「せん妄」を発症しやすい人の特徴をご存知ですか? 原因・症状を医師が解説
監修医師:
大迫 鑑顕(医師)
千葉大学医学部卒業 。千葉大学医学部附属病院精神神経科、袖ヶ浦さつき台病院心療内科・精神科、総合病院国保旭中央病院神経精神科、国際医療福祉大学医学部精神医学教室、成田病院精神科助教、千葉大学大学院医学研究院精神医学教室特任助教(兼任)、Bellvitge University Hospital(Barcelona, Spain)。主な研究領域は 精神医学(摂食障害、せん妄)。
せん妄の概要
せん妄は、身体的異常や薬物の使用を原因として急性の発症する二次的な意識障害であり、失見当識などの認知機能障害や幻覚妄想、気分変動などの多彩な精神症状を呈する病態です。
認知機能の日内変動が特徴で、特に夕方から夜間に悪化することが多いです。
せん妄にはさまざまな原因があります。
患者さん個人の脆弱性として、高齢(60歳以上)、認知症であること、環境要因やストレス要因として、入院という環境の変化や睡眠不足、治療による痛みなど、直接的な要因として、脳疾患、代謝異常(血糖値、電解質など)、特定の薬剤の使用などといったさまざまな要因が複雑に絡み合って発症し、その原因は一つではないことが多いです。
せん妄の治療において重要なことは、「せん妄」という病気の治療を行うのではなく、あくまで二次的な状態ですので、せん妄の直接要因を除去することが一番大切なことです。
適切な対策がなされれば、通常は数日から数週間で回復しますが、適切な対処がなされない場合は、長期的な認知機能障害を引き起こす場合もあります。
そのため、早期の発見と治療が重要です。
せん妄の原因
せん妄は、多くの要因が複合的に関与して発症するため、その原因は多岐にわたります。
主な原因としては以下のものがあります。
準備因子
個人の脆弱性
例)高齢(60歳以上)、脳血管障害の慢性期、認知症、習慣飲酒
直接要因
脳疾患や全身疾患
例)中枢神経に作用する物質(麻薬、抗精神薬、抗認知症薬など)、依存性薬物からの離脱(アルコール、ベンゾジアゼピンなど)、中枢神経疾患(脳血管障害、頭部打撲など)、内科的疾患(低血糖、呼吸不全、心不全など)
誘発因子
環境要因やストレス要因
例)環境変化(入院)、過剰刺激(ICU)、不安、痛み、かゆみ、不十分な睡眠
せん妄の前兆や初期症状について
せん妄の初期症状は多様で、特に発症初期は気付きにくい場合があります。
主な前兆や初期症状として以下のものが挙げられます。
注意力の低下
周囲の状況に対する注意が散漫になり、集中力が続かなくなります。
睡眠障害
昼夜逆転や不眠、過眠が見られることがあります。
これらの症状は、周囲の環境や状況に応じて変動することが特徴です。
認知機能の低下
短期記憶や見当識(時間や場所の認識)が障害されることがあります。
幻覚や妄想
現実には存在しない物や音が見えたり聞こえたりすることがあります。
情緒の変動
不安、恐怖、イライラ、抑うつなどの感情が急激に変化することがあります。
ほかに急に興奮したり、逆に無気力になる場合もあります。
また、注意力障害や認知機能障害は日内変動が大きく、夕方から夜間にかけて悪化することが特徴的と思われがちですが、注意力や活動性が極端に下がると非常に発見しにくく、医療者であっても見落としてしまう場合もあります。
せん妄の検査・診断
せん妄の診断には、詳細な病歴聴取と身体診察が不可欠です。
特に原因の治療が重要ですので、原因となる身体症状を改善する目的で、治療や検査が行われます。
せん妄の疑いがある場合、以下の検査が行われます。
病歴聴取
特に意識の変動、認知機能障害の有無、発症や経過が急性であることを中心に聴取します。
ほかに原因となる疾患がないか病歴や内服薬などを詳しく調べ、検討します。本人からの聴取が難しく、普段一緒に生活をしている家族からの意見が求められることもあります。
身体診察
痛みなどの身体症状の評価、原因疾患の有無を判断するために、病歴に応じた身体所見を追加で調べます。
神経学的検査
脳神経系の機能を評価するために、神経学的な検査を行います。
精神状態評価
認知機能、意識レベル、注意力、記憶力などを評価するために、標準化された精神状態評価スケール(例えば、3D-CAM(the 3-Minute Diagnostic Interview for Confusion Assessment Method)、4AT(4 A’s Test)など)を使用します。
血液検査や画像診断
貧血や感染症、代謝異常を特定するために、血液検査や画像診断(CT、MRIなど)を行うことがあります。
せん妄の治療
せん妄の治療は、原因の特定とその治療、および症状の管理が中心となります。
具体的な治療法は以下の通りです。
原因の治療
せん妄を引き起こしている基礎疾患や状態の治療が大変重要です。
感染症であれば抗生物質、代謝異常であれば適切な補正、原因となりうる薬剤の中止など、原因に対する治療を行います。
環境調整
特に入院中の患者さんでは昼夜のリズムを保ちやすくしたり、安心できる環境を整えることが重要です。
静かな環境を提供し、照明やカレンダー、時計を病室の見えるところに置くことで見当識を保つ手助けをします。
コロナ禍で難しくなってしまいましたが、家族や親しい人々との面会を促し、安心できる環境を作ることが有効です。
ほかにご家族の写真を病室に置くなども有効とされています。
薬物療法
必要に応じて、せん妄の症状を緩和するための薬物療法が行われます。
具体的には、せん妄予防に有効な睡眠薬や抗精神病薬が使用されることがあります。
非薬物的介入
認知療法、リハビリテーション、心理的支援などを通じて、患者さんの精神状態を安定させる努力が重要です。
せん妄になりやすい人・予防の方法
せん妄になりやすい人には、特定のリスク要因が存在します。
主なリスク要因は以下の通りです。
高齢者
加齢に伴う脳の脆弱性や多疾患併存が影響します。
認知症
既に認知機能が低下しているため、さらなる機能低下を引き起こしやすいです。
多剤服用者
特に精神科薬や鎮痛薬を複数使用している患者さんはリスクが高いです。
重篤な身体疾患
例えば、心疾患や呼吸器疾患、腎不全などの重篤な疾患を持つ人々です。
手術後
特に全身麻酔や大きな手術を受けた患者さん。
せん妄の予防には、以下の対策が有効です。
薬剤調整
薬物の適正使用を徹底し、特に高齢の患者さんでは代謝が低下していることで薬自体の効果が強くなることや、飲み合わせにより効き過ぎたり、効きにくくなるため、不要な薬物の使用を避けることが重要です。
ただし、自己判断での調整は危険性も伴いますので、必ず主治医に相談してください。
環境調整
患者さんが安心できる環境を提供し、場所や時間を把握しやすくするためのサポートを行います。
栄養管理
適切な栄養摂取と水分摂取を維持することが予防に役立ちます。
身体的活動
適度な運動や活動を促進し、筋力低下や身体機能の低下を防ぎます。
また、日中の運動は夜間の睡眠を促し、昼夜のリズムを整えることにも有効です。
早期介入
せん妄の前兆や初期症状が見られた場合、早期に介入し適切な対応を行うことが重要です。
参考文献
日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不 穏・せん妄管理のための臨床ガイドラインがん患者におけるせん妄ガイドライン2022年版第2版