石破茂が語り尽くす「地方を活性化する鉄道政策」
9月27日、自民党総裁に選出された石破茂氏(写真:JMPA)
政界きっての論客は鉄道通でもある。10月1日に首相の座に就いた石破茂氏。メディアでは「鉄オタ」ぶりを披露することは多いが、この国の鉄道事業について正面から語ることは少なかった。石破氏の「鉄道論」は実に示唆に富んでいる。週刊東洋経済2018年2月5日臨時増刊『鉄道サバイバル』に掲載した同氏へのインタビュー記事を再録する。
鉄道ではなく地域の「損益」を測る指標を
――今回は本格的な鉄道論を語ってもらいたいのです。
そんな……。趣味の領域から出ないよ。高度な話を期待されても全然ダメだからね、ハハハハ。まあ、どうぞ。
――今後、人口減少の影響で存続が危ぶまれる路線が増えるかもしれません。
同じ公共インフラでいえば、自動車の場合はインフラは税金で整備をしていく。事業者は車やバスを走らせてればよいと。道路まで含めて「きちんと採算を取れ」などという発想はないよね。儲からないから高速道路廃止という話は聞いたことがない。
それなのに、なぜ鉄道の場合は、「儲からないとやめる」になっちゃうのかな。同じ公共交通インフラで均衡を失してはいませんか?
そういう根源的な問題がまず存在する。上下分離でインフラの部分は全部税金でみて、その上の部分、運行する部分だけを民間事業者でみればよいのではないか。こういう発想はこの国にはなかった。
赤字でもよいのかという議論だけれど、その鉄道単体で赤字か黒字かという話よりも、それを使った場合、そこの沿線の地域が全体で黒なのかい、赤なのかい?という見方が大事でしょう。そういう指標があんまりないよね。
2017年12月22日、議員会館の事務室内で本誌インタビューに応じる石破氏。書棚に寝台特急「出雲」のヘッドマークや寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」の模型が飾ってあった(写真:尾形文繁)
乗って来たくなる地域を作るのが地元の仕事
北海道に行くと、「鉄道どうするの?」「宗谷本線を廃止するなんてとんでもない」っていう話があるわけ。国鉄からJR北海道に移行したときに基金を運用して赤字を補填しなさいということだったんだけど、今は金利水準がゼロになった。「JR北海道、頑張りなさい」っていうのは、それはちょっと酷じゃないのではとは思う。
当然、事業者も地元も利用客を増やす知恵みたいなものを総動員しないといけないよ。いすみ鉄道の鳥塚亮社長(当時)は「乗って残そう、何とか線、なんぞもってのほかだ」と。そんなことを言って残った鉄道なんか一つもないから。「乗りたくなる鉄道、乗って来たくなる地域を作るのが地元の仕事」だと話している。私もそう思う。
JR九州の「ななつ星」は、それ自体はたぶん赤字でしょ。でも、宣伝効果たるやすごい。唐池(恒二)さんの執念を感じる。世界一の列車、サービス、九州一おいしい米、肉、魚……。ゆっくり走って、大村湾の夕日を見るとかね。「今だけ、ここだけ、あなただけ」っていうサービスを目いっぱい詰め込んでいるじゃない。こういうネタは日本国中にあるんだよ。
――新幹線建設については各地で期待があるようです。
私たちは山陰新幹線の立場。山陰の日本海側って、新幹線もつながっていないし、高速道路もつながっていない。昨年の衆議院選挙の応援演説は、まず新潟1区、次の日が秋田1区っていう日程だったんだけれど、どうみても、1回東京に戻るほうが早いんだ。間に山形を挟むだけなのに……。
私の鳥取1区から竹下(亘)さんの島根2区に行くのは、隣の県なのに、どう考えても1回羽田空港に出たほうが早い。上越新幹線と北陸新幹線はうまくつながってないし、在来線も減っている。やっぱり青森から下関までつなぐ新幹線って必要なんだよね。
山形新幹線や秋田新幹線を作るのに大変な努力があったことも知っているが、やっぱり在来線軌道を走る新幹線には限界があるよ。1時間に何本も走る線ではないと思う。単線の新幹線っていうのは考えられるのかな? それだと建設費はいくら下がるのか。燃料電池による新幹線だとどうなのか。フルスペックの新幹線は財政的に無理でも、うまくコストが下がる方策があればいい。
鉄道の特性である定時性、環境に対する負荷の少なさ、大量輸送能力というのは、日本人があまねく享受すべきものだ。一生懸命に努力して頑張ろうと思っても、交通インフラがあまりに脆弱だと、力を最大限引き出せない。
中央一極集中にはそれなりの意味があった。中央において、極限まで生産性を上げて、公共事業と企業誘致で地方に雇用と所得をもたらすという形で国家は運営されていた。「地方はそんな頑張らなくてもいいよ」っていう。
でも、昭和40年代や50年代と同じように公共事業をやる財政余力はない。地方の工場が同じものを大量生産するというビジネスモデルはもうありえない。地方のポテンシャルを最大限に引き出すためには、交通インフラが必要で、それってどんな形がいいんだろうなといつも考えている。
地方をつなぐ高速交通があってもいい
―――都市と地方だけでなく、地方同士をつなぐ高速交通があってもいいのでしょうか。
いいでしょうね。何でもかんでも東京や大阪に向かわなければならないというものではない。昔は米子発名古屋行きという、とんでもない路線を走るディーゼル急行があった。インバウンドの人たちも有名な観光地は見飽きちゃうでしょ。本当の日本のすばらしさ、原風景は地方にこそ、あるんだよ。
昔は地方出張したときに夜行列車で帰るのが楽しみだった。特に秋田から寝台特急「あけぼの」に乗って、上野へ帰って来るっていうのが大好きだったけど、今は夜行バスに取って代わられた。オール・オア・ナッシングではなくて、輸送手段それぞれの特性をうまく生かすことができたらいいよね。
(堀川 美行 : 東洋経済 記者)
(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)
(大坂 直樹 : 東洋経済 記者)