退職して気付いた古巣の魅力と自分が本当にやりたかったこと 味の素AGF「カムバック制度」で復職した社員が語る
「一度退職したからこそ、外から見た古巣の会社の良いところや自分の原点を知ることができた」――。
そう語るのは、味の素AGFの松田陽平さん。AGFが昨年10月1日に導入開始した「カムバック制度」を利用して復帰した第1号社員となる。
「カムバック制度」とは、退職した元社員を対象に、入社試験資格を与えるもの。
育児・介護・配偶者の転勤等の諸事情により退職せざるを得なかった元社員や、学業・転職などのキャリアアップのために退職した元社員が、退職後に得た知識や経験、スキルを活かしてAGFに職場復帰できる道を用意している。
宮城県出身の松田さん。2011年に、東日本大震災に遭い、支援活動を通じて嗜好品が被災者のココロの支えになることを痛感。この経験から、就職活動では、ココロの健康に貢献する嗜好品の開発を志す。
「住まいが宮城県の内陸だったため、私には直接的な被害はなかったものの、被災された方からのお話や、避難所でのボランティア活動では、水や食糧などの生活必需品だけではなく嗜好品も必要とされていた。コーヒー1杯でこんなにも安らげるということを改めて感じ、嗜好品の領域でものづくりがしたいという気持ちが芽生えた」と振り返る。
2012年にAGF入社。入社後、西の生産拠点・AGF鈴鹿に配属され、インスタントコーヒーの製造を2年間経験した。
その後、開発研究所で製造の経験を活かして5年間、インスタントコーヒーやレギュラーコーヒーの商品開発を担当。2019年には業務用事業部(現ソリューションビジネス部)に異動し、外食やコンビニのカウンターコーヒーの商品企画や事業管理を手掛け、2022年2月に退職した。
嗜好品のものづくりという道をはたから見て順風満帆に歩みながら退職を選択したのは、同じものづくりでも、生活者により近いところで商品開発をしたいと思うようになったためだという。
「今後のキャリアを考えた時に、自分が作ったものが生活者にどのように捉えられているのかを、よりダイレクトに知りたいという思いが生まれた。明確なターゲットに商品を届ける開発をしたいと思ったときに、汎用性の高いナショナルブランドの商品ではそれが難しいと考えた」と当時の心境を語る。
この思いから22年3月、製造小売業(SPA)へ転職し、AGFで培ったスキルを活かしてPB商品の食品部門のマーチャンダイザーを担当。当初はこれまでの業務内容との違いに戸惑いを隠せなかったものの、場数を踏み新たな学びを得る。
「商品開発のサイクルが早く、約2年の間にリニューアルも含めて50品ほどの開発を手掛けた。売場づくりやプロモーションにも初めて携わり、同じ商品でも見せ方次第でかなり変わる、ということを学ばせていただいた」と述べる。
一方で、商品開発にはじまり売場づくりやプロモーションなど全てにおいて関わることで、仕事に対する考え方を再び改める。
「やはり、メーカーで企画や開発に特化して、ものづくりに深く関わることが、自分の一番やりたかったことだと思い直すようになった」という。
AGF退職後も交流を続けている上長との会話の中で「カムバック制度」を知り、エントリーを決めた。
もう一度AGFを選んだ理由には、退職したからこそ気づけた魅力があったという。
「AGFの中にいるときはあまり気付かなかったが、外部から商品の品質や開発力、嗜好品メーカーとしての在り方が物凄く評価されている企業であることがわかった。『ブレンディ』というブランドが広く認知されており、強いブランド力も感じさせられた」と述べる。
当時は当たり前だと思っていたAGFの労働環境も、一度外に出たからこそ恵まれていることに気付けたと明かす。
「まず、新鮮なコーヒーを毎日飲みながら働けることがとてもありがたいことだったと感じた。福利厚生や勤務体制なども、どこの会社でも同じようなものだと思い込んでいたが、AGFの福利厚生や人事制度は従業員の満足度を考えて構築されたものであることが退職後に鮮明になった」と語る。
松田さんは3回の面接試験を経て今年6月に復職。
退職前と同じソリューションビジネス部に配属され、8月までOJTを受けながら業務用製品の開発に携わっている。
顔見知りのメンバーが多く、システムや業務フローは変わっていない部分も多いため、今のところ大きく戸惑うことなく業務に携われているが、松田さんは2つのプレッシャーに打ち克つべく奮起する。
ひとつは前職のSPAでの経験をプラスアルファーしてAGFに貢献できるかという点にあり、もうひとつが「カムバック制度」利用者第1号である点だ。
「外部での経験を活かして以前よりも貢献すべく、前職でよりお客様の近くで働いた経験を活かし、業務用であってもお客様をイメージするよう意識的に心がけている。人間関係の面でも少し不安があったが、“お帰り”“またよろしくね”と快く迎えてもらい、とても働きやすい環境で非常にありがたい。カムバック制度第2号、第3号と続くように活躍したい」と力を込める。
松田氏が今後志すのは、原点に立ち返りながらも、これまでの経験を活かした働き方。
「具体的に“こんな人に届けたいからこんなものを作りたい”というものづくりの原点が、働いているうちになんとなく薄まってしまった。今後はその根本を忘れずにものづくりをしていきたい。お取引先様とのコミュニケーションを通じてお困りごとを把握し、パートナーとして一緒に考えてお客様に届けるものをつくっていきたい。お客様の“いつでも、ふぅ。”に貢献できる商品を開発していきたい」と意欲をのぞかせる。