京阪電気鉄道交野線の終点、私市駅に到着する電車。とにかく沿線に難読地名が多い(記者撮影)

2024年は「東海道五十七次」の宿場町がすべて整備されてから400年の記念の年にあたる。歌川広重の浮世絵で有名な「東海道五十三次」が江戸の日本橋から京都の三条大橋に至る間の宿場町を指すのに対し、五十七次は53番目の大津宿から分岐して大坂の高麗橋に至る京街道の伏見、淀、枚方、守口を加える。

分岐点は現在の京阪電気鉄道京津線の追分駅近くにあった。また、京街道の4つの宿場を鉄道で結んでいるのが京阪本線だ。枚方市駅は京阪全線で3番目に乗降人員が多く、昔も今も交通の要衝となっている。

枚方市駅からは交野線が私市駅まで延びている。この路線、とにかく沿線に難読地名が多い。

私市へ延びる交野線

枚方市駅の京阪本線と交野線、そして天野川に囲まれた三角地帯には2024年、高層階にホテルやオフィス、低層階に商業施設が入る再開発ビル「ステーションヒル枚方」が誕生した。天野川は生駒山地を源流として、平野部では交野線と並行して淀川に合流する。

交野線は6.9kmと距離は短いが、起点・終着駅の枚方市・私市と途中駅(宮之阪、星ケ丘、村野、郡津、交野市、河内森)を合わせて8駅もある。そのため、駅間は最も長くて交野市―河内森間の1.7kmほどしかない。全線が複線で日中は4両編成のワンマン運転の電車が1時間当たり上下各4本行き交う。

【写真を見る】何と読む?全国屈指の難読駅「私市駅」のかつての駅前風景。周りに何もなかった「交野駅」時代の「交野市駅」の姿も(40枚)

天野川の流域は平安時代に交野ヶ原と呼ばれる貴族の狩猟地だったという。それ以前に秦氏などの渡来人がもたらした文化もあいまって、機物神社、牽牛石といった七夕伝説にまつわるスポットが点在する。


私市の駅名看板。隣の河内森が枚方市を除く交野線の駅でいちばん利用者が多い(記者撮影)

歴史がある土地だけに「難読地名」が数多くあり、駅名も例外でない。終点の私市駅は難読駅名の強者ぞろいの関西でもとくに有名。私市と書いて「きさいち」と読む。その難易度が圧倒的に高いために影が薄くなってしまうが、「枚方」「交野」だって読めそうで読めない。交野が読めなければ駅名も路線名も読み方がわからないことになる。

「枚方市」は読める?

それぞれ「まいかた」「こうの」などと間違えられることが多いというが、「ひらかた」「かたの」が正解だ。交野線の半数の駅が所在地とする枚方市はホームページなどで「マイカタちゃいます、ひらかたです。」とアピールする。京阪グループが運営する遊園地「ひらパー」こと「ひらかたパーク」も知名度アップに貢献しているといえそうだ。さらに目立たないが、交野線の駅では「郡津(こうづ)」も読むのが難しい。


交野線の電車は枚方市―私市間6.9kmを往復する(記者撮影)

交野線は1929年に枚方東口(現・枚方市)―私市間が信貴生駒電鉄枚方線として開業した。同社は現在の近畿日本鉄道生駒線と、かつて存在した信貴山下―信貴山間の鋼索線(1983年廃止)を開業させた信貴生駒電気鉄道を前身とする。

信貴山朝護孫子寺への参拝客輸送を目的に生駒方面といずれつなげる計画だったが実現せず、枚方線は交野電気鉄道を経て第2次世界大戦後に京阪交野線となった。全線が複線化されたのは1992年のことだ。


交野線は全線が複線。交野市から私市までは上り勾配が続く(記者撮影)

「交野市の交野山」読める?

本線と接続する枚方市を除いた交野線各駅について、2023年の乗降人員(11月8日調査)を見ると、終点の私市の1つ手前、河内森が9416人で最多。その手前の交野市は8664人で2番目に多い。一方、私市は2449人でもっとも少ない。

交野市駅はその名の通り交野市の玄関口で市役所は駅の東側にある。一方の西側には駅ビルの「京阪交野ビル」とバスのロータリー。京都駅八条口とを結ぶ京阪バスの「ダイレクトエクスプレス直Q京都」が発着する。真東の方角に見える標高341mの山は交野山(こうのさん)という名称で、山頂の巨岩がハイキング客に人気だ。


交野市駅には立派な駅ビルが建っている(記者撮影)

交野市から私市方面は上り勾配が目立つようになってくる。第二京阪道路をくぐると河内森駅。約300m離れたJR学研都市線(片町線)の河内磐船駅との乗換駅としての利用が多い。

学研都市線は京都府南部の木津駅から大阪市中心部の京橋駅を結んでおり、JR東西線、さらにその先でJR神戸線・福知山線に直通する列車が走る。学研都市線も祝園、四条畷、住道、放出といった難読駅名が豊富だ。


河内森駅はJR学研都市線との乗り換え利用が多い(記者撮影)

そして終点の私市駅。地名はその昔、皇后のために置かれた私部(きさきべ、きさいべ、きさいちべ)に由来する。交野市内ではいまも市役所や交野市駅があるあたりを私部(きさべ)と呼ぶ。私市の駅前広場は「キサイチゲート」と名付けられイベントが開催できるようになっている。

周辺には何がある?

近くには大阪公立大学附属植物園。駅は吊り橋「星のブランコ」がある「ほしだ園地」、「くろんど園地」などへのハイキングコースの拠点でもある。物部氏の遠祖をまつる磐船神社は「交野市私市9丁目」と住宅地のような住所だが実際は巨石と岩窟の神々しさが漂う山の中。公共交通機関でアクセスする場合は、奈良県側の近鉄生駒駅北口からの奈良交通のバスを利用するように案内されている。


枚方市駅の交野線ホームに立つ枚方エリアの谷口悟駅長(記者撮影)

交野線の各駅を管轄する枚方エリアの谷口悟駅長によると、平日は枚方市駅で京阪本線、あるいは河内森駅でJR線に乗り換えて大阪方面へ向かう通勤通学客が多い。沿線には東海大学付属大阪仰星高等学校・中等部といった学校がある。

休日はハイキング客などレジャー需要も。「個人的には趣味で『ほしだ園地』のクライミングウォールに登っています」(谷口駅長)。

最近では「きかんしゃトーマス」とコラボしたラッピング電車や駅装飾、スタンプラリーを目当てに沿線外から訪れる親子連れの姿も目立つ。枚方市から私市までは乗車13〜14分。交野線沿線には大阪や京都の有名観光地では経験できない発見がありそうだ。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)