良い企業=EPSが年平均10%(以上)増加する企業、とひねけん氏は考えます(写真:barks/PIXTA)

長期株式投資で成果を上げるためには、「良い企業の株を、安く買って、持ち続ける」ことに尽きます。そのためにはまず、「良い企業」を具体的に定義して、良い企業かどうかを見極める必要があります。では具体的にはどんな企業がいいのか? YouTube登録者数10万人、投資歴20年超の公認会計士である日根野健(ひねけん)が、安定拡大が見込める3社をご紹介します。

まず「良い企業」とは何かを具体的に定義しましょう。

良い企業=株価が長期的に上がる企業

とすると、株価が長期的に上がる企業とは、どのような企業なのか。ポイントになるのは、1株当たり純利益(EPS)です。

株価が長期的に上がる企業とは、EPSが長期的に増加する企業です。端的にいえば、「たくさん利益を稼ぐ企業の株価は上がる」ということです。それも将来に向かって、着実に利益が増えていく会社が良いのです。

しかし、EPSが長期的に増加する、といっても、その増えるスピードが1年に1%ずつなのか、あるいは、1年に10%ずつなのかによって、株価の上昇スピードも変わってきます。

私は、良い企業=EPSが年平均10%(以上)増加する企業と考えており、ここでは、その観点に照らして私が注目している企業3社を紹介します。

アメリカの景気後退が狙い目「リンデ」

リンデ(LIN)は、世界1位の産業ガス企業です。酸素、窒素、アルゴンなどのエアセパレートガスや、水素、ヘリウムなどの特殊ガスを生産・供給しているほか、産業ガスプラントなどの設計、建設、運用といったエンジニアリングサービスも提供しています。

リンデの強みには、まずスイッチング・コストの高さが挙げられます。

スイッチング・コストとは、顧客が他社製品・サービスに乗り換えるために支払うコストのこと。他社製品・サービスが魅力的に見えたとしても、コストとの比較で乗り換え(スイッチ)を断念する、ということがあります

リンデは顧客工場の敷地内に産業ガス供給設備を所有し長期契約を締結することから、顧客にとってスイッチング・コストが高くなり、それが競争優位をもたらし、新規企業に対する参入障壁として働いています。

また産業ガスという製品は、顧客工場で使用されればなくなるという消耗品の特性がありますから、リピート性があります。

2023年12月期は、売上高328億ドル(4兆9200億円)(前期比△1.5%)、営業利益80億ドル(1兆2000億円)、営業利益率24.4%、EPS12.70ドル(1905円)(+53.0%)、ROE15.6%、自己資本比率50.8%でした。

営業利益率が高い水準であり、ここに競争優位が現れていると思います。顧客工場にリンデの産業ガス供給設備が設置され、工場が稼働し始めれば、よほどのことがない限り他社にスイッチされないと考えられます。高いスイッチング・コストが参入障壁として働き、高い利益率を実現しているのでしょう。

将来的にも、産業ガスはさまざまな分野で利用されます。例えば医療用であれば呼吸しにくい人には酸素吸入が必要ですし、パッケージに入っている食料品には酸化を防ぐために窒素が封入されます。鉄鋼の生産プロセスでは酸素が使われます。

このように利用分野が多岐にわたるため、世界経済の成長にともなって長期にわたって市場は拡大していくものと考えられます。特に医療や食料品向けの需要は、安定して拡大していくものと期待できます。それにともない、業界1位、そして30年連続増配企業でもあるリンデの売り上げとEPSも増加していくことが期待できるでしょう。

なお、リンデの株価は1株価値(適正価格)に対して割高だと考えられます。アメリカは、景気後退のシグナルとなる長短金利差の逆転が、長期間にわたって発生しており、それほど遠くない未来に景気後退局面が到来するのは間違いないと考えられます。そのときまで、待つ戦略が適切だと思います。投資ユニバースに入れて監視しておきたい企業です。

ブランド力で囲い込む「日清食品」

日清食品ホールディングス(2897)は、景気の良し悪しに大きな影響を受けない即席麺などの製造販売を主な事業としています。業績は比較的安定していると考えられ、実際のEPSの推移も安定しています。

しかも、売上高が7000億円を超える大企業であり、大企業の業績予想は精度が高いことが多いです。過去の業績予想と実績値を比較しても、それほど大きな乖離はありません。


(図:●●●●)

上の図表に示した1985年から2024年に至る売上高とEPSの推移を見てみると、長期にわたって成長していることがわかります。これは、商品にはやり廃りがなく、商品ライフサイクルが非常に長いことを示しています。

日清食品ホールディングスは、強力なブランドを有しており、習慣による顧客の囲い込みが行われていると考えられます。需要面での競争優位があり、それが参入障壁になって利益率の維持・向上が期待できそうです。

2024年3月期は、売上高7329億円(前期比+9.5%)、営業利益733億円(+31.9%)、営業利益率10.0%、EPS178.1円(+21.2%)、ROE11.7%、自己資本比率60.7%でした。東証の決算短信集計(2022年度)によれば食料品企業の平均は、営業利益率7.57%、ROE9.09%ですから、これを上回る水準です。

市場別にみると、国内が4621億円、アメリカなどの海外が2708億円です。日本での成長は期待できませんが、アメリカ、ブラジル、中国では着実に売り上げを伸ばしています。

カップ麺のシェアも同様に、国内は50%超で成長の余地はあまりなさそうです。一方、海外でのライバルは世界1位の康師傅(カンシーフー)(中国)ですが、そのシェアは10%程度と見られるため、シェアアップの余地はありそうです。

さらに、過去に自己株買いを実施しており、資金も潤沢。自己資本比率も約60%あります。今後も自己株買いは十分期待できます。

以上のことから、EPSの年10%の成長は十分期待できそうです。

メガトレンドの先頭「ベクトル」

ベクトル(6058)は、PR業界でアジア1位の企業です。PRを起点としてSNS、タテ型動画、インフルエンサーを総合的に活用した手法で先駆的です。

PR・広告の業界においてモノを広める方法が、4大マスメディアからインターネット広告、SNSなどへと地殻変動が起こっており、ベクトルはその先導役です。そして4大マスメディアでのPR・広告も使いこなします。顧客との間でリテナー契約を結びます。

リテナー契約とは一定期間の継続的なコンサルティング契約のようなもので、月額課金しながら顧客のPR方法を顧客と一緒に考え、取り組みます。長期の安定収益が期待できるビジネスモデルです。

PR・広告は市場規模が大きいですから、変化は大規模かつ長期間にわたり、一過性の流行では終わらない「メガトレンド」であると考えられます。また、モノを広めるという顧客価値を軸に考えれば、モノを広める手段は4大マスメディアである必然性はなく、顧客価値に応じて柔軟に事業を組み立てているともいえます。

ビジネスモデルにも注目

さらにビジネスモデルがストック型売り上げである点にも注目です。ストック型とは、売り上げ契約が積み上がっていき、毎月・毎年、繰り返し安定的に得られる売り上げのことをいいます。


定期的に課金する仕組みを導入したビジネスモデルをサブスクリプションモデル(サブスク)と呼ぶことがありますが、こうしたビジネスモデルを採用する企業が積極的に開示するのがARR(Annual Recurring Revenue、毎年繰り返し得られる売り上げ)です。これはすなわち、追加で新たな契約を獲得できなかったとしても、今後、毎年期待できる売上高のことを指します。

2024年2月期は、売上高592億円(前期比+7.2%)、営業利益69億円(+10.6%)、営業利益率11.7%、EPS98.12円(+47.7%)、ROE32.2%、自己資本比率37.1%でした。

過去の売上高と営業利益の各前期比の推移を見てみると、

売上高、営業利益

2024年2月期+7.2%+10.6%

2023年2月期+14.8%+22.4%

2022年2月期+27.0%+126.8%

2021年2月期+1.2%△19.9%

2020年2月期+24.0%+12.3%

と推移しており、総じて年10%以上のペースで利益が増加しています。

また2025年2月期の業績予想も、売上高、営業利益2025年2月期(予想)+6.4%、+22.5%

となっており、10%以上のペースで利益が増加する予想です。

将来性でいうと、PRではすでに国内1位です。なのでPR市場においては、大きな成長は期待できないかもしれません。ただ、業界のメガトレンドが変化しているので、市場の成長の恩恵は期待できるでしょう。PRを起点とした広告ビジネスには大きな成長余地があります。

(ひねけん : 公認会計士・税理士)