子供たちの野球離れが止まらない。ライターの広尾晃さんは「日本最大のプロスポーツとしての地位に胡坐をかき、ファンを増やす努力をしてこなかったNPBの責任は大きい」という――。

■巨人のエースがCSについて漏らした本音

今年のNPBもポストシーズンに突入したが、セントラル・リーグの覇者となった巨人のエース、菅野智之が発した言葉がひっかかる。

菅野はペナントレース終了後、宮崎県で行われている教育リーグの「フェニックスリーグ」で調整登板していたのだが、報道陣に「ちょっと日程が空きすぎるので、ちょっとここは考えてほしいなって思うところではあるんですけど…」と言った。(10月9日デイリースポーツ配信記事など)

巨人がペナントレースを修了したのは10月2日(水)のことだった。しかし巨人にとって次の真剣勝負の場であるクライマックスシリーズ(CS)・ファイナルステージの開幕は10月16日(水)だ。

この間、実に2週間。シーズン中に試合がない日があるとしても2〜3日だから、これは異様に長い。ペナントレースで優勝し、CSファーストステージを勝ち上がってくるチームを待ち受ける立場の巨人、ソフトバンクは、この長い期間、体力、気力を維持し続けなければならない。

そのために、本来は若手の教育リーグであるフェニックスリーグに主力級を投入することになるのだが、優勝チームの選手にとって、この長すぎるインターバルは、非常に難しい課題になっている。

■だらだらと消化試合を行うNPB

NPBのペナントレースは、半年、約180日間で143試合を消化することになっている。ざっくり言えば5日で4試合するペースなのだが、雨天などで試合が中止になると、シーズン後半に新たに振替試合を組み入れる。このため、本拠地球場が屋外のチームはどんどんスケジュールが後ろにずれこんでしまい、ドーム球場を本拠地とする球団と試合消化の足並みがそろわなくなってしまう。

今年の主催試合でいうと、セ・リーグで雨天中止になった試合数は広島が6、阪神が5、ヤクルトが4、DeNAが3だった。このほか、ドーム球場のバンテリンドームが本拠の中日が台風の影響で3試合中止となった。パ・リーグは楽天が6試合、ソフトバンクは鹿児島での試合が1試合中止になった。これらの試合はシーズン後半に改めて試合日を振り返ることになった。

広島市民球場(マツダスタジアム)(写真=HKT3012/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

その結果として、主催試合の中止が1試合もなかった巨人は10月2日に全日程を消化したが、一番試合消化が遅れた楽天は10月9日まで試合を行うこととなった。

ドーム球場を本拠とする球団と、屋外球場の球団では、試合消化で大きな違いが出てきているのだ。天候不順が多い昨今、そのギャップは広がりつつある。

NPBは消化試合が後ろにずれ込むことを想定して、10月の日程に余裕を持たせてポストシーズンを10月12日から始めることとしているのだ。

■MLBとNPBの大きな違い

まだ今年はレギュラーシーズンとポストシーズンが重ならなかったからいいが、2018年などは、CSファーストステージが10月12日から始まったのに、この時点でペナントレースは全日程を終了することができず、10月13日にロッテ対楽天、阪神対中日と2試合を行っていたのだ。

この4チームはCSに出場していなかったからいいものの、CSに出場が決まったチームがペナントレースを未消化の場合はいったいどうするのだろうと思ってしまう。

またポストシーズンが始まっているのに、同じ時間帯にシーズンの消化試合を行っているのは、興ざめもいいところだと思う。

一方、MLBはどうだろうか。同じ半年、約180日間で162試合を消化する。10日で9試合とNPBよりも過酷な日程だが、NPBのようにいつまでもだらだらと消化試合が行われることはない。

MLBでは同一カードで1試合が雨天などで中止になると、翌日はダブルヘッダーになることが多い。移動日を潰して試合を消化することも多い。もちろん、未消化の試合を後日程で振替にすることもないではないが、それほど多くない。

臨機応変に試合を組むことができるのは、MLBの30球団の本拠地が、すべて球団専用の球場であり、他の予定が入ることはないからだ。NPBでは本拠地球場であっても他の催しが予定されていることもあり、急に日程を組み替えることができないという事情もある。

写真=iStock.com/andipantz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/andipantz

■記録よりもポストシーズンを優先

もちろん、アメリカの降雨量が総じて日本より少ないこともあるが、MLBではほぼすべてのチームが横並びで試合日程を消化する。

今年で言えば、9月30日(現地時間)でMLBのペナントレースはすべて終了した。ここまでで消化できなかった試合は打ち切りになる。

今季は、クリーブランド・ガーディアンズとヒューストン・アストロズの対戦が1試合消化できず、打ち切りとなった。両チームのレギュラーシーズンの試合数は他のチームより1試合少ない161試合となった。

ガーディアンズのホセ・ラミレスは大谷翔平に次ぐ史上7人目の40-40(40本塁打40盗塁)がかかっていたが、試合がなくなったので39本塁打41盗塁に終わった。しかしこれに異論を唱える声はあまり起こらなかった。

MLBでは、ポストシーズンは、レギュラーシーズン以上に重要であり、何が何でもレギュラーシーズンを終了させることが至上命題になっているのだ。

MLBのポストシーズンはレギュラーシーズンが終了した翌日の10月1日に開幕する。最初はワイルドカード(各地区2位のチーム)のチームが対戦する「ワイルドカードシリーズ」だったが、驚くべきことに前日の9月30日のシーズン最終日にダブルヘッダーで戦ったアトランタ・ブレーブスとニューヨーク・メッツがともに翌日、出場していた。

■試合日程に施された驚くべき配慮

そして10月6日には「地区シリーズ」が始まる。大谷翔平のドジャースはナ・リーグ西地区で優勝したが、レギュラーシーズンは9月29日に終了、それから1週間でポストシーズンである「地区シリーズ」に突入した。菅野の巨人よりも1週間短かった。

ここから「リーグチャンピオン決定シリーズ」へと進み、ア・ナ両リーグの勝者が決定するのが10月22日、2日置いて10月25日から7戦4勝の「ワールドシリーズ」が始まるのだ。

レギュラーシーズンからポストシーズンへ、ファンの熱気を冷めさせることなくさらに盛り上げていこうというMLBのマーケティングが見て取れる。

もう一つ言えば、MLBは各日の試合日程にも実に細かい配慮を行っている。

今季の地区シリーズで言えば、10月10日にア・リーグのガーディアンズ対タイガース、ナ・リーグのヤンキース対ロイヤルズを行うと、翌11日はナ・リーグのパドレス対ドジャースの1試合、12日はタイガース対ガーディアンズ、13日はメッツ対ドジャースという風に、両リーグの試合日程をずらして、毎日、アメリカのどこかで試合があるようにしている。これもファンの関心をつなぎとめるためだ。

驚くべきことに、すべての試合で時間被りがない。(プレジデントオンライン編集部作成)

また同日に複数の試合があるときは、一方がナイトゲームならもう一方はデーゲームなど、試合開始時間が重ならないようにしている。

■他のスポーツに人気を取られたくない

これに対しNPBは、CSファーストステージもファイナルステージも、両リーグで同一の日程で行う。休みも同じだから、ポストシーズンで盛り上がっている中でも「試合がない日」ができてしまう。そして多くの試合は同じ時間に試合開始しているのだ。

レギュラーシーズンでもNPBは「月曜日は定休日」のようになっているが、MLBは試合がない日がないように日程を組んでいる。

ファンを獲得し、社会の注目を集め続ける、という意識において、NPBとMLBでは熱量があまりにも違いすぎるように思う。

驚くべきことに、すべての試合で時間が被る。(プレジデントオンライン編集部作成)

NPBは、レギュラーシーズンでの試合日程をもう少し工夫すべきだろう。消化できなかった試合は、移動日を潰してでも早いうちに消化すべきだし、場合によってはダブルヘッダーの復活もあっても良い。野球協約上、ダブルヘッダーをすることは認められているのだから。

MLBは「北米四大スポーツ」といわれるNFL(アメリカンフットボール)、NBA(バスケットボール)、NHL(アイスホッケー)の中では、ファン層が高齢で、若者の人気が今一つだと言われる。劣勢だという意識があるだけに、マーケティングにはどん欲なのだ。

■お役所のようなマネジメント

NPBはJリーグというライバルはあるにしても、日本最大のプロスポーツとしての地位は安泰だ。

野球の競技人口は減少し「野球離れ」に歯止めはかかっていないが、さしあたっての大きな競合はないから、大企業やお役所のようなマネジメントが、いまだにまかり通っているのだ。

しかしながら、大谷翔平の昨今の異次元の活躍によって、MLBへの注目度がNPBを凌駕しつつあることは由々しき事態と言えよう。

今年は春先から、午前中のワイドショーに始まり、昼の情報番組、夜のニュース番組まで、トップで大谷翔平、MLBの話題が大々的に報じられることが多くなった。

政治評論家、弁護士、大学教授、タレント、芸人などがメジャー評論家のように「大谷翔平の打撃」「ドジャースのペナントレース」について縷々述べ合うのは滑稽な感じもしたが、NPBの話題よりも明らかに大谷、MLBの話題が大きかった。

写真=共同通信社
試合後、インタビューに応じるドジャース・大谷=2024年10月14日、ロサンゼルス - 写真=共同通信社

■野球少年の夢はメジャーリーガーに

元日本テレビアナウンサーの徳光和夫氏はラジオで、「(ニュース番組では)メジャーに10分費やして恐らく日本のクライマックスシリーズは4分ぐらいで終わるんじゃないかと思いますが、これを何とかしてもらいたい」と言った。

長嶋茂雄を慕うあまりに立教大学に入り、読売グループの日本テレビに入った「巨人愛」に燃える徳光氏からすれば昨今の「何でも大谷翔平、とにかくメジャーリーグ」という風潮は嘆かわしく映っているのかもしれない。だが、今の若い世代にとって日本だ、アメリカだというボーダーラインはもはや存在しない。

今や、野球少年たちの夢は「甲子園に出場してプロ野球に入る」ではなく「WBCに出場してメジャーリーグで活躍する」になっているのだ。

NPB、日本プロ野球のお役所仕事的なマネジメントは、とっくに陳腐化している。

MLBへ、世界へと関心が向いているファンの目をこちらに再度向けさせるためにも、もっと魅力的なスケジューリング、マーケティングを考えるべきだろう。

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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。
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(スポーツライター 広尾 晃)