あー、もどかしもどかし、出張からもどって、這うようにしてビデオのスイッチを入れた。録画した1975年のワールドシリーズ、シンシナティ・レッズ=CIN対ボストン・レッドソックスを見るためだ。J-Sportsは本当にえらい!こんなマニアックな試合をノーカットで放映するのだから。「野球好き」の看板は伊達じゃない。
解説は当サイトにもご足労いただいている蛭間豊章記者。蛭間さんもこの試合をまるごと見るのは初めて。前日から寝られなかったと言われていたが、この映像にこの解説者、まさにベストマッチ。

私の手元にベースボールマガジン社から出された1977年の日米野球の特集号がある。CINのオーダーはそのころとほとんど変わらない。

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ピート・ローズ、ケン・グリフィおやじ、ジョー・モーガン、ジョニー・ベンチ、トニー・ペレス、ジョージ・フォスター、デーブ・コンセプシオン、シーザー・ジェロニモ。来日メンバーからはペレスが抜けただけだ。今のMLBは毎年のようにチームの顔ぶれを大きく入れ替えるが、当時はそうではなかったのだ。2年後にこの顔ぶれの大部分を私は日本で見たのだ。

モーガンは少しほっそりしていたように思うが、ヒップラインがそのまま出るベルトレスのユニフォームがよく似合っている。ピート・ローズのクラウチングスタイル、左打席の方が右よりもやや構えが低いような。噛みタバコで頬を膨らませるジョニー・ベンチ、彼らが動いているのを見るだけで、もう満足。

BOSは、カール・ヤストレムスキー、カールトン・フィスク、フレッド・リン、ドワイト・エバンス。MLB最後の三冠王で、テッド・ウィリアムスの後継者と言われたヤストレムスキーは、ユニフォームの着こなしがかっこいい。肩をぐっと内側に入れ、バットを立てて構える。まさに名匠の風格。この試合でフレッド・リンはフェンウェイの壁にぶつかって失神するが、それでも試合に出続けた。

こうしてみると、当時はナリーグの方がスターが多かったように思う。

放送の中で蛭間さんは、入社早々宇佐美徹也さんからMLBのデータブックを渡されたこと。毎試合の記録をメモに取っていたことを話しておられた。当時はMLBの情報に接することなど、夢のまた夢だった。蛭間さんは宝の山に囲まれて仕事をしておられたのだ。

6回からCINはペドロ・ボーボーンがマウンドに。2年後、大阪球場で私はこの投手とマイク・ラムに握手をしてもらった。

左翼守備に就くカール・ヤストレムスキーを見ていて痛感するのは、当時の選手はみんなスリムだったということ。ユニフォームの違いもあるだろうが、30年後に同じグリーンモンスター前に構えていたマニー・ラミレスと比べればえらい違いだ。ジョニー・ベンチでも足腰はほっそりしている。本来、野球はこういう体型の人がやるスポーツだったのだ。20年後のステロイド騒動以降、MLBの野球選手は肉体が変質してしまったように思う。

初めて見る映像だったからかもしれないが、谷口広明アナウンサーも蛭間さんも、まるで中継しているようなリアクション。
36年という“時差”を超えて、野球中継を楽しんでいるという感じだ。広告のないスタジアム、スピードガン表示もなく、リプレイも少ないシンプルな放送スタイル。野球の“素の面白さ”が伝わってくる。

8回BOSの背番号1、バーニー・カーボに一発が出て同点となってから、試合は異様な高まりを見せる。9回にはヤストレムスキーがバント、バスターを試みる。まるでNPBだ。ジョージ・フォスターの好返球でドイルが本塁アウト。ベンチのタッチの確実さ(そう思った瞬間に蛭間さんがコメントした)。無死満塁で点が入らず。お酒が飲みたくなるような試合だ。

11回、ピート・ローズの痛くない死球、ジョニー・ベンチが送りバントを阻止してローズを二塁で刺す。ドワイトエバンスのホームランキャッチ。谷口アナも蛭間さんも興奮している。
そして背番号27カールトン・フィスクが水平に振ったバットから伸びた打球が左翼ポールのネットを直撃するサヨナラ本塁打。いやー凄い試合。

ファッションも、スタイルも違うが、野球の面白さは時空を超えると思った。





この試合を蛭間さんの解説で聞けた。今シーズンはまだ始まっていないが、ベストの野球放送に入れたくなる4時間だった。これ、DVDになったりしないんだろうな。

※4月2日11時にも再放送有。

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