とちぎテレビ

アメリカのテレビ界で最高の栄誉とされる第76回エミー賞で、日本の戦国時代が舞台となった配信ドラマ「SHOGUN 将軍」が、歴代最多の18冠に輝きました。そのすべての劇中曲のアレンジを担当した作曲家が、那須町にいます。曲づくりへの思いなどをうかがいました。

歴史ドラマ「SHOGUN 将軍」は、真田広之さんがプロデュースして主演を務め、作品賞や主演男優賞など史上最多の18冠に輝きました。日本の戦国時代で天下分け目の合戦といわれている「関ケ原の戦い」の前夜が舞台になっています。

世界に日本の存在を知らしめたこのドラマ、劇中のすべての曲のアレンジを担当した作曲家が、栃木県那須町に住んでいます。石田多朗(いしだ・たろう)さん(44)です。アメリカのボストンで生まれ、5歳のときに日本へ。2017年に妻の実家がある那須町に家族で移住してきました。電子音楽や日本最古の音楽と言われる雅楽の作曲を専門とする作曲家です。

それらのユニークな経歴が「SHOGUN 将軍」制作に携わる世界的な作曲家たちの目に留まり、「総合アレンジャー」として起用されました。

石田さんがドラマで手掛けた楽曲は、エミー賞のテーマ曲賞と作曲賞の2つの部門にノミネートされ、今月16日(日本時間)にアメリカのロサンゼルスで行われた授賞式に出席しました。2つの部門で受賞は叶いませんでしたが、授賞式の翌日、現地からオンラインで作品賞の受賞が発表された瞬間を振り返ってもらいました。

(石田多朗さん)

「作品賞に選ばれた時は歓声とスタンディングオベーションで地鳴りがするくらい、会場が盛り上がっていました。泣いている人も多数いました。賞を受賞した瞬間の(感情が)爆発した感じは、忘れられないですね」

石田さんは2021年の9月ごろから、「SHOGUN 将軍」の楽曲のアレンジに携わるようになりました。1年半ほどの製作期間のうち、コロナ禍だったこともありアメリカにいる制作陣との打ち合わせは、すべてオンラインで行われました。

(石田多朗さん)

「(作曲家らから)頻繁に相談されました。『こういったシーンの場合、どういう音を入れたらどういうことになる?』」など。私は、例えば『ここにお坊さんの声明(しょうみょう)という声を入れたら宗教的な薫りが出る』などと話し、文化的意味や歴史的意味を説明しながら一緒にアレンジをしていくという、今まで経験したことがないような音楽のつくり方をしました」

劇中曲「Osaka Castle」でも声明が印象的に取り入れられています。

(石田多朗さん)

「私は那須町で作曲の仕事をし、リモートでロサンゼルスの作曲家チームと仕事をしていたのですが、今回(授賞式で)初めて作曲家らに会えました。何度も『僕(石田さん)がいなかったら、日本の音楽を取り入れることができなかった』といわれて、素直にうれしかった」

エミー賞の受賞をきっかけに「日本文化をもっと自信をもってアピールできる世の中になっていければ」と、思いを語ってくれた石田さん。続編にも意欲を見せました。

(石田多朗さん)

「撮り切れなかった日本の音楽の側面がまだある。僕の知る日本の音楽を100とすると、まだ30くらい。(正式に依頼が来たら)作曲家らが日本に来て、レコーディングしたいという話はしています。『今度はロングスパンで、もっと楽しくレコーディングしよう』と話してきた」

那須町にある石田さんの自宅兼スタジオにおじゃましました。ここで「SHOGUN 将軍」の楽曲が生まれました。

スタジオには何やら不思議な文字が書かれた鍵盤が。想像した音を演奏者が実際に演奏できるかを1つずつ確認するための表記だといいます。

(石田多朗さん)

「雅楽楽器は出る音や演奏方法が独特で、西洋音楽と同じ感覚で作曲ができないので、(出る音に)鍵盤に印をつけています。例えば雅楽で使われる「笙(しょう)」という楽器は、15個しか音が出ない。鍵盤は(音を落とし込むと)穴ぼこだらけで使えない音だらけです。「篳篥(ひちりき)」の音域はとても狭い。ポルタメントという音程が上がったり落ちたりするのは、楽譜に書けない。すべての楽器が特徴的すぎて、とても難しい。今でも難しいです」

西洋音楽の概念とは全く違うという雅楽。10年以上作曲している今でも、試行錯誤の連続です。

石田さんは、この日、都内のスタジオを訪れました。今回練習のために集まったのは、クラシックの演奏者と雅楽の演奏者あわせて6人。石田さんは新しいプロジェクトをスタートさせています。雅楽で演奏されてきた曲に、ピッチが違う弦楽器をあわせて魅力を創出するというものです。

(石田多朗さん)

「古典雅楽を一般の人や海外の人にカッコいいと思ってもらうにはどうしようと思った時に、今音楽だけではなかなか聴いていなくて、映画やゲームで音楽を聴く人の方が多いと思っていて、なるべくそこに入っていきたいと思った。皆さんの耳なじみのあるクラシックの楽器が入ったら、伝わりやすいところもあるのではないかと」

演奏家たちに渡した楽譜は「太食調音取(たいしきちょうのねとり)」という曲で、太食調を演奏する前に音合わせをするための短い曲だといいます。雅楽の世界観を壊さないよう、雅楽奏者はいつも通りに、そこに弦楽器が音を合わせていきます。

(竜笛(りゅうてき)奏者 伊崎 善之さん)

「意外に(雅楽と弦楽器が)合う。目の付け所が良い。ありそうで実はなかった」

(篳篥(ひちりき)奏者 中村 仁美さん)

「石田さんがおどろいてくださったり、すごいと言ってくださるが、それは普通の人でも感じることなのかと思う。それを他の人と共有できるように、石田さんがいろいろ機会をつくってくださっていると思う。とてもありがたいです」

この曲はすでにレコーディングを終えていて、10月初旬に発表する予定だということです。

1人でも多くの人に雅楽の面白さを知ってもらいたいという、雅楽と私たちをつなぐ作曲家・石田さんの挑戦は、続きます。

(石田多朗さん)

「(雅楽と)一般の方たちの距離が離れすぎているから、「SHOGUN 将軍」もそうだと思うが、雅楽との架け橋になるような音楽が作れたらいいなと思っています」