◆米大リーグ ドジャース7―2パドレス(26日、米カリフォルニア州ロサンゼルス=ドジャースタジアム)

 ドジャース・大谷翔平投手(30)が、メジャー7年目にして初の地区優勝。これまで渡米から大谷を取材し続けてきた安藤宏太記者が、移籍前後の表情、感情の表し方の変化を「見た」。また、ド軍のT・ヘルナンデス外野手(31)、M・ロハス内野手(35)ら同僚は大谷の活躍の理由を「見た」―。

 シャンパンファイトでも大谷は叫んだ。ただグラウンド上と違うのは、鬼気迫る表情なのではなく最高の笑顔だったことだ。ようやくたどり着いた地区優勝。勝利の美酒が昨年までのメジャー6年間の苦悩を洗い流してくれた。

 エンゼルス2年目だった19年から、担当記者として一挙手一投足を追ってきた。それまでもテレビ画面や、相手球団の担当という立場から大谷を1人の野球好きとして見ていた。勝手に描いていたイメージは「スマートな男」。打っても、凡退してもあまり表情に出すことはなく、ひょうひょうとやってのける。一流選手はあまり感情を出さないのか―と、勝手に思っていた。

 だが、そんなイメージは年々崩されている。今では勝負どころで本塁打やタイムリーを打てば大きく手を上げて、時に大きく口を開いて叫び、微妙な判定には、暴言を浴びせるなどの一線は越えないが、あからさまには表情をゆがめる。これが“素の大谷”だ。WBC準決勝・メキシコ戦での「カモーン!」という絶叫、決勝・米国戦で試合を締めくくりグラブと帽子を投げて喜びを爆発させたのにはさすがに驚いたが…。

 その軸になっているのは間違いなくチームの勝敗だ。決して褒められたものではないが、特にチームの中心になった21年以降のエンゼルス時代は、勝てない日々が続き、ベンチに戻るとヘルメットやバットに感情をぶつけることもあった。真意は定かではないが、大谷がベンチ裏に下がっていくと「なんか音がした」と話していたエ軍関係者もいた。勢いに乗れないチーム状況下では、本塁打を放っても顔色ひとつ変えずにダイヤモンドを1周。22年終了後には「目指すところが見えなくなってくる、そういう難しさはありました」と胸の内を明かしたこともあった。チームを勝利に導けないストレスは想像をはるかに超えていたのだろう。

 今季も開幕直後には水原元通訳が思わぬ形で解雇となり、チームでも故障などで離脱者が続出。ベッツ、フリーマンと形成するMVPトリオでたった一人取り残されたこともあった。だが、なんとか3月20日の開幕戦から、地区首位を一度も譲ることなく優勝。そういえば、今季は負の感情を爆発させたのを見てはいない。今季盗塁が激増したのも「得点につながっているのが自信になってくる。進塁して後ろのバッターがかえしてくれることが、自分の中で積極的に進塁しようという気持ちになる」。チームに貢献しているという達成感もモチベーションだった。

 メジャー7年目。「特別」とかみしめていた「ヒリヒリする」戦いを経て、頂点への切符を初めて手にした。圧巻の活躍をしていたこともあるが、9月は特にガッツポーズや雄たけびも増えていた。緊迫した場面ほど見られるのが本物の「大谷翔平」。これまで、何度も目標を「ワールドチャンピオン」と口にしてきた。思うがままに叫ぶ姿を、まだまだ、見たい。(安藤 宏太)