電気料金の怪

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東京・浅草で暮らす筆者は、いうまでもなく東京電力から電気を買っている。2011年3月に東電が管轄する福島第1原発で事故が起きた。その後の経緯を見るかぎり、東電が自らの身を切るようなことはなるべくしないで、事を済まそうとしているフシがある。なによりも気になるのが、事故の賠償について国のカネと契約者のカネを頼りにしているということだ。

ところで、東電が利益を得る仕組みをご存じだろうか。すでにご存じの読者がいるかもしれないが、筆者は2012年5月6日付の東京新聞を読むまで知らなかった。記事によれば、東電の「儲けの9割」は家庭向けの「規制部門」から得られるものだという。詳しく見ていこう。

東電の電気料金の体系は、「自由化部門」と「規制部門」に分かれている。前者は、ビルや工場からマンションなど、高圧で電気を契約している場合の料金体系だ。2004年に電力事業の制度改革があり、電力の供給が原則的に自由化された。2005年になると、全国の6割以上の電力需要が自由化され、大口の契約者のほとんどが電力の供給先を選べるようになった。

他方、規制部門というのは、家庭が東電と契約した場合の料金体系である。何か規制されているのかというと、東電が勝手に値上げできないように規制されているのだ。東電が家庭向けの電気料金を値上げしたい場合、国に認可の申請をする必要がある。

問題は、東電がどのようにして収益をあげているのか、である。東電が販売する電力の6割強は自由化部門、すなわち大口契約者である企業などが使っている。家庭向けの規制部門が使っているのは4割弱である。にもかかわらず、営業収益(=儲け)の9割強は規制部門から得たものであり、自由化部門からの儲けは1割弱となっている。

一般的には、より多くの電力を使う契約者から、より多くの儲けがもたらされると思ってしまう。しかし、多くの電力を使う契約者に対する電気料金は自由化されており、競争が起きているため、儲けを少なくする必要がある。一方、家庭向けの電気料金は、「認可」という国のお墨付きさえもらえれば、青天井で値上げすることが可能な仕組みなのであった。電気料金の怪、である。

したがって、「東電の儲けの9割が、家庭向け電気料金から得られる」という現在の仕組みは、国の「共謀」なしには成立しなかったものである、という点をおさえておきたい。自由化部門と規制部門に対する電力販売量の比率と儲けの比率がこれだけ異なると、自由化は儲からないから、手っ取り早く家庭から儲けを得てしまおう」という東電の、そしてそれをバックアップする国のあこぎな姿勢を感じざるを得ない。

東電は、2012年4月から自由化部門の電気料金を値上げした。そのドタバタぶりは、マスコミで報じられたので、ご存じの読者も多いと思う。まあ、値上げも値下げも自由ということで「自由化部門」なのである。だから、東電が値上げを言いだした場合、電気を買う側には東電から電気を買わない自由がある。しかし、私たち一般家庭には、実質的にその自由がほとんどない。

原則的には、東電以外にも特定規模電気事業者(PPS)から電気を買うこともできることになっている。だが、現状では個人がPPSから電気を買うのは難しそうである。そうなると、家庭レベルで払う電気料金は規制されたままとなり、東電が申請した値上げを国が認可すれば、有無を言わさず値上げを受け入れることになってしまう。

理にかなっていれば、値上げを受け入れてもよいと筆者は考える。その「理」とは、第1に東電がコスト削減のために最大限の努力をするのかどうか。第2に東電が原発とどのように向き合っていくのか。この2点である。

規制部門の値上げに際して、「経済産業大臣が、消費者や産業界の代表、学識経験者、マスコミ関係者などを委員とした審議会等を開催して、広く各界の意見を聴」き、「そこでまとめられた報告書等は、行政手続法に基づき、パブリックコメント(国民の意見)を募られ、広く国民の声が反映される仕組みになってい」ると言う(東電のサイトより)。

「規制部門」に属する読者たちには、ぜひとも以上の「仕組み」を注視していただきたい。そして、理にかなった値上げなのかどうかを考えてもらいたい。原発事故の責任にほおかむりをし、手っ取り早く儲けてやろうという姿勢が垣間見られたら、いち早く「NO」と言えるように。

(谷川 茂)