雨の降るソウルをバスで移動する通勤・通学客/Anthony Wallace/AFP/Getty Images

(CNN)毎年、数千人の韓国人がひっそりと、孤独に死んでいく。そのほとんどは中年男性で、家族や友人とは絶縁状態にある。彼らの遺体が見つかるまで、場合によっては数日から数週間かかることもある。

これが韓国の孤独死の実態であり、より広範な孤独と孤立の問題は全国に蔓延(まんえん)している。事態が差し迫っていることを受け、韓国政府は最大限の取り組みを通じて対策に乗り出している。

活気に満ちた首都ソウルの当局は今週、向こう5年間で4513億ウォン(約497億円)を投入し、「誰も孤独にならない都市を作り出す」と発表した。

新たな構想には、孤独の問題を扱うカウンセラーにつながるホットラインを24時間対応にする、同様のカウンセリングを行うオンラインのプラットフォームを開設するといった内容が含まれる。戸別訪問による相談などの事後措置も講じるという。ソウル市庁が明らかにした。

ソウルの呉世勲(オセフン)市長は報道向けの発表で「孤独と孤立は単なる個人の問題ではなく、社会が共に解決しなくてはならない課題だ」と述べた。その上で今後は「行政能力を総動員し」、孤独な人々の救済と「社会復帰」の支援に当たると付け加えた。

同市はまた、心理学的サービスと緑地の拡大に着手する計画。さらに栄養価の高い食事を中高年の住民に提供し、充実した「捜索システム」を通じて助けを必要とする孤立した住民を探し出す取り組みにも力を入れるとしている。種々の活動により、人々が屋外に出て他者とつながるのを促す計画も立てている。ガーデニングやスポーツ、読書クラブなどがそうした活動に該当する。

専門家はこうした措置を歓迎しつつ、やるべきことはまだあると指摘する。理由の一端は、韓国における孤独というものが国内文化のある固有な部分と結びついているからだという。この部分を変えるのは容易ではないとみられている。

明知大学校で心理学を専攻するアン・スジュン教授は、「孤独は現行の重大な社会問題なので、対処する取り組みや政策は絶対に必要だ」と指摘。ただ「そうした措置をどれだけ効果的に実践するかは慎重に考える必要がある」と注意を促す。

数千人の孤独死

孤独の問題は、過去数十年で全国的な注目を集めるに至った。若年層の自宅への引きこもりなど、関連する事象の増加が背景にある。彼らはしばしば、何カ月も家から出ずに日々を過ごす。引きこもりの増加に拍車がかかった結果、ある推計によれば2022年時点で最大24万4000人がそうした境遇に置かれているという。

孤独死の件数も伸びている。昨年は3661件に達し、22年の3559件、21年の3378件から増加した。韓国保健福祉部が先週公開した直近の数字で明らかにした。

増加の一因は、保健福祉部による「孤独死」の定義の拡大にあるかもしれない。従来は「一定量の時間」が経過してから発見された遺体のみを「孤独死」としていたが、現在は誰であれ社会的に孤立した状態で暮らす人の死には「孤独死」の語が適用される。家族や親類と縁を切り、自殺や病気で死亡するケースが該当する。

孤独死増加のもう一つの要因は、韓国の人口危機にあると考えられる。高齢化と出生率の低下を受けて、近年は死亡数が出生数を上回るのが常態化している。韓国の全体的な死亡率は上昇中で、この中には孤独死も含まれる。

しかし数字はさらに大きな問題を示唆しており、それは中高年の男性に最も影響を及ぼすとみられる。

保健福祉部によれば、昨年記録された孤独死のうち84%以上は男性で、女性の5倍超に上った。男性の50〜60代は全体の半数以上を占め、「孤独死のリスクが特に大きい」層であることが分かった。

韓国人が特に孤独になる要因

孤独は韓国に特有のものではなく、「韓国人が他国よりも孤独だとは言いにくい」と、心理学教授のアン氏は述べた。それでも韓国人に孤独感を抱かせる要因について尋ねると、「他国と比べていくつか異なる点がある」と答えた。

アン氏によれば、一部の文化において孤独は「関係が満たされていない時」に生じる感情だと考えられている。他方、「韓国で人々が非常に孤独を感じると口にする時、彼らは自分に十分な価値がない、もしくは目的を失っていると感じている」

そのような見解は他の専門家からも聞かれる。以前ある専門家がCNNの取材に答えたところによると、ミレニアル世代(1980〜90年代生まれ) やZ世代(1996年以降に生まれた年代) の韓国人の多くは批判に敏感な一方、過度に自己批判的で失敗を恐れるという。

今年の6月に実施した調査で、孤独の蔓延は韓国文化の微妙な特徴を反映したものだということが分かった。「関係志向の強調」がそれで、この場合人は周囲にいる他者との関係の中で自己を定義する。結果的に韓国人は「他者もしくは社会に重大な影響を与えていない」と感じると、深い孤独や失敗の感覚を抱くようだ。

これは他国との大きな違いだと、アン氏は説明する。韓国人は社会生活を充実させ、他者と緊密な関係を築けるかもしれないが、それでも「自分が他人と比べて有用な人間か、社会に十分貢献しているか、それとも劣後しているか疑問を抱くと」、孤独を感じてしまう可能性があるという。

当該の調査では、他の要因も明らかになった。具体的には単身世帯の増加、仕事や家族以外での社会的交流の減少、ソーシャルメディアの浸透とそれに伴う不満足感の醸成、韓国社会の競争の激しさ、「成功志向」の文化などだ。自身の目標を果たせない人々の間ではこうした事柄が孤独感に拍車をかける。

「誰もが同じ価値観を過度に追求すると、最後には自分を見失う」とアン氏。「我々の社会は高度に集団的な社会生活を求めるが、そこでは往々にして個人を尊重することができなくなる」。それは人々にとって、寂しさや失敗の感覚に対処するのが難しくなるのを意味する。

政府の取り組み

韓国当局は過去数年で様々なプログラムを立ち上げ、問題に取り組んでいる。政府に対し、包括的な孤独死防止の計画策定を命じる法律の制定もその一つだ。同法では5年ごとの状況報告も義務づけられている。

昨年には引きこもりの若者向けに政府が財政支援を行う措置が成立した。生活費として月最大65万ウォンを支給するなどし、若者らの「社会復帰」を助ける取り組みだ。

孤独死と戦っているのは、韓国だけではない。

引きこもりという傾向が最初に確認され、掘り下げた研究も行われている日本では21年、孤独・孤立対策担当相が任命された。翌年、政府は24時間体制の相談サービス設置やカウンセリング及び社会活動プログラムの拡充を含む集中的な対策プランを発表した。

英国など他の国々も、孤独対策に当たる閣僚を任命した。米医務総監は23年の勧告で「孤独と孤立の蔓延」について警告。より強固な社会インフラの構築やオンラインプラットフォームに対する規制といった対策の必要性を訴えた。

世界保健機関(WHO)でさえも孤独対策のための委員会を23年に立ち上げ、当該の問題を「差し迫った健康への脅威」と位置づけている。

しかし、アン氏は「単に物理的な関係を広げるだけで孤独の問題の根本的な解決につながるのかどうかは疑わしい。(中略)一つの政策によって簡単に状況が変えられるわけではない」と指摘した。

この問題には複雑かつ文化特有の要素が絡むため、より大きな転換が求められる可能性がある。それによって「各個人は一人でいられる強さを育み、自分自身と向き合える」と、アン氏は語る。

「我々は自らと他者の両方を気遣う能力を養う必要がある。それでも社会における我々の生活はとても過酷で、自分自身を気遣う余裕さえないように感じられる」(アン氏)