「石破ショック」とは、一体どのような事象だったのか? 投資と政治の関連性を紹介
政治がマーケットに与えるメッセージ性を見誤らないことが大切
石破ショックが起こった当日の夕方、筆者はある相談者から「どうして株価が急に下がったのですか」と聞かれました。筆者は「石破さんが自民党の総裁になったからだと思います」と答えましたが、その方からは再度「どうして石破さんが自民党の総裁に選ばれると、株価が下がるのですか」と尋ねられました。
この質問に対し、筆者は内心疑問を抱きましたが、同時に「投資経験がそれほどない人の『投資家としての感覚』が薄いのは当然だろう」とも思いました。
「投資家としての感覚」とは、発信された情報をマーケットがどのように解釈するか、想像する力のことです。例えば今回のケースでは、「以前からの石破氏による一連の発言(投資家や企業に対して課税を強化するなど)が、株式市場ではネガティブに受け止められるのではないか」といったことを連想する力です。
石破氏は次期自民党総裁候補として人気の高かった人物ではありましたが、このような国民感覚で投資をしてしまうと、今回の石破ショックのような株式市場の暴落に巻き込まれかねません。このようなことから、投資において政治リスクに対応するには、政治が発信する「メッセージ性」に注視する必要があります。
「石破ショック」とは何だったのか
それでは、「石破ショックとは何だったのか」という問いに移ります。石破氏は、自民党の総裁になる前、財政健全化に前向きな発言をしていたことで知られていました。マーケットでは「いわゆる緊縮財政派」と受け止められていたため、例えば、利上げ等に積極的であるというイメージが持たれていました。
実際に、石破氏が自民党の総裁に選出された後の9月30日、短期国債(2年物国債)の利回りは約20.0%も急騰しました。債券市場では「追加利上げが前倒しされる」との思惑が急速に広がり、これが株式市場において石破ショックを引き起こしました。
2回目の石破ショックが起こる可能性を探る
株式市場などのマーケットは、政治の不安定さを嫌がります。マーケットは不確実性(リスク)を好まないのが常ですが、政治リスクもその通りです。
石破ショック後、石破政権はマーケットの動揺を落ち着かせるため、金融所得課税の話を封印し、また「財政健全化についても急がない」などこれまでの石破氏の発言と真逆なことを言い出しました。
この結果、株式市場は少し落ち着きを見せましたが、再び短期金利は上昇し、株式市場にとって重しになっています。これは「今回の衆院選では政権交代が起こらず、従来の岸田路線が掲げていた金融政策を踏襲する可能性が高い」とマーケットが考えているからです。
つまり、「マーケットがある程度落ち着けば、いずれ利上げが実施される」という可能性を、マーケットが再び織り込みはじめているのです。
衆院選が終わると、アメリカでは大統領選挙の投開票が行われ、その後間もなくして、連邦準備制度理事会(FRB)が追加の利下げを実施するかどうかの判断がなされます。
現在の株式市場はこのようなスケジュールも重なり、判断の難しい局面にありますが、その間、特に衆院選の結果次第では、2回目の石破ショックが起こる可能性を指摘する声も、マーケットに出てきています。
仮に2回目の石破ショックが起こる場合、自公政権の維持により、債券市場が再び利上げを意識しはじめる、というシナリオが成り立つかもしれません。直近では12月の追加利上げ観測が指摘されており、その可能性が高まるならば、株式市場にとっては向かい風が吹くことを、念頭に置く必要があるでしょう。
まとめ
“選挙は買い”という、アノマリー(経験則)があります。これは、「選挙が実施されると、次期政権への期待から株価が上がる傾向がある」という意味です。しかし石破氏が自民党総裁になり、また石破政権誕生後、現在実施されている衆院選を受けても、株価はアノマリーどおりの動きをしていません。
このような現状を見ただけでも、政治は投資にとって重要なリスクファクターであることが分かります。
新NISAが始まり、かつてと比べ投資をする人が増えています。私たちは生活者でもあり、個人投資家でもあります。政治が発信するメッセージに注目して投資を行うと、より一層、生活者目線で語られる金融・経済政策に関心が持てるようになるのではないでしょうか。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)