▲作家の島田明宏さん

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【島田明宏(作家)=コラム『熱視点』】

 私は都内の仕事場から美浦トレセンに行くとき、いつも常磐自動車道の桜土浦インターで降りている。その手前のつくばジャンクションから圏央道に入って阿見東インターを使うほうがいくらか早く着くのだが、数百円高くなるのでケチっているのだ。

 それはさておき、昨年、相馬野馬追取材に行くとき、久しぶりに桜土浦インターより先まで常磐道を北上して驚いた。

 桜土浦インターから岩間インターまでの30キロほどの区間の最高速度規制が、従前の時速100キロから110キロに引き上げられていたのだ。道は広いし、交通量は少ないし、ほとんど直線なので、もともとそのくらいで走っていたクルマが多かった区間ではある。

 1963年に名神高速道路が完成して以来、日本の高速道路の最高速度は長らく100キロに制限されていたが、2020年12月に新東名の制限速度が120キロに引き上げられてから、前述した常磐道の引き上げが5例目になる。

 なぜ制限速度が引き上げられたかというと、だ。実際にクルマが走っているスピード(実勢速度)が、区間によっては法定速度を超えており、両者の隔たりを解消することで、取締りへの理解を広めたいという警察サイドの狙いがひとつ。また、世界的に高速道路の最高速は120~130キロが主流で、同じアジアの韓国や中国でも120キロに引き上げられている。それらに歩調を合わせるグローバル化でもあるわけだ。さらに、最近のクルマの性能、特に安全性が向上したことや、もともと効率のいい移動を望んでいるからこそ高速道路を使おうとするユーザーサイドの視点に立った引き上げとも言える。普通車以外の話になるが、今春から実施されたトラックドライバーの残業規制強化によってドライバーが不足する、いわゆる「2024年問題」を見据えたものでもあったようだ。

 実勢速度のところで述べたように、ルールが実情に合わなくなってきたところ、すなわち、違反が起きやすいところから制限が緩められたということは言わずもがなだろう。

 同じように、通信環境や情報の伝わり方などが大きく変化したことにより、調整ルームのルールが時代に合わなくなってきている。なので、調整ルームへの通信機器の持ち込みや、それ以前に、調整ルームへの入り方などを見直してもいいのではないか、と、私は考えていた。

 競馬法に則した公正競馬の施行という観点から、スマホの持ち込みは認めないとしても、レース結果や映像データなどにアクセスできるタブレットなどは、主催者から貸し出すという形にして使用を認めるようにしてもいいのではないか、と。

 MLB(メジャーリーグベースボール)中継で大谷翔平選手がベンチでタブレットを見ているシーンはお馴染みだ。日本のプロ野球でも認めてはどうかと発言している監督もいるが、サイン盗みなどにつながる可能性もあるからと、いまだ「検討課題」のままである。

 結果として「時代遅れ」になっているわけだが、競馬に関しては、個人同士の通信ができない、接続先が競馬のデータベースに限られた閲覧専用のタブレットなら、特に問題はないだろう。

 そう思っていたのだが、先日、永野猛蔵騎手と小林勝太騎手が調整ルームにスマホを持ち込み通信して騎乗停止になったことで、考えが変わった。ダメだこりゃ、としか言いようがない。

 自分たちのせいで「時代遅れ」のままになっていることを自覚してほしい。

 前にも書いた、通信機器の持ち込みを制限できない海外のレースの馬券も売っているわけだし、欧米のルールに合わせたグローバル化も必要で、高速道路の制限速度同様、実情と古いルールとの隔たりをいずれ埋めていくべきだとJRAも考えていたはずだが、これで前に進むわけにはいかなくなった。

 特に若手騎手には、スマホと騎手免許のどっちを選ぶか、くらいの気持ちでいてもらわないと、また同じようなことが繰り返されるような気がする。

 政治家の謝罪会見などを見ていつも不思議に思うのは、みな露顕して初めて涙を流して頭を下げることだ。10年前に出張旅費などを着服し、会見で号泣した元兵庫県議にしても、「県民のみなさま、申し訳ありません」と涙を流しながら不正をしていたわけではないだろう。バレたから泣いたのだ。あれでは、悪いことをしたからではなく、バレたから謝っていると思われても仕方がない。

 詫びて泣く騎手が出てきたとしても、泣きながらスマホで通信していたわけではなかったはずだ。が、若手騎手の場合は政治家と違い、事の重大さをわかっていなかっただけだと思いたい。

 いずれにしても、ルールを守っている大多数の騎手たちの邪魔をするのは、もうやめてほしい。