IBMも決断、止まらない地銀システム「大同団結」
基幹システムは銀行間で競争を繰り広げるよりも、協調する時代だ(写真は10月1日の記者発表会、記者撮影)
日本IBMは10月1日、地方銀行向けに新たな基幹システムのプラットフォームを提供すると発表した。三菱UFJ銀行やインターネットイニシアティブと協力してインフラを構築し、複数の地銀が乗り合う。
基幹システムの大規模な共同化はNTTデータが先行して標榜しており、形態は異なれどIBMもこれに続いた形だ。基幹システムを媒介に地銀が結集する「大同団結」は、ベンダーの乗り換えやシステムを超えた地銀同士の業務連携も喚起しそうだ。
「共同化の共同化」
「プラットフォームを1つにしていこう、というのは自然な流れだ」。日本IBMの山口明夫社長は力を込める。
このほどIBMが共同化を進めるのは、預金や決済、為替といった銀行業務を支える基幹システムとその周辺システム、API基盤などだ。中でも基幹システムは、三菱UFJ銀行が設立した新会社がIBM製のメインフレーム(大型のコンピューターシステム)を一括して調達し、地銀に賃貸する。
三菱UFJ銀行が主体となる理由は、同行の基幹システムがIBM製であるだけでなく、地銀の共同化システム「Chance」の基盤にもなっているからだ。Chanceは現在、地銀8行が採用しており、IBMのプラットフォーム構想についても参加を検討している。
また、このプラットフォームには八十二銀行を中核とする共同化システム「じゅうだん会」を採用する7地銀や、同じくIBM製の共同化システムである「Flight21」を採用するふくおかフィナンシャルグループなどが、すでに採用を決めている。
基幹システムの共同化からさらに一歩進んだ「共同化の共同化だ」(山口社長)。千葉銀行を中心とする「TSUBASA」の参加可否については明言を避けたが、「(参加行)を1行でも多く増やしたい」(同)という。
「共同化の共同化」のメリットは、規模の経済が働くことだ。地銀にとっては保守費用の抑制や技術者の有効活用、一括調達によるメインフレームの安定供給などが期待できる。加えて、基幹システムという共通項を越えた、地銀同士の業務提携という副次的な効果も期待できそうだ。
共同化を進める地銀の間では、システム以外の側面でも連携を深める傾向にある。Chance参加行は2023年末、ストラクチャードファイナンスの案件情報やノウハウを共有する協議会を立ち上げた。じゅうだん会も定期的に会合を開き、参加行の間で情報交換を行っている。
ある地銀のシステム担当者は、「最初はシステム運用を目的に集まるが、顔合わせを重ねるにつれて、お互いの人となりがわかってくる。すると、別の事業でも連携を模索する機運が高まる」と話す。
今年3月には、じゅうだん会とTSUBASAがデジタル化や店舗運営の効率化などで研究会を設立した。ある参加行の幹部によれば、両グループの中核である八十二銀行と千葉銀行が主導したといい、両グループともIBM製の基幹システムを共同利用していることが、パートナー選びのきっかけとなったようだ。IBMの新たなプラットフォームが始動することで、さらなる広域連携が進む可能性がある。
NTTデータも着々
「共同化の共同化」を進めるのはIBMだけではない。NTTデータは今年2月、同社の基幹システムを利用する地銀向けに「統合バンキングクラウド」の開発に着手したと発表した。まずは2028年にも「地銀共同センター」に提供。ゆくゆくはほかの3グループにも拡大し、国内地銀の約4割を巻き込みたい考えだ。
基幹システムを媒介とする本業連携は、NTTデータ側でも起きている。MEJAR参加行は2022年から、脱炭素融資や研修などで協業を進める。さらに地銀共同センターとの間でも、2021年にシステム運用や人材育成などで協業するワーキンググループを立ち上げている。
かつては効率よりも自由度を優先し、あえて単独で基幹システムを運用する地銀が少なくなかった。だが、IBM・NTTデータ両陣営で共同化の共同化が進み、コスト削減や業務提携などの利点が増えれば、相乗りする地銀が増える可能性がある。
実際、共同化の枠組みの外にいる地銀は年々減っている。単独でIBMの基幹システムを利用していた伊予銀行は、2028年から日立製作所の「Open Stage」に移行すると決めた。同システムは静岡銀行で稼働し、滋賀銀行や京葉銀行も採用を決めている。
同じくIBMの基幹システムを利用していた島根銀行も、福島銀行が先行して採用していたSBIグループ製の共同化システムに2025年から乗り換える予定だ。SBIは島根・福島両行の大株主でもあり、資本だけでなくシステムでも関係を密にする。
富士通ユーザーは草刈り場か
今後注目が集まりそうなのが、富士通製の基幹システムを利用する群馬・東和・富山第一銀行の動向だ。富士通は2030年度でメインフレームの製造・販売を、2035年度に保守を終える予定で、3行にとっては他社システムへの乗り換えが現実味を帯びているからだ。
群馬銀行は「2029年の更改に向け、クラウド化も視野に入れる」とし、富山第一銀行も共同化システムに参加する意向をにじませる。
銀行に基幹システムを提供するベンダーの幹部は「マネーロンダリングやサイバーセキュリティー対策など、もはや銀行単独での対応は困難だ。共同化の流れは止まらない」と指摘する。寄らば大樹の陰と考える地銀が増えれば、ベンダーの勢力図や地銀の提携関係を変容させる台風の目となる。
(一井 純 : 東洋経済 記者)