過剰債務に苦しむ企業が積み上がり、倒産が増加するなか、事業再生の重要性が高まっている。法的手続きはレピュテーションリスクが避けられないため、準則的私的整理手続きが注目されている。中小企業の準則型私的整理の筆頭である「協議会スキーム」を担う中小企業活性化協議会は各都道府県に設置され、再生計画の策定は累計で1万8,704件(2002年4月〜2024年3月)に達した。
 東京商工リサーチ(TSR)は、千葉県中小企業活性化協議会で多数の事業再生に携わる石川貴康弁護士と今井丈雄弁護士にインタビューした。準則型私的整理への取り組みや事業再生の今後の見通しについて聞いた。


―これまでの経歴について

(石川)弁護士登録したのは1998年(50期)。千葉では名門の松本・山下綜合法律事務所に入り、大きな倒産事件で管財人代理(当時は常置代理人)などを経験した。
 その間、大阪の野村剛司先生と新宅正人先生と3人で「破産管財実践マニュアル」という書籍を執筆したことが弁護士人生の大きな転換点となった。
 その後、2003年に中小企業再生支援協議会が千葉県にも設立された。協議会の統括責任者に弁護士向けの研修会の講師を依頼したことを契機に協議会から相談や外部専門家の仕事を頼まれるようになった。こうした経験もあり、事業再生ガイドラインの第三者専門家としても私的整理を多く手掛けている。

(今井)弁護士登録は2007年(60期)。ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(当時)で倒産・事業再生事案を多く経験した。その後、国税不服審判所・国税審判官を3年間務め、千葉県弁護士会に登録替えをした。2017年10月〜21年3月まで千葉県よろず支援拠点で中小企業の経営支援のコーディネーターを、21年4月〜24年3月まで千葉県中小企業活性化協議会の統括責任者補佐を務めた。石川先生も委員となっているが、日弁連の中小企業法律支援センターの委員でもある。

―近年、準則的私的整理を活用した債務整理・事業再生が活発だ

(今井)事業再生のポイントは早期着手と資金繰り(の維持)だ。資金繰りが持たないと私的整理はできない。スポンサー探索の時間を確保することも大切。最近はコロナ禍で公租公課の未納が積み上がっている事案も多い。
 経営者は「お金が回っているうちは経営を続けたい」という方が多い。ただ、公租公課を払えていなかったり、(代表者の)私財を投入しているなど、実際にはもう回らなくなっていることが多い。そういう場合は金融債務をカットして貰っても解決にならず、収益性の改善に取り組む必要がある。2024年4月から中小企業庁が中心となって三機関連携(※1)が始まったが、非常に大事な取り組みだ。
 弁護士自身が私的整理に目を向けることも大切だ。千葉県の中小企業者は約12万社(者)で、年間倒産は200件(※2)ほどだ。それに対して事業再生に携わる弁護士が圧倒的に少ない。事業再生ガイドラインで言うと、千葉県の弁護士で第三者支援専門家の候補者リストに掲載されているのは石川先生ひとりだけだ。誰でもいいというわけではないが、プレイヤーが増えないと、支援が行き届かない。

※1 「事業承継・引継ぎセンター」「中小企業活性化協議会」「よろず支援拠点」の三機関を連携して中小企業を支援する仕組み。
※2 TSRの集計によると、2023年度(2023年4月-2024年3月)の千葉県の倒産は277件。

(石川)私的整理は前提として商取引債権とか公租公課の滞納が多いと困難である。特にコロナ支援の影響もあり、千葉県内には納税猶予を受けている中小企業がかなり残っている。私的整理は難しい場合で破産が避けられない場合でも事業譲渡により一部でも事業を活かすことをお勧めしている。この方法で「事業」は救える。赤字を垂れ流すなど、事業性がゼロの企業はそもそも生き残れない。ただ、収益を見直せば事業としては生き残っていける。早めの対応が必要で、経営者の覚悟と決断にかかっている。
 私的整理は、誰が経営者の背中を押してあげるかが重要だ。金融機関はレピュテーションリスクがあり、その点は顧問税理士や弁護士の役割だと思う。弁護士のなかには「破産の方が楽」との認識から、経営者に「破産してすっきりしましょう」と言ってしまうこともある。我々はそれをさせない。ただ、経営者には覚悟を迫ることもあり、早めに相談に来てもらうようにしている。公租公課や商取引債権を滞納していないなかで、金融調整が必要であれば、我々は喜んでお手伝いする。
 かつての倒産村の弁護士は「支払いが厳しくなったら来てくれ」のスタンスだった。企業に寄り添って信頼を得るために早い段階から親身に相談にのっていくことが求められる。先ほどの今井先生が紹介した三機関の連携も全体的にはまだ浸透してないのも課題だ。
 千葉県の第三者支援専門家は私だけだが、中堅や若手弁護士向けに勉強会をして、倒産や事業再生に精通した弁護士を増やしたい。最近の流れで言うと、経営者保証ガイドラインの活用が少しずつ広がっており、「早期に着手すれば大丈夫なんだ」との認識も醸成されつつある。



インタビューに応じる石川弁護士

―中小企業活性化協議会での活動について

(今井)私が関与した事例を2つ紹介する。1つは石川先生が代理人をされた事案で、資金繰りがもたず、スポンサー候補は存在するが譲渡までたどり着けるか分からない事案があった。電気代等を含めて費用を切り詰め、支払いも延ばしてもらいなんとか譲渡できた。
 もう1つは、コロナ禍の影響を受け、金融債務だけではなくリース料も払えるか危うい事案だ。当時の協議会では異例の対応だが、リース料もリスケジュールの対象にした。最終的には弁護士が入って、対顧客の料金体系を見直し、債務整理なしで対応を完了できた。こうした経験から思うのは、債務整理に着手する前にやれることは多いということだ。弁護士が早めに入る、あるいはもっと前に専門家が入って対策を検討すると、立ち直れる可能性が高まる。

―中小企業活性化協議会への期待は高まっている

(石川)協議会案件では、企業を特別清算で処理するなかで代表者の保証債務は経営者保証ガイドラインの単独型を利用することもある。千葉県はこの利用が昨年度(2023年度)と一昨年度、全国で2位だった。所謂再チャレンジ支援と言われるが、今井先生が協議会の統括責任者補佐で入っていた際に掘り起こしてくれた。私もこの案件の調査報告書を作成する件数がかなり増えている。

―過剰債務に苦しむ経営者にアドバイスを

(石川)分野によって然るべき専門家、税理士や中小企業診断士、よろず支援拠点でもいいが、この経営課題だったら、こういう相談先があるよと伴走的な支援で全体を統括するという立場で弁護士に入ってもらうのがいい。道案内ができる人のサポートだ。公的な機関を活用し、コストがかからない方法で専門家につなぐことが出来るアドバイザーの活用が肝だ。各地の商工会議所が経営相談に乗っており、そこで経営指導を仰ぎ、専門家の紹介を受ける形がベストではないか。

―いわゆる「私的整理の法制化」について

(今井)事業再構築小委員会(※3)の議事録を見ると、中堅以上が念頭のようだ。すぐに千葉県や地方の中小企業で使われるわけではなさそうだが、将来的にはわからない。
 多数派の意見で決まるとなれば、金融機関は少数派になる形では融資をしたがらないかもしれない。大企業であればメインバンクが助けてくれることもあるが、中小企業はそうとは限らない。急な資金需要が生じても金融機関からの調達が難しくなる可能性もある。長い目で見ると中小企業の資金調達に支障が出ることもあり得ると思うので、制度設計は簡単ではないだろう。

※3 経済産業省が2024年6月から事業再構築を巡る有識者会議を立ちあげ、私的整理にも多数決により債務整理ができる制度導入が検討されている。




今井弁護士

(石川)前提として選択肢は多い方が良いので個人的には反対しない。他方で新しい制度を作る際には立法事実があることが大切だと考えている。私的整理で同意がとれず簡易再生移行した案件があるようだが、強い立法事実があるかは少し気になる。
 制度の内容として「一時停止をどうするか」は興味がある。一時停止に拘束力を持たせないと、機能しないので、一時停止の判断には裁判所の関与が不可欠だと思っている。裁判所が判断する時に本来回収でき、平場で回収できる権利を強制的に止めるとするのであれば、相応の理由や材料がないといけないので、それをどう審査して、どのような要件で裁判所が一時停止を出すのかは気になるところだ。
 また、(多数決での合意に)拘束されるのであれば、認可の時にも裁判所の関与が不可欠だろう。ただ、手続実施者のような公正中立で、専門的な人が「OKだ」と言うのであれば、比較的緩くは認可が出来るのではないか。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年10月16日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)