竹内まりやの歌詞を味わう!名曲「駅」「プラスティック・ラブ」から最新アルバム『Precious Days』まで、その魅力に迫る

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写真:竹内まりや ライブ写真

2023年11月にデビュー45周年を迎えた、竹内まりや。ぬくもりを感じる柔らかな歌声、心の機微を繊細にとらえた言葉、聴く者それぞれの大切な情景が浮かぶ曲…「駅」「プラスティック・ラブ」といった名曲はもちろんのこと、最新曲「歌を贈ろう」もドラマ主題歌に起用され、時代が大きく変化しても、私たちリスナーに寄り添う名曲を生み出し続けている竹内まりやの音楽の魅力について、改めて触れていきたい。

■祝45周年を迎えた、竹内まりやとは?

・生年月日:1955年3月20日
・出身地:島根県出雲市大社町
・デビュー:シングル「戻っておいで・私の時間」(1978年11月25日発売)
・代表曲:「駅」「純愛ラプソディ」「元気を出して」「プラスティック・ラブ」他多数

◎音楽サークルの先輩のバックコーラスからデビューへ

1974年に慶應義塾大学 文学部 英文学科に入学した竹内まりやは、音楽サークル・リアルマッコイズに参加。同サークルの先輩・杉真理のレコーディングにバックコーラスで参加したことをきっかけに、1978年11月25日発売のシングル「戻っておいで・私の時間」でデビューを果たす。その後、3rdシングル表題曲「SEPTEMBER」で『第21回日本レコード大賞』新人賞を受賞、4thシングル表題曲「不思議なピーチパイ」が大ヒットするなど、トップアーティストとして活動を加速させていく。

◎山下達郎との出会い

「駅」「純愛ラプソディ」「元気を出して」「プラスティック・ラブ」などのヒット曲を次々と世に放ち続けてきた竹内のキャリアの中でも、特筆すべきなのは公私ともにパートナーとなっている山下達郎との出会いだろう。

山下は、竹内の1stアルバム収録曲「夏の恋人」を提供したり、3rdシングル収録曲「涙のワンサイデッド・ラヴィ」の編曲・コーラスを担当。先輩である山下に、竹内から「曲が思うように行かない」とヘルプを求めることもあったようだ。

いっぽうの山下も、「プラスティック・ラブ」のデモを聴いた時に腰を抜かし、「こんな曲が書けるのに、なんで今までやらなかったんだ」と聞き返したといい、竹内まりやの才能をリスペクトしていることがわかるエピソードである。そして、今ではお互いのライブのサポートをしたり、ともにクリエイティブに取り組んだりと、最強のパートナーだと言える。

◎他アーティストへの楽曲提供でも名曲がずらり

音楽活動45周年を迎えた竹内まりやだが、自身の楽曲のみならず、これまで数々のアーティストへ楽曲提供も行っており、彼女の代表曲として名高い「駅」も元々は中森明菜に提供した楽曲(1986年発売アルバム『CRIMSON』収録)のセルフカバーである。

他にも、河合奈保子の「けんかをやめて」(1982年発売10thシングル)、広末涼子の「MajiでKoiする5秒前」(1997年デビューシングル)、松たか子の「みんなひとり」(2006年11月29日20thシングル)、松浦亜弥の「Subject:さようなら」(2011年発売ベストアルバム『松浦亜弥 10TH ANNIVERSARY BEST』収録)、早見沙織の「夢の果てまで」(2017年発売3rdシングル)など、挙げるときりがないほど粒ぞろいな楽曲たちが並ぶ。しっとり聴かせるバラードからかわいさ全開のポップソングまで、幅広く手がけるいっぽう、“竹内まりや節”を感じさせ、音楽家としての手腕を大いに発揮してきたのである。

■琴線に触れる名曲を生み出す、竹内まりやの魅力とは?

◎清らかかつ力強い歌声

彼女の歌声を聴くと、優しく穏やかな気持ちになれる。

エアウィーヴ「ともに歩む」編のCMソングに起用された「Days of Love」を聴いた、同ブランドのアンバサダーでプロスケーター・浅田真央も「竹内まりやさんの自分を包んでくれるような優しい歌声で安らかな気持ちになりました」と語るほどだ。

ハリのある歌声で様々な景色を描き、聴く者の気分を高揚させることはもちろんのこと、低音域の力強さで言葉の説得力を強めている。

心地よさ、安らぎ、包容力…そんな柔和な言葉が似合う歌声ではあるが、いっぽうで彼女のはつらつとした歌声はシティ・ポップともマッチし、洗練された印象も併せ持つ。“唯一無二の歌声”が過言ではないことが、これまでに愛されてきた楽曲たちが語っている。

◎心の機微を見事に表した歌詞

歌声、楽曲と魅力的な要素があるなかで “歌詞”にも注目していこう。

耳に届くと、その風景が浮かんでくる言葉たち。まったく同じ経験をしたわけではないものの、なぜか自分が知る風景や心情へと繋がり、自分ごととして彼女の言葉が響いてくる。

それは竹内まりやが紡ぐ歌詞が細部までこだわり、人間の心の機微を的確にとらえているからだ。彼女は「人々が何を考えているのかに興味がある」と語ったことがある。「ドラマの主題歌というオファーがあった際は、主人公が30代のOLだったら、30代のOLが普段何を考えているのか、どんなことに葛藤しているのかしら? と想像しながら書くんです」と明かしており、その探究心で様々な “人間の感情”に寄り添い、想像力を膨らませながら多種多様な景色を描いてきたのだ。

そのように丁寧に紡がれた言葉の数々だからこそ、多くの人の心を掴み、離さないのだろう。

■いつの時代も聴衆の心を照らす“歌詞”

ここからは数ある名曲のなかから、特に歌詞に注目して聴きたい6曲を厳選し、掘り下げていくことにしよう。

「駅」

多くの人々が行き交う駅を舞台に、昔の恋人を偶然見かけた主人公の心情を歌った同曲は、中森明菜へ提供した楽曲のセルフカバーだ。

別れて二年という月日が経っても、愛用品(レインコート)やちょっとしたクセ(はやい足どり)で相手を断定できるほど、主人公にとっては印象深い相手であることがうかがえる。もしかしたら…恋人時代に主人公がプレゼントしたから“見覚えのある レインコート”なのかもしれない。

それだけ深い関係性であった相手との偶然の再会(※主人公だけが気づいている状態)に心弾ませるも、当時の苦い思い出も浮かんできてしまい、声をかけられずにいる姿からは主人公の元来持つ無邪気さとちょっと大人になった成長具合を想像することができる。

主人公が大人になった描写としては“今になって あなたの気持ち/初めてわかるの 痛いほど/私だけ 愛してたことも”でも感じられる。付き合っていた当時は気づけなかった相手からの愛情を、別れたことでようやくその大きさを知り、噛みしめる。主人公の感情が大きく高ぶるこの場面にはぐっと引き込まれるリスナーも多いだろう。

「プラスティック・ラブ」

一見、恋愛をゲームに見立て、駆け引きを楽しむ魅惑的な主人公のように見える「プラスティック・ラブ」だが、その心のうちは過去の恋愛を引きずる、寂しさに溢れている。

冒頭から軽やかに男性をいなし、ディスコで踊り明かすという、華々しい生活のように感じるが、彼女にとっては“派手なドレスも靴も 孤独な友だち”であり、決して心の寂しさを埋めてくれるものではない。最初にあった“突然のキスや熱いまなざしで/恋のプログラムを狂わせないでね”は、もしかすると彼女が今も引きずっている相手との衝撃的な出会いだったのかもしれない。本気で愛してしまったがためにこんなにつらいのなら…せめて寂しさを埋めるように今この瞬間を楽しませてーーそんな悲痛な想いが滲んでいる。

いつの時代も表と裏はあるもの。同曲は1985年にリリースされた楽曲だが、今の若い世代も共感できる歌詞なのではないだろうか。やや陰を感じる内容だが、竹内の軽快で明るい歌声がそう感じさせないのもこの曲の特徴だろう。もっとも、それにより主人公の虚しさが強調されているのかもしれないが…。そして、最後の“I’m just playing games I know that’s plastic love”から続くリフレインの部分で、その虚しさが表現されているのかもしれないとも考えられる。この主人公が寂しさから脱却できることを思わず祈ってしまう。

「すてきなホリデイ」

クリスマスを鮮やかに彩る定番ソングとしても愛される「すてきなホリデイ」。“クリスマスが今年もやって来る”というフレーズを口ずさんだことがある人も多いはずだ。

幼少期に多くの人が経験したであろう家族と過ごすホリデイの様子を歌っており、街も華やぐ、クリスマスのワクワクやドキドキを存分に味わえる幸福感に包まれている。

それだけではなく“かじかんだ指を ママが温めるね”“いつもよりやさしそうな パパの目が笑ってる”など、子どもの頃を思い出させるフレーズにノスタルジーも感じられる。

さらに、“もしひとりぼっちでも 淋しがらずに/心に住むサンタに呼びかけて”と、クリスマスという特別な日の高揚感はそのままに、ひとりで過ごす人に対しても寄り添い、その包容力に脱帽する。

「いのちの歌」

「いのちの歌」は、三倉茉奈・佳奈がダブル主演をつとめたNHK連続テレビ小説『だんだん』(2008年9月29日~2009年3月28日)劇中歌であり、茉奈佳奈(まなかな)の4thシングル曲。同曲は竹内まりやがMiyabiの名前で作詞し、後にセルフカバー。現在では、卒業式などで歌われることも多い名曲だ。

大切な人たちとの出会いや生きていることへの感謝をまっすぐに綴った歌詞にぐっとくると同時に、改めて気づかされることも多い。

例えば、“本当にだいじなものは 隠れて見えない”は、わかっているはずなのについ忘れてしまうもの。生きていることは“当たり前”ではないのだ。“いつかは誰でも この星にさよならを”から始まる最後のブロックも、別れを悲しむだけでなく、生きている間の瞬間瞬間を慈しもうという前向きなメッセージに思わずはっとさせられる。

「人生の扉」

アルバム『Denim』(2007年5月23日発売)からシングルカットされた「人生の扉」(2007年8月8日にシングル「チャンスの前髪/人生の扉」として発売)。

楽曲発表当時、50代に突入した竹内まりやが自身の人生を通して感じてきたことを歌詞にしたのだろうか。とりわけグッとくるのは、英語詞の部分だ。

1番では20歳から50歳まで歳を重ねることが楽しいのだと掛け合い、2番でも60歳から90歳まで…と、結果的にどの年代もポジティブにとらえている。

時に“I say it’s sad to get weak(訳:弱くなるのは悲しい)”“You say it’s hard to get older(訳:年をとるのがつらいと言う)”と弱音をぽろりとこぼしながらも、“But I still believe it’s worth living(訳:でも、私はまだ生きる価値があると信じている)”と人生を謳歌する言葉で締めくくっているのが素晴らしい。

「元気を出して」

薬師丸ひろ子に楽曲提供した後、セルフカバーをした同曲もCMなどで耳馴染みのある名曲のひとつだろう。同曲は、カーリー・サイモンが離婚で失意のなかにいる様子を見た竹内まりやがどうにか励ますことができないかと、失恋した女性を励ます歌を作りたいと思って誕生した一曲。

個人的には出だしの“涙など見せない 強気なあなたを”が秀逸だと感じる。初めて聴いた時には、「涙など見せない!」と宣言しているのだと思ったが、励ます対象である“あなた”の性格を表していると知り、インパクトのある言葉で耳を傾けさせ、一気に歌のストーリーへと引き込むキャッチーさに驚いた。加えて、“涙など見せない”のひと言からは性格だけでなく、励ます語り手との関係性…それだけ深く相手を知っている=友人であることもわかる。

その後の歌詞でも、あの手この手で励ましているのだが、出だしで話者が“あなた”を深いところまで知っていると示していることで、話者と“あなた”の関係性が理解でき、その誠実な言葉が深く刺さる応援ソングとして、世代をこえて愛されている。

■10年ぶりのオリジナルアルバム『Precious Days』

こうして、時にリスナーに寄り添い、時に救いの手を差し伸べ、時に教えを説く曲を生み出してきた彼女が、10年ぶりのオリジナルアルバム『Precious Days』(2024年10月23日発売)をリリースする。

◎“Precious Days”というタイトルの意味

このタイトルには「当たり前だと思って過ごしている1日1日がどれほど尊いものであるか、2度と取り戻せない貴重な日々を味わいながら生きていきたい」という思いが込められている。

◎気になる収録楽曲は?

「Brighten up your day !」で幕が上がって大切な人たちへの思いを歌うと、「君の居場所(Have a Good Time Here)」からは自分らしくいられることの幸せ、日常の何気ないことで笑顔になれる幸せを歌い紡いてでいく。

「Watching Over You(Duet with 杏里)」からは苦しい恋愛の歌が続くが、「夢の果てまで」から空気が変わり、前向きなパワーを感じられる曲へ。

そして、「Coffee & Chocolate」から少しリラックスできる曲が続くと、「歌を贈ろう」からは広く深い愛を歌っていく。全18曲を通じて、この10年の軌跡…竹内まりやが得てきたものや人生の気づきが詰め込まれている。

◎生田絵梨花がコーラスで参加した「歌を贈ろう」

収録楽曲には、生田絵梨花地上波連続ドラマ初主演作品の『素晴らしき哉、先生!』主題歌「歌を贈ろう」も並ぶ。

同曲は、ドラマのために書き下ろされた新曲で、生田が演じる新米高校教師・笹岡りおのように悩み傷つきながらも生きていく人へのメッセージが込められている。さらに後半では生田がコーラスとして参加(※MVにも出演)しているので、その歌声にも耳を傾けてほしい。

■竹内まりやの最新情報をチェック

今回は特に歌詞にフォーカスを当てて、彼女の魅力に迫ったが、まだまだ語り尽くせない。アルバム『Precious Days』で円熟味を増した表現の奥深さに触れるとともに、これまでの名曲たちもこの機会に楽しんでほしい。

そして、2025年4月からは11年ぶりの全国アリーナツアー『大和証券グループ Presents「souvenir2025 mariya takeuchi live」supported by エアウィーヴ』(読み:スーベニール・ニーマルニーゴー・マリヤ・タケウチ・ライブ)の開催も発表。

ますます精力的に活躍する、彼女のこれからにも引き続き注視したい。

TEXT BY 高橋梓