日本インカレから見えた「陸上ユニホーム問題の今」とは【写真:中戸川知世】

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陸上ユニホーム問題の今 肌の露出が多いユニホームを選ぶ選手たちの本音

 スマートフォンが普及し、SNSが発達した現代。写真撮影が身近となり、スポーツでは女性アスリートのユニホーム問題を目にする機会が多くなった。陸上競技もそのひとつ。「THE ANSWER」は9月19日から4日間、神奈川の等々力陸上競技場で行われた第93回日本学生対校選手権(日本インカレ)で実情を取材した。盗撮をはじめとした性的な意図を持った撮影が取り沙汰されて久しいが、今、選手はどんな考えでユニホームを選択しているのか。

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 2020年11月に日本オリンピック委員会(JOC)など7団体が、性的な意図を持った撮影や画像拡散の声明を発表し、それに付随して女性アスリートを取り巻くユニホーム問題がクローズアップされる機会が増えた。この夏に開催されたパリ五輪でも体操やビーチバレーで多様な選択が話題となった。

 肌の露出が多く、体のラインが強調されやすい陸上は最も注目される競技のひとつ。

 セパレート(胴の丈が短いシャツとレーシングブルマ)を着用する選手、腹部まで隠れるランニングシャツや太ももまで隠れるショートタイツを着用する選手に大きく分かれる。そもそも、選手はユニホームをどうやって選ぶのか。現場で話を聞くと、規定は学校によってさまざまだ。

「セパレートと基本的には決まっているが、欲しい人はショートスパッツを購入できる。リレーは揃えなければいけない」「上下ともに選べる」「ユニホームは決まっている」「大会によって変える選手もいる」「決まっているけど、申請すれば他のタイプにもできる」

 最も多いのはセパレートを着用する選手。素材を軽量化させ、体にフィットした形状で空気抵抗を抑え、記録向上に効果があるが、腹部などの肌の露出が多い。ただ、高校から着用していることが多く、選手たちは「これが普通だと思っていた」「みんなこのユニホームだから気にならない」「少し憧れもあった」など、あまり抵抗を持っていないようだった。

 それだけ選ぶ理由は、やはり機能性。種目を問わず、セパレートタイプのメリットを重視する声が多い。

「セパレートの方が脚が動きやすい」(七種競技・4年)、「跳びやすさ、動きやすさを重視している」(走り高跳び・2年)、「(上半身や股関節の)可動域が広がる」(三段跳び・2年)、「走りやすい」(400メートル障害・1年)

「お腹が冷えやすいので、それを防げる」などの理由でランニングシャツやショートタイツを選択できる選手もいるが、大学最高峰の舞台である日本インカレ。五輪出場を狙うクラスの選手もおり、記録を追い求めるために、ベストな選択をするのは当然といえる。

連盟の徹底的な対策などで着実に改善 どのスポーツも安心して取り組める環境へ

 半面、これまではユニホーム選択を巡り、盗撮などの性的意図を持った撮影の問題が取り沙汰されてきた。

 今回、話を聞いた選手にも「撮影した写真がまとめられて、YouTubeに投稿された」「取り上げられたニュースのコメント欄に卑猥な言葉があった」など、実際に体験あるいは見聞きした例があった。ある選手は強豪の高校時代、部としてインターネット上で公開する写真に制限を設けられたこともあったという。

 近年、日本陸上競技連盟も徹底的な対策を実施してきた。日本インカレでも許可を得ていない人は撮影禁止。許可を受けた者も、それぞれ区分されたマークを身に付ける必要があり、撮影可能な範囲も異なる。大会期間中はスタッフが会場内を巡回し、監視も行っていた。

 今回、話を聞いた中にはこうした問題はすでに改善しており、過度に取り上げる必要はないと考えている選手もいた。それだけ選手が過度な不安を感じることなく競技ができる環境になったのは、運営側の尽力があるはずだ。一方で、被害が完全になくなったわけではなく、競技によっては対策が不十分な団体もある。

 選手は最善のパフォーマンスを発揮するための選択をしている。どのスポーツ現場でも安心して競技に取り組める環境が整うことが望まれる。

(THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂 / Kaho Yamanobe)