パーソナリティ障害

写真拡大

監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)

専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医

パーソナリティ障害の概要

パーソナリティ障害は、長期にわたって一定している思考、知覚、反応、対人関係のパターンであるパーソナリティ特性が一般的から大きく逸脱し、仕事や学業、人づきあいに問題が生じている場合に認められる障害のことです。

これらの行動パターンは青年期または成人期初期に現れてから、生涯にわたって続くことが多い傾向です。

なお、パーソナリティ障害は大きく下記の3つに分類されます。

クラスターA:奇異・風変わりなタイプ

①妄想性パーソナリティ障害

他人をなかなか信用しようとせず、恨み深く、ささいなことで他人を攻撃する。

②シゾイドパーソナリティ障害

他人への関心が薄く、単独行動が多く、また感情の起伏をほとんど見せない。

③統合失調型パーソナリティ障害

感情の幅が狭く、その場にあった感情を持てないため、ぎこちない反応になる。そのため、独特の考え方にこだわる傾向があります。

クラスターB(劇場型・感情的で移り気なタイプ)

①反社会性パーソナリティ障害

社会的規範を無視し、他者の権利を侵害する行動を繰り返す。

②境界性パーソナリティ障害

感情の不安定さ、自己イメージの不安定さ、対人関係の不安定さがある。

③演技性パーソナリティ障害

過度な感情表現や注目を引こうと行動する。

④自己愛性パーソナリティ障害

誇大な自己評価、他者への共感が欠如している。

クラスターC:不安や恐怖が主な特徴のタイプ

①回避性パーソナリティ障害

批判や拒絶を避けるために社会的な関係を避ける。

②依存性パーソナリティ障害

他者に対する過度の依存と支配されやすい傾向がある。

③強迫性パーソナリティ障害

完璧主義、秩序へのこだわりが強い。

パーソナリティ障害の原因

パーソナリティ障害の発症には、下記のように複数の要因が絡み合っています。

遺伝的要因

一卵性双生児の方が二卵性双生児よりもパーソナリティ障害にかかる可能性が高くなるという研究結果があるように、遺伝的要因によってパーソナリティ障害の症状が現れている可能性があります。

また、境界性パーソナリティ障害は家族内で受け継がれる傾向があり、この病気を持つ人の第1度近親者は、一般の人よりこの病気を発症する可能性が5倍程度高くなるといわれています。

環境的要因

幼少期の虐待、ネグレクト、親の不適切な養育態度などが原因で、パーソナリティ障害の発症リスクを高める可能性があります。

このように、親の子どもに対する思いやりや、子どもの気持ちに寄り添う環境が整っていない環境で幼少期を過ごすとパーソナリティ障害が発症するリスク要因といわれています。

生物学的要因

パーソナリティ障害の人々は、脳の特定の領域において構造的および機能的な異常があることから、対人との関係に影響を与えると考えられています。

また、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスが崩れることが、パーソナリティ障害の症状に関連しているともいわれています。

パーソナリティ障害の前兆や初期症状について

パーソナリティ障害は、日常生活において持続的かつ広範囲にわたる問題を引き起こします。その場合、下記のような前兆や初期症状がよく見られます。

前兆

パーソナリティ障害の前兆として、幼少期から人間関係に問題があり、友人を作るのが難しい、または対人関係が長続きしない場面があります。

また、普段の生活から、 感情の起伏が激しく、ささいな出来事で強い怒りや悲しみを感じたり、自己評価が極端に変動することがあり、自己肯定感が低い場面も多く見られます。

初期症状

パーソナリティ障害の初期症状は、下記のようにさまざまな症状があります。

過剰な疑念や不信感

周囲の人々に対して過剰に疑念や不信感を抱くことがあるため、継続して他人との関係を築くのが困難になります。

感情の不安定さ

急激な気分の変化や、長期間持続する抑うつ状態、不安感が見られます。

対人関係の問題

対人関係の中で、過度に依存的になるか、逆に遠ざける傾向があるため、他人と適切な関係を築くことができず、親しい関係を維持できない傾向です。

自己中心的な行動

他人の気持ちや意見を無視して、自分の欲求や意見を優先させる行動が見られます。

極端な完璧主義

1つ1つの物事に対して、 完璧でなければならないという思考になるため、日常生活において過度なストレスを感じることがあります。

社会的な適応困難

学校や職場などでの適応が難しいため、しばしばトラブルや対立を引き起こす場合があります。

リスク行動

衝動的な行動や危険な行動をとり、場合によっては自己破壊的な行動をおこないます。

パーソナリティ障害の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、精神科です。
パーソナリティ障害は精神的な問題であり、精神科で診断と治療がおこなわれています。

パーソナリティ障害の検査・診断

パーソナリティ障害を正確に診断するためには、適切な検査をおこなうことが重要です。
ここでは、一般的におこなわれる検査・診断方法について紹介します。

問診と身体診察

症状の持続期間、発症年齢、対人関係や職業生活への影響などの患者さんの症状や行動パターンについての問診や、身体的な疾患が症状に影響していないかを確認します。

精神状態の評価

うつ症状、不安症状や妄想の有無など、患者さんの感情、思考、行動を評価して、精神状態を把握します。

標準化された診断ツール

パーソナリティ障害の予測ができれば、その後にDSM-5(精神疾患の診断基準マニュアル)という診断ツールを使用します。

DSM-5は、10種類のパーソナリティ障害が定義されており、それぞれの障害に特有の診断基準があるため、パーソナリティ障害の詳細な評価ができます。

パーソナリティ障害の治療

パーソナリティ障害の治療は、個人の症状によって異なりますが、一般的には下記の2つの治療方法があります。

精神療法

①認知行動療法(CBT)

ストレスなどで固まって狭くなってしまった考えや行動を、ご自身の力で柔らかくときほぐし、自由に考えたり行動したりするのを促進するための治療法で、パーソナリティ障害の中で多くのタイプに有効といわれています。

②弁証法的行動療法(DBT)

自分では制御できない感情を抱えて苦しんでいる人を対象に開発された認知行動療法の一種です。
弁証法的行動療法は、問題行動の中にある適応への努力を見出して、その行動量を増やすことで問題解決を図り、主に境界性パーソナリティ障害の治療に用いられます。

薬物療法

①抗うつ薬

うつ症状や不安症状を軽減するのを目的に、一般的に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を使用します。
SSRIは、衝動性や攻撃性を抑える効果があるほか、境界性パーソナリティ障害では不安や抑うつに有効であると考えられています。

②抗精神病薬

衝動的な行動や激しい感情の起伏を抑えるために使用され、特に重度の症状に対して有効です。

③気分安定薬

気分安定薬は、よくてんかんや双極性障害の治療で使われますが、脳の興奮を抑えるので衝動性・情動の不安定さをやわらげて、感情の不安定さを調整する効果が期待されます。

パーソナリティ障害になりやすい人・予防の方法

パーソナリティ障害は特定のリスク要因を持つ人に多く見られる傾向です。ここでは、パーソナリティ障害になりやすい人と予防の方法について説明します。

パーソナリティ障害になりやすい人

パーソナリティ障害やほかの精神障害を持つ家族がいる場合は、遺伝的要因により発症リスクが高くなる傾向です。
また、幼少期に虐待やネグレクトを長期間受けた経験がある場合も注意が必要です。

このように、長期間にわたってストレスがかかる生活をしたり、 幼少期に社会的な孤立を経験した場合は、対人関係のスキルが発達しにくいため、パーソナリティ障害を発症しやすくなる傾向です。

予防の方法

現時点では、パーソナリティ障害の発症を完全に予防する方法は確立されていません。
しかし、家庭関係を良好に保つことで、子どもの健全な発達を促進するだけでなく、慢性的なストレスがかかることもありません。

また、家庭での改善が難しい場合は、学校や地域社会での早期的な介入や、支援グループ、カウンセリングなどの社会的支援を活用することで、孤立することなく、心理的なサポートをおこなうことができます。


参考文献

MSDマニュアル「パーソナリティ障害の概要」

MSDマニュアル「境界性パーソナリティ障害(BPD)」