天国の対戦相手へ「報告はしたいっすね」 リング禍から8か月、堤聖也が涙の世界王座獲得「拓真に勝ったのはほんっとうに嬉しい」
WBA世界バンタム級タイトルマッチ
ボクシングのWBA世界バンタム級(53.5キロ以下)タイトルマッチ12回戦が13日、東京・有明アリーナで行われ、挑戦者の同級2位・堤聖也(角海老宝石)が王者・井上拓真(大橋)に3-0の判定勝ち(114-113、115-112、117-110)した。世界初挑戦で悲願を達成し、拓真は王座陥落で3度目の防衛に失敗。14日を含め、日本初となる1興行7つの世界戦が2日に渡って行われる。戦績は28歳の堤が12勝(8KO)2分け、28歳の井上が20勝(5KO)2敗。
会場は両選手の声援が入り混じった。堤が序盤から距離を潰し、左ボディーなどのコンビネーションで攻めた。拓真も素早いハンドスピードで応戦。3回にコーナーでラッシュを浴びたが、抜群のボディーワークでいなし、右アッパーを当ててしのいだ。中盤も挑戦者が左右をスイッチしながら攻勢に回り、王者がさばく展開。「拓真!」「聖也!」のコールが交錯した。
7回に拓真の有効打で堤が左まぶたをカット。しかし8回、堤が開始から猛攻に出た。ロープを背負わせ連打。10回も猛連打から左フックが入り、ついにダウンを奪った。拓真はノーダウンをアピール。両手を広げて猛抗議したが、実らなかった。再開後も挑戦者が執念で打ち続けた。11回は壮絶な打撃戦。気力勝負となった最終12回も堤の拳は緩まなかった。判定結果を聞いて絶叫。欲しかったベルトを天に掲げ、涙した。
会見場には傷だらけで現れ、石原雄太トレーナーとともに質問に応じた。「嬉しいっすよね。けど、何だろう、こういう当たり前の表現するのが嫌なんですけど、実感がないです」と正直な心境を表現。「当てづらい、上が当たらないから下から下から行く作戦。でもなかなか当たらないし、どうしようかなと。肝心なスピードは予想の範囲内だった。そこで焦ることはなかった。初回でスピードに慣れたのでどうやって当てていこうと。石原さんの指示を聞きながらやっていた」と試合を振り返った。
1995年度生まれ、同学年の日本人対決。高校2年だったアマチュア時代、2人は全国高校総体準決勝で対戦し、拓真が勝利している。因縁の相手との再戦。「ずっと『アンド・ザ・ニュー』を頭で想像していた。『アンド・ザ・ニュー』『アンド・ザ・ニュー』って想像して、判定の瞬間、聞こえた瞬間、本当に嬉しかったですね」と喜んだ。
目に涙をためながら「拓真に勝ったというのはほんっとうに嬉しいです。やっぱり拓真がいなかったプロボクシングに来ていないと思うし。ずっと高校生の時からずっと考えていた。リベンジしたいって。拓真からしたら僕は普通のインターハイで試合をした同い年のやつ。それ以上もそれ以下でもない。何の印象もない。12年間ずっと片思いをしていた。追いかけて、追いかけて今日超えることができた。最高ですね」と話した。
堤は日本王者だった昨年12月、国内の猛者が集った「バンタム級モンスタートーナメント」で穴口一輝選手(真正)からダウンを4度奪う3-0の判定勝ち。しかし、相手は試合後に意識を失い、右硬膜下血腫により緊急の開頭手術を受けた。意識が戻ることなく、2月2日に23歳で死去。亡くなる直前にこの試合が2023年の年間最高試合賞(世界戦以外)に選ばれ、堤は努力・敢闘賞も受賞した。
穴口についての想いを問われた堤は、獲得したベルトを見ながら、かすかに声を震わせ「まあ……まあ……報告はしたいっすね。ここで言うことではないかなと思います」と話すにとどめた。現在、バンタム級の4つの世界王座はWBAに堤、WBCに中谷潤人、IBFに西田凌佑、WBOに武居由樹が就き、日本人が独占。「お腹いっぱいなのであれですけど、4人とも日本人じゃないですか。誰と見たいとか、そういうのが出てくると思うので、そういう試合をしていきたい。やりたくないやつとも僕はやってきたので。ベルトは他のも欲しくなるのが自然な流れ。井上拓真という強固なチャンピオンに勝ったのでそういうことも言っていいのかなと。ただ、ちょっと今はお腹いっぱい(笑)」と話した。
(THE ANSWER編集部)