言葉も見た目も違う他者とわかりあうには? ライオンの国に引っ越したネズミのお話『ライオンのくにのネズミ』はグローバルな今の子どもに必携の一冊
『ライオンのくにのネズミ』(中央公論新社)は、今年の「書店員が選ぶ絵本新人賞」で大賞を受賞した、さかとく み雪さんによる絵本。「ネズミのくに」から「ライオンのくに」に引っ越したネズミが、言葉も文化も異なる場所で仲間に出会って成長していくお話です。
他者との違いや国際理解などを学べる内容で、作者がドイツ在住だからなのか、とても現実味があります。幼児への読み聞かせはもちろん、小学校低学年のひとり読みにもおすすめしたい一冊でした。
もしも、何もかもが大きい国に引っ越したら?
ライオンの国の学校に転校したネズミの男の子は、何もかも大きいうえに、おそろしい「ライオン語」でしゃべるライオンたちに恐怖を感じているようです。何を話しているのかわからないから、「ライオンのお弁当にはネズミが入っているのかも…」と想像してしまうのも無理はありません。
もし自分が、何もかもが大きくておそろしいライオンの国に引っ越したら? そんなふうに考えると、ネズミの男の子の気持ちが痛いほど伝わってきます。
友だちとの会話が気持ちを切り替えるきっかけに
ネズミはリスと友だちになりました。ネズミはリスに「この国にはこわいライオンがいっぱいいるから嫌だ」と話しますが、リスは気にしていないようで!? ただ、リスは他のことでライオンの国と自分の国に違いを感じているようです。育った環境や家庭の事情によって感じ方が違うということが、よく伝わる場面でした。
リスと話すことで変化していくネズミの心模様にも注目。最初は「ここは嫌だ」の一点張りだった気持ちが、「なぜ今の場所が嫌だと思うのか」「どんな事情があって今の場所にいるのか」「今の場所でできることはないのか」と考えるうちに、「ここでもいいかもしれない」と変化していくのです。
自分ひとりで悩むよりも、誰かに打ち明けたり考えを共有したりすることで、気持ちがいい方向に向かうことがある、ということが、お話を通じて子どもに伝わると良いなと感じました。
自分と相手を遠ざけているものとは
ライオンとネズミには共通点がありました。それはサッカーです。サッカーの授業をきっかけに、ネズミはリスとの絆を深め、さらにライオンの気持ちを知ることに…。ネズミの勇気とやさしさ、そして仲間との絆が身にしみる場面でした。
サッカーなら リスも ネズミも ライオンも かんけいない。
(21ページより引用)
ラストシーンで、ネズミはライオンと打ち解けます。体の大きさも言葉も違う2人だけど、そんなことは関係なかった。だとしたら、何が2人を遠ざけていたのか? お互いを理解するには何が必要なのか? そんなふうに考えるきっかけになるのではないでしょうか。物語の舞台が「ライオンのくに」というファンタジーであることも、ラストで効果的につながります。2人がどんなふうに打ち解けたのか、そしてネズミの成長を、本書でぜひ見届けてくださいね。
グローバルな今の時代の子どもにはもちろん、周りとの違いを感じ始めた子や、転校を経験して不安を感じている子にとってもサポートになりそうな本書。どこか異国っぽさを感じさせる色使いや陰影が美しく、ネズミたちの豊かな表情も読み手の気持ちを盛り上げます。
小学2年の男の子が読んだ反応は…?
一緒に読んだ小学2年の息子は、ライオン語を勉強する両親を見て“親までライオン語をしゃべってライオンのようになってしまったら…”と不安になるネズミと同じ気持ちになり、「あの後どうなったかな」と気になっているようです。ネズミの心の変化が丁寧に描写され、物語のなかに入り込みやすいのだと思います。
見どころがたくさんあるので、お子さんによってまったく違う感想が生まれるかも!? そんなところも楽しめそうな絵本です。
文=吉田あき