by NASA/GSFC/SDO

天体望遠鏡は、使用されているレンズや鏡が大きいほど多くの光を集めることができるので、暗い天体を見るときはなるべく大きい望遠鏡を使用することが推奨されています。望遠鏡は大きければ大きいほどいいという発想を突き詰めて、太陽を巨大な天然の望遠鏡として使ってしまおうという技術について、天文学のニュースを扱うメディアのSpace.comが解説しました。

Could we turn the sun into a gigantic telescope? | Space

https://www.space.com/sun-gigantic-telescope-with-gravitational-lensing

電波望遠鏡では、アンテナの有効径が大きければ大きいほど解像度を上げることができるため、精度を追求する場合は広範囲に設置した複数の大型アンテナをつなぎ合わせる超長基線電波干渉法(VLBI)という手法が用いられます。

VLBIが大いに活用された場面のひとつが、巨大ブラックホールの撮像に挑んだ国際共同研究プロジェクト・イベントホライズンテレスコープ(EHT)です。世界各地の電波望遠鏡を連携させて、仮想的な地球サイズの電波望遠鏡として運用するこのプロジェクトにより、人類はこれまでに「M87*」と「いて座A*」という2つのブラックホールの輪郭を捉えることに成功しています。

地球と同じ銀河に存在するブラックホールの画像が初めて撮影される - GIGAZINE



さらに大きな観測ネットワークを構築するため、観測用の人工衛星を宇宙に飛ばすスペースVLBIという計画もありますが、Space.comは「ありがたいことに、太陽系の中心には太陽という巨大な望遠鏡が既に設置されています」と指摘します。

太陽そのものはレンズでも鏡でもありませんが、その巨大な質量から発生する時空のゆがみにより太陽のそばをかすめる光が曲げられると、まるで凸レンズを通過したかのように集束します。この現象は「重力レンズ効果」と呼ばれており、太陽が作る重力レンズを使って宇宙のかなたを観測しようという構想は、「太陽重力レンズ(SGL)」と呼ばれています。

EHTの性能は月面に置かれたオレンジを見つけられるほどだとされていますが、「太陽重力レンズ望遠鏡」が実現すればさらにその100万倍となる100億分の1秒角もの精度の望遠鏡が人類の手に入ることになります。



by Dani Zemba/Penn State, CC BY-NC-ND 4.0

もっとも、太陽を天然の望遠鏡として使うには、クリアしなければならない課題があります。

まず、太陽重力レンズで観測を行うにはレンズのピントが合うところまで行かなければなりませんが、太陽重力レンズの焦点までの距離は約550天文単位(AU)、つまり地球から太陽までの距離の550倍にあたる約820億キロメートルもあります。これは、地球から冥王星までの距離の10倍以上で、1977年に打ち上げられて地球から最も遠い人工物となったボイジャー1号との距離の3倍以上に相当します。

このため、太陽重力レンズでの観測を行うには地球から遠く離れた場所に宇宙船を送り込まなければならないほか、宇宙船にはそこにとどまり続けるのに十分な量の燃料を積む必要もあります。また、太陽重力レンズによって生成された画像は数十キロメートルの空間に広がるので、宇宙船はその範囲全体をスキャンしなければなりません。



太陽をレンズ代わりにするという発想の源流は、1970年代までさかのぼります。それから半世紀かけて蓄積された知識と技術によって考案された実用的なプランとして、小型軽量の人工衛星であるキューブサットを使う案が提唱されています。

この方法では、まず多数のキューブサット群をソーラーセイルで深宇宙に送り出します。そして、焦点距離に到達したら減速させて、各キューブサットが地球に送信した観測データをつなぎ合わせて分析します。



Space.comは「太陽重力レンズ望遠鏡は、人類が今後数世紀の間に作ることができるどんな望遠鏡よりも優れているでしょう。もっとも、望遠鏡はもう存在しています。あとは、カメラを適切な位置に持っていくだけです」と述べました。