第43回「輝きののちに」より黒木華演じる源倫子
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 吉高由里子が紫式部(まひろ)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時〜ほか)で、平安の貴族社会において最高の権力者として名を残した藤原道長(柄本佑)の嫡妻・倫子を演じる黒木華。柄本佑とは、2021年公開の映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』に続く夫婦役での共演となったが、共演を振り返る中で、相手役が柄本だったからこそ生まれた“幻のシーン”について語った。

 黒木にとって、大河ドラマへの出演は3度目。くしくも「真田丸」(2016)でも真田信繁(堺雅人)の、「西郷どん」(2018)でも西郷隆盛(西郷吉之助/鈴木亮平)の妻を演じている。「光る君へ」で演じる倫子は左大臣・源雅信(益岡徹)の娘で、宇多天皇のひ孫にあたる。娘を帝に入内させることで家を繁栄させたいと望む貴族が多かった時代に、倫子は父、そして母・穆子(石野真子)に無理やり入内させられることなく、伸び伸びと育てられた。打毬の試合で道長の勇姿に心奪われ一目ぼれした倫子は、とんとん拍子で道長の妻に。道長はその後、みるみるうちに左大臣に上り詰め、娘の彰子(見上愛)が一条天皇(塩野瑛久)に入内し、皇子・敦成親王(のちの後一条天皇)を出産。敦成親王が東宮となったことで、道長の権力は揺るぎないものとなる。一方で、倫子は道長が自分ではない誰かを想っていることに気づいていく。

 倫子の人生について、黒木は「なんだかんだいって人生を全うしていますよね。好きな男を手に入れ、権力者にし、子をたくさん作り、妻としての役目を果たした。自分の子たちから帝が出たということは、その時代ではきっと大成功ですよね。ただ、一番手に入れたかったものは手に入れられなかったという。成功して手に入れられたものと、手に入れられなかったものの両方がある人生だと思います」と思いを巡らせる。

 視聴者の間では、倫子は道長とまひろの仲に気づいているのか? との話題がたびたび持ち上がってきたが、第36回では決定的な場面があった。敦成親王の誕生から50日目に行われた「五十日(いか)の儀」の後に道長が開いた祝宴で、道長が倫子の目の前でまひろと歌を交わし、息の合った様子の二人を目にした倫子は表情を曇らせ、その場を去った。さらに、第38回では息子・頼通(渡邊圭祐)の結婚を巡る会話の中で、道長が倫子に「妻は己の気持ちで決めるものではない」「男の行く末は妻で決まるとも申す。やる気のなかった末っ子の俺が今日あるは、そなたのおかげである」と悪気なく話した。それでも倫子は「子どもたちのお相手を早めに決めて、その後は殿とゆっくり過ごしとうございます。二人っきりで」と寄り添うが、それには道長は反応しない。

 そんな倫子の心中について黒木は「悲しいんじゃないですかね。倫子は夫の愛情が欲しかったとは思います。だからこそ、夫が目指す道に向かって、何か自分にできることはないかと一緒に一生懸命やってきたわけで。それに伴い家族ができて、 母としての役目もあった。だからこそ、殿と二人の時間を過ごしたいと思ったんでしょうけど、かわされてしまうんですよね。しょうがないですよね。しょうがないとは思っているけど……」と割り切れないものがある様子だ。

 なお、柄本と共演した映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』でも、くしくも黒木演じる主人公が柄本演じる夫に浮気される設定だった。黒木は「浮気されがちですね」と笑いながら、2度目の夫婦役共演をこう振り返る。

 「佑さんはすごくお上手な方ですし、空気を作るのがうまい方なのでやりやすいです。『先生〜』の佑さんはどちらかというと情けない役柄でしたけど、道長はちょっと怖いところがあるといいますか。父親(兼家)の血を引いているというか、権力者としての道を行く怖さ、冷酷さがあって。一方で、まひろといる時の三郎(道長の幼少期の名)のような童心に帰ったり、一筋に人を思ったりする表現も。いろいろな佑さんが見られて面白いなって思いますし、素敵だと思います」

 「光る君へ」には、そんな信頼を築いている二人だからこそ生まれたシーンがあったという。長年、帝に遠ざけられていた娘の中宮・彰子が念願の子を身ごもり、道長が倫子に吉報を知らせに走るシーンで、黒木は柄本との共演シーンの中でとりわけ印象に残っているとも話す。

 「残念ながら本編ではカットされましたが、彰子に子供ができたと伝えに来てくださる時は、自然と二人で涙を流しながら抱き合ったりとか。倫子と道長の空気感だからこそできることだったんじゃないかと思います。映ってはいないけれど、そういうところがあったから、妻として自分にできることがあればと耐えられていた気がします。夫婦の一つのゴールを成し遂げられたんだという二人の思いが通じ合った瞬間だと思ったので、倫子としても、私としてもすごく印象的でした」

 ちなみに、倫子にとっての脅威はまひろのみならず、道長のもう一人の妻・源明子(瀧内公美)とは人知れず火花を散らす関係にある。第28回では、道長が明子の暮らす高松殿で倒れた際、道長の枕元で修羅場が展開された。倫子は高松殿に駆け付けると明子が握っていた道長の手を奪い取り、「うちでお倒れになればよいのに……」と言いつつ、努めて冷静な判断を下し「どうぞ“わが夫”をこちらで看病願いますね」と牽制した。二人の妻のバトルは視聴者の間でも「怖い」と話題沸騰だったが、柄本はこのシーンで黒木と瀧内が楽しそうに話し合っていたのが印象的だったとトークショーで明かしていた。柄本の枕元で果たしてどんな話し合いが展開されたのか……?

 「倫子が明子から道長の手を奪うのは監督の案です(笑)。公美ちゃんとは“ほほえみ合う方が怖いよね”とか“わかりづらい女のバチバチの方が楽しいよね”みたいな話をしていた記憶がありますね(笑)。“ちょっとあんた!”みたいなあからさまにやり合う感じじゃなくて、“じと〜っとした、いや〜な感じ。それは、倫子の息子・田鶴(藤原頼通/三浦綺羅)と、明子の息子・巌君(藤原頼宗/渡邉斗翔)が帝に舞を披露し、巌君の舞が帝に絶賛され、明子が得意満面で倫子に会釈する場面も同様でした。本当はセリフがあったはずなんですけど、(倫子と明子の)距離も遠いし、見合うだけで“わかる”んじゃないかっていう話を監督とさせていただいたりもしましたね」

 11月10日・第43回では、倫子が道長に心から愛する女性がいると疑い、苦しんだこともあったが今では気に留めていないといい「彰子が皇子を産み、その子が東宮となり、帝になられるやもしれぬのでございますよ。私の悩みなど吹き飛ぶぐらいのことを殿がしてくださった」と吹っ切れた様子だった。道長を支え、一族を盤石にすることを使命とする倫子だったが、果たして倫子は本当に納得しているのか? 残すところあと5回となったが、いち視聴者としては再びの“修羅場”を期待してしまう。(編集部・石井百合子)