(写真:Graphs/PIXTA)

9月から10月にかけて、東京都、埼玉県で組織的犯罪グループによる、一般家庭を狙った強盗事件が立て続けに起きています。関東圏での警察の警戒が厳しくなってきているために、今後、地方へ飛び火する可能性もあり、あらゆる地域での警戒が必要です。

まだ警察による捜査段階ですが、今回の強盗事件に共通しているのは、「闇バイト」で集められた者たちによる犯行の可能性と報じられている点です。

一般的にこうしたケースで狙われるのは、お金があり、抵抗できないであろう人が住む家です。今回も高齢夫婦や60代女性宅などが襲われて、すでに数百万円が奪われたケースもあります。

情報を聞き出す「アポ電」の手口

組織的な犯罪グループは、あらかじめ名簿を入手して犯行をしようとします。そこに詳細な個人情報が付加されてしまうと、「狙われる家」になってしまう恐れがあります。

犯罪グループが情報を集める手法は、点検などと嘘をついて訪問することもありますが、やはり電話による聞き出しが圧倒的に多いと考えられています。

「アポ電」という事前に情報を聞き出す電話で、家族状況や資産状況などを調査。相手に合わせたストーリーを犯罪グループは考え出して詐欺を実行します。

今の時代は、詐欺だけでなく、強盗の被害に遭う可能性も考えておかなければなりません。それだけに、情報を聞き出すアポ電の手口を知ることが大事になります。

ここ最近、「総務省」などの公的機関をかたり、2時間という絶妙な時間で切って、焦らせるような音声ガイダンスの電話がかかってきた、という報告が相次いでいます。

「電話料金が支払われていないので、この電話は2時間後に使用できなくなります」

しかもかけてくる相手は音声ガイダンスですので、どのような状況なのかを聞くこともできません。

「何の料金が払われていないのだろうか……」

そう思う気持ちを見透かすように、次の言葉が続きます。

「料金の確認をしたい場合は、『1』の番号を押してください」

音声ガイダンスの電話をかけてくる理由

言われたとおりに番号を押したくなる人もいるかもしれません。しかし絶対に先に進んではいけません。そこには、オペレーターをかたる詐欺グループのメンバーが待っているからです。彼らと会話をしてしまうと、「本人確認」を口実に、名前、生年月日などの個人情報を聞き出されることになります。

なぜ、犯罪グループは音声ガイダンスの電話を多くかけてきているのでしょうか。2つの理由が考えられます。

1つ目は、これが人の声ですと「だまされるかもしれない」と警戒して、電話を受けた人がすぐに切るかもしれませんが、相手が公的機関をかたっての機械的な音声だと、最後まで話を聞かせることができて、犯罪グループにとって罠にはめやすくなるということです。

2つ目は、音声ガイダンスで電話をかければ、相手の反応などを気にせずに、次々に自動で詐欺のアプローチができることです。だましやすい人をより効率的に犯罪グループは選別できます。

実際にどのようにしてお金をだまし取るのでしょうか。

一度でもお金を払うとリストに載る

国民生活センターが発表している相談には、50代女性が電話に出てきたオペレーターから、電話が止められる理由として「サイト利用料金が1年間未納になっており、裁判にかけられている」と言われた、というものがあります。

その話を信じた女性は、未納料金と弁護士費用などを合わせた30万円を請求されています。それを支払えば「裁判を止められる」などと言われて、コンビニで30万円分の電子マネーを購入して、プリペイドカードの番号を詐欺師であるオペレーターに伝えてしまい、金額分をだまし取られました。

この手口の怖さは、嘘の請求ですので、詐欺グループに一度でもお金を払ってしまうと、カモリストに載っていまい、次々と架空請求の電話がかかってきてしまうことです。

被害女性はその後も、「個人情報保護委員会」を名乗る人物から電話があり、「2つのサイトで未納料金がある」と言われて、50万円を請求され、再び電子マネーを購入してしまっています。

この自動音声ガイダンス詐欺では、NTT関連会社や個人情報保護委員会など実在する組織をかたり相手を信用させたところで、「誰にも口外しないように」と口止めをします。その結果、誰にも相談できず、高額な被害になってしまいます。

このところ、新たな手口も出ています。

愛知県に住む70代女性は、総務省をかたる「携帯電話が使用できなくなる」という音声ガイダンスの電話をきっかけに、詐欺被害に遭っています。

電話に出た偽の警察官から「あなたの銀行口座や携帯電話が犯罪に使われている」と言われた後に、LINEを通じて、本人の名前が載った「逮捕状」を見せられます。

そして詐欺にお金が流れていないかを調べるためということを口実に、時価で1700万円以上という金塊を貴金属販売店で購入させます。それを偽の警察官の指示通りに、玄関先に置いておくと、それが持ち去られたといいます。

警戒心の薄いところを突く手口

現金ではなく、金塊にして持ち去っています。なぜかといえば、詐欺というのは、警戒心の薄いところを突いてくる傾向があるからです。

現在、銀行などでは多額のお金を引き出す行動に対して、警戒が強まっています。銀行側も詐欺を疑い、お金の使用目的を聞くと思います。しかし「金塊を買う」となると、通常の商取引になりますので、銀行側も詐欺への警戒が緩くなってしまうわけです。

さらに貴金属販売店でも、まさか自分のところに詐欺に巻き込まれた人がやってくるとは思いませんので、簡単に金塊を販売することになります。まさに盲点を突いたような犯行と言えます。

だまし方も、LINEで偽の「逮捕状」を見せるなど、巧妙です。今回は、ビデオ通話を使っていたといいます。詐欺グループとしては、相手の顔を見ながら話せるので、本当に詐欺の話を信じ込んでいるのかをその表情で確認しながら、話を進めることができます。

もしこうした行為の途中で詐欺だと気づき、被害に遭わなかったとしても、安心はできません。一人暮らしの状況や、家にお金を置いているなどの情報が知られていれば、強盗のターゲットになる恐れがあるからです。いかに犯罪の予兆電話に応じないかが、大事になります。

ただし、音声ガイダンスの電話は、「電話が止まる」とかかってくるだけではありません。

昨年、多くかかってきたものに「電気料金が払われていないので、2時間後に電気が止まります」という電力会社をかたる電話もありました。

「荷物が届いています」という音声も

ほかにも、郵便局をかたる自動音声ガイダンスの電話もあります。

「荷物が届いています。オペレーターにつなぐ場合は2番を押してください」

この電話を受けた方は「荷物が届いた」と思い、電話のボタンを押したくなるのではないでしょうか。この場合、荷物の配送名目で、住所や氏名を聞かれることになります。こうした個人情報をもとに、犯罪グループのもとにある闇名簿の情報がアップデートされてしまうと、詐欺だけでなく、強盗被害に遭う可能性も高まってしまうというわけです。

電話は、必ずしも固定電話にだけかかるわけではありません。スマートフォンにかかってくることもありますし、音声ガイダンスではなく、市役所職員などを装った人物が電話をかけてくることもあります。

怪しい電話に質問を重ねてはいけない

詐欺や強盗の被害に遭わないためには、何が必要なのでしょうか。犯罪の予兆電話においては、相手の話を最後まで聞かずに、電話を切ることです。犯罪グループの目的はすべての話を受け身の状態で最後まで聞かせて誘導しようとすることです。

多くの人がやりがちなのが、偽の市役所職員と話した場合、途中で「何かおかしい」と思い、それを確かめようとして、質問を重ねてしまうことです。

そうなると、こちらの個人情報を相手に伝えてしまうことにつながります。長話をすればするほど、こちらの個人情報が漏れて、闇名簿のアップデートをされてしまうわけです。「怪しい」と思えば、すぐに電話を切って、自分で調べた役所などの連絡先に電話をかけることが必要です。

今回、発生している強盗事件も、強盗犯の一人が逃走中に詐欺の「受け子」をしていたとの報道からもわかるように、この犯罪グループは詐欺と強盗の両方を行っていた可能性があります。

それゆえに、犯罪者のもとにある闇名簿をいかにアップデートさせず、詐欺においては、狙われない人となり、強盗に対しては狙われない家になるかが求められています。

( 多田 文明 : 詐欺・悪徳商法ジャーナリスト)