技術の進歩と共に、7680×4320ピクセルの8K解像度の映像を表現できるテレビが登場しています。ソフトウェアエンジニアで写真家のダニエル・ローレンス・ルー氏が、8KテレビをPCのモニターに使う利点や注意点を解説しています。

Using an 8K TV as a monitor

https://daniel.lawrence.lu/blog/y2023m12d15/

ルー氏は「8Kディスプレイは、プログラマーや専門家にとって複数の4Kディスプレイを使用する従来のセットアップに代わる優れた選択肢となります」と語っています。例えばプログラミングやワープロ作業の場合、4Kモニターを以下のように複数枚組み合わせて使用するケースがよくあります。



8Kテレビだと複数モニター間のベゼルによる視覚的な断絶がなく、ウィンドウやターミナルを自由に配置できることを利点に挙げています。テキスト表示の品質も、単一の大型4Kディスプレイと比べて格段に優れており、複数の小型4Kディスプレイと同等の表示品質を実現するとのこと。

写真や動画編集の面では、高解像度により細部まで鮮明に表示でき、ツールバーなども画面に対して相対的に小さくできるため作業効率が向上します。また、多くの8KテレビはD65・P3色域をサポートしており、適切なキャリブレーションを行えば写真や動画編集に適した環境を実現できるとルー氏は主張しています。



また、CAD作業においては、ワイヤーフレームレンダリングなどの細かい詳細を高解像度で表示できる利点があります。複数のビューポートを表示する場合でも、詳細な視認性を維持できます。さらに、必要に応じて画面全体に拡大表示することも可能です。

ゲームやメディア視聴の場合、多くの8Kテレビが4K解像度で120Hzのリフレッシュレートをサポートしており、約10ミリ秒という低い入力遅延とAMD FreeSync対応により、優れたゲーミング体験を提供します。また、解像度1440pのゲームやメディアコンテンツも3倍という正確な整数倍でスケーリング可能で、4Kディスプレイだと発生し得る歪みを回避できます。

コスト面に注目すると、65インチの8Kテレビは32インチ4Kモニターと4台分と同等の価格だとルー氏。生産性向上の目的で複数モニターをセットアップして、さらにゲームやメディア視聴用に別途4Kテレビを購入することを考えると、1台で全ての用途をカバーできる8Kテレビはむしろコスト効率が良いと、ルー氏は主張しています。最新のグラフィックスカードであれば、HDMI 2.1を介して8K/60Hzでの出力が可能で、映像のデータ量を抑えるためにピクセルの色情報を間引く「クロマサブサンプリング」なしでの表示が実現できます。



ただし、ルー氏は8Kテレビをモニターで使う上での注意点についても言及しています。

8Kテレビを使う上で、まず物理的な設置面での課題が存在します。8Kテレビは60〜80インチの大画面が主流ですが、大型の画面を使用する場合は適切な視聴距離を確保するために、奥行き70〜80cmの一般的な机には向いていません。8Kテレビを使うためにはより大きなデスクの購入や壁面マウントの設置が必要となる可能性があり、追加コストが発生します。

また、画質に関する問題も存在します。8Kテレビは製造上のばらつきにより、「ダーティスクリーン効果」と呼ばれる画質ムラの問題が発生する可能性があります。この問題はプログラミング作業には大きな影響はありませんが、写真編集や映像視聴には支障をきたす可能性があります。また、一部の8Kテレビでは、可変リフレッシュレート(VRR)を有効にしていない場合、1ピクセルスケールで干渉縞が見えてしまう「チェッカーボード効果」が発生する可能性があります。

実際にVRRをオフにした状態でチェッカーボード効果が発生している画面が以下。



さらに、ソフトウェア面での問題も複数存在します。テレビはそもそもPC用途を第一に想定して設計されていないため、いくつかの特異な問題が発生します。例えば、LinuxにおけるNVIDIAドライバーの場合、8K/60Hzの動作には2023年5月以降にリリースされたバージョン535以降が必要です。また、AMDのGPUの場合、Linux上ではHDMI 2.1が利用できず、DisplayPortからHDMIへのアダプターが必要となります。加えて、8K/60Hzでの動作には、テレビのメニューで「Input Signal Plus」などの設定を有効にする必要がありますが、これはデフォルトで無効になっていることがあるとのこと。

そして、スリープモードからの復帰時に問題が発生することもある、とルー氏。テレビがPCを検出しない場合があるため、さらに4Kモードに戻ってしまうことがあるそうです。この場合、メニューから設定を再度調整する必要があり、モニターの電源オフ機能を無効にする必要があるとルー氏は解説しています。

また、ディスプレイの種類に関しても制限があります。現在入手可能な8Kテレビは主にIPS方式、あるいはVA方式の液晶パネルを採用しており、OLED(有機EL)パネルと比較するとコントラスト性能は劣ります。OLEDパネルを採用した8Kテレビも存在しますが、現時点では非常に高価。さらに、プログラミングなどの長時間の静止画表示を行う場合、OLEDパネルには焼き付きのリスクがあり、静止画面時の自動調光機能が作業の妨げとなる可能性があります。

そして、ルー氏は「テレビは一般的に光沢のあるグレアコーティングを採用しているため、明るい部屋では反射が避けられない場合があります」と述べています。ただし、ダークテーマを使用したコーディング作業では、テレビを窓際に設置しても大きな問題は生じないとのこと。

なお、テレビではなく8Kに対応したデスクトップモニターも存在しており、ルー氏は一例としてDell UP3218Kに言及していますが、「8Kテレビと同程度の価格でありながら32インチと画面サイズが小さく、さまざまな問題があるため、デスク空間が極めて限られている場合を除いて推奨しません」としています。