太田監督の執念がようやく実り、なんと、取材日前日に初の上映館が決定した。(c)朝日のあたる家

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先の参院選で当選を果たし、一躍、時の人となった山本太郎氏。彼が出演する映画が、各地の映画館からことごとく上映を拒否され、公開できずにいるという。

その作品『朝日のあたる家』は原発事故を扱った架空の物語で、山本氏も映画の中では重要な役どころを演じているという。“反原発の旗手”ともいえる山本氏が出演しているとあって、ネット上ではなんらかの“圧力”による上映拒否ではないかとの臆測も飛んでいるのだが……。

この映画を撮った太田隆文(たかふみ)監督に話を聞いた。

「撮影地などで行なう単発の上映会では好評をいただいているんです。でも、映画館での公開については、もう正確な数はわかりませんが、大手シネマチェーンから単館まで数十館に断られました」

そこまで断られまくるとは、いったい、どれほどの“問題作”なのか?

作品の舞台は静岡県西部の湖西(こさい)市。大地震後に起きた原発事故により激変したある家族の光景を描いている。

「原発事故後の福島のことを調べれば調べるほど、とても悲しくて、ひどいエピソードがたくさん出てきた。それを全部、その家族に集約しようと考えたのです。だから、作品中に起きていることは、すべて実際に福島で起きたことです」

これまで青春映画を多く撮ってきている太田監督が、原発事故を扱った作品を撮ろうと思ったのには理由がある。

「僕はこれまで『子供たちに大切なことを伝えたい』という思いで映画を撮ってきたのですが、原発問題についても、新聞やテレビが伝えないことがたくさんあって、それを映画で表現できるのではないかと思ったのが始まりです」

舞台を福島ではなく静岡県湖西市にしたのにも狙いがある。

「原発事故は日本全体の問題なのに、福島だけのことととらえている人が多いですよね。なかには、原発事故は『もう終わったもの』と言う人もいる。つまり、他人事。だからこそ、映画の舞台を福島と関係ない湖西市にした。東京や大阪のような都会でもなく、日本中どこにでもある、いわば普通の町です。そういう町で原発事故が起こることで、自分の住む町や故郷を重ね合わせて見てくれるのではないかと考えたのです」

山本太郎氏は、沖縄に住む叔父役で登場し、家族を沖縄に避難させようと父親を必死に説得する。

太田監督が撮影時の様子をこう振り返る。

「僕が書いたセリフなのに、太郎さんが言っているとしか思えない、迫真の演技をしてくれました。『もっとセリフを増やしていいですか』と、ものすごく真剣に取り組んでくれましたね」

では、なぜ、この映画がことごとく上映を拒否されるのか。やはり、なんらかの圧力があったのか。

「もともと、大きな映画館での公開は無理だろうとは思っていました。それは“原子力村”から直接的な圧力がかかるということではなく、何か面倒くさいことが起こるかもしれないからやめておこうという“自粛”が予想できたからです。その点、単館系の映画館は大丈夫だろうと思っていたのですが……。それまでにあった原発ドキュメンタリーで観客が入らなかったということで断られました。僕の作品は原発モノというより、むしろホームドラマなのに……。もちろん、大手同様に自粛したところもあったでしょう」

苦境に追い込まれた太田監督だが、週プレのインタビュー前日、ようやく救いの手が。

「あるシネコン系グループが『上映する』と言ってくれたのです。これを皮切りに多くの人が観てくれれば、やがて大都市の映画館でも上映できると期待しています」

果たして、太田監督の願いは叶うのか。

(取材・文/頓所直人)

*『朝日のあたる家』は、9月14日から「豊川コロナシネマワールド」(愛知県)を皮切りに、各地のコロナワールド系列で公開予定