーに。主な著書に『日本の公安警察』『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』がある

■『誘蛾灯 鳥取連続不審死事件』

講談社 1680円

美人でもないでっぷりと太った子持ちの30代の女、上田美由紀被告が主犯とされる鳥取の「連続不審死事件」。妻子もあり、安定した職業に就く男たちが彼女に溺れ、多額の金銭を貢ぎ、死んでいったのはなぜか? 関係者への丹念な取材で描き出された事件の真相