この記事をまとめると

■トヨタ・ノア&ヴォクシーが新規受注を停止してから1年が経った

中古車市場でも人気が高く高年式のものは新車よりも高値を付けていることも珍しくない

■ミニバンは他メーカーのライバル車に需要が流れにくい

ノア&ヴォクシーの中古車は割高でおすすめできない

 トヨタ・ノア&ヴォクシーが新規受注停止となってから間もなく1年が経とうとしている。「でも自販連(日本自動車販売協会連合会)の販売台数統計では、毎月コンスタントに台数を稼いでいるが……」と思う人も多いことだろう。ノア&ヴォクシーが新規受注停止した背景については、「改良を控え改良前モデルのバックオーダーを消化するため」と筆者は聞いている。2021年から2022年にかけ、世界的に半導体などの部品不足もあり新車の供給体制が大混乱となり、長期の納期遅延を招いた。

 そもそも現行ノア&ヴォクシーは人気車種で常時受注がたくさん入っており、デビューしてからは納車までに時間を要していたのだが、世界的な新車の供給混乱も加わり、断続的に深刻な長期の納期遅延を繰り返していた。常時大量のバックオーダーを抱えることとなったので、改良を実施するタイミングから遡ってバックオーダーを消化するために現状の長期新規受注停止となっているのである。

 そもそも、どんなに供給体制に問題のないモデルであっても、新型へのモデルチェンジや改良を行う1カ月前までには新規受注停止とするのが一般的な流れとなっている。

 販売現場で聞くと新規受注停止中とはいえ、キャンセルや生産体制に余裕ができたといった理由でピンポイントにて新規受注可能(といっても数台レベル)となることもあるが、原則としては「買いたくても買えない」という状況が続いている。

 このようななか、新車販売事情に詳しいA氏が興味深い話をしてくれた。「当年式(2024年式)はもちろん、2023年式といった高年式のノア&ヴォクシーの中古車価格が目立って上昇しているようなのです」というのである。ノア&ヴォクシーは歴代モデルに遡っても中古車価格は高めに推移してきている。新車需要だけではなく、中古車として購入し乗り換えを繰り返すユーザー層が多いのがその理由のようだ。

 そのため「ノア&ヴォクシーの中古車は割高でおすすめできない」という声も聞かれていた。そのなか、あえて「中古車価格が上昇している」とA氏はわざわざ話してくれるのだから、上昇傾向がより顕著になっているということだろう。家族向けミニバンで当年もの(2024年式)や、1年落ちといった高年式車が市場に出まわる台数自体少ないなかでニーズが高まっていることが理由なのはわかるが……。

「このような傾向はトヨタの人気車では多く見受けられます。ノア&ヴォクシーでは現行型になってからその傾向が顕著となってきています。しかし、単純に需要と供給のアンバランスとしてその背景を語ることができない複合的なものが絡んでいるともいわれています」とは中古車事情に詳しいB氏。

 そこで中古車検索サイトをみると、2024年式ではメーカーオプションの有無など条件は必ずしもイコールではないものの、車両価格を見ると新車販売価格と遜色がないどころか、新車価格より高いイメージのケースも散見できるような状況となっていた。「新車では買えないのなら」というニーズが中古車に流れてきていることも目立っているようなのだが、それでも新車価格とほぼ同等かそれ以上の割高感のある中古車を求めるといった消費行動には特別な訳もありそうだ。

販売店では新車への乗り換えをあきらめられることを恐れている

「最近では『残価設定ローン』を利用して新車を購入する人が多くなってきています。そして、現状では設定残価率が安全圏、つまり低めに設定されているので完済前、採算分岐点にて下取り査定額で残債を相殺し次の新車へ乗り換えると、予定より早めに新車への乗り換えもできることもありますがお得感が高く、セールスマンも積極的にすすめています。ただ、現状ではすでに発注した人であっても単純に納車まで長い時間を待っていればいいというわけでもないようなのです。キャンセルの発生や生産体制の強化など理由はさまざまなのですが、急に納車時期が当初予想より早まることもあると聞きます。

 となると、当初より残債が多いなか手放すことになりますので、『追い金』が発生してしまうこともあるそうです。中古車検索サイトでは割高であっても物件情報は掲載されていますから、いま乗っているクルマの支払い状況と照らし合わせながら、新車よりスケジュールの混乱がなく、納期を読みやすい中古車をあえて選択するという動きもあるようです」(事情通A氏)。トヨタ・アルファード&ヴェルファイアからのダウンサイザーも目立っており、そのような層(所得に余裕がある)が手っ取り早く中古車を選ぶといった動きもあるようだ。

 昨今の世のなかの動きを見ても改良後モデルは、諸物価高騰も意識した値付け、つまり改良によるコスト上昇プラスアルファ的な価格上昇は避けて通れない。しかも、改良後モデルになれば飛躍的に需給体制が改善(納期が飛躍的に改善される)されるということもなかなか期待できないだろう。つまり、前述したB氏のコメントのとおり「複合的なもの」がいまのノア&ヴォクシーの高年式中古車への需要が高まり、販売価格に影響を与えているようなのである。

「そこまでしなくても納期の安定している他メーカーライバル車にすればいいのでは?」という話もあるだろう。たとえば日産セレナは日産公式ウェブサイト上の工場出荷時期の目処をみると1〜2カ月となっているので、3カ月も見れば納車可能となっている。ホンダ・ステップワゴンも納期はほぼ同様とも聞いている。自販連統計をみると、セレナは多少ノア&ヴォクシーからお客が流れてきているようにも見えるが、ステップワゴンはすくいきれていないというか、そもそも販売苦戦のように見える。

 長い間、同カテゴリーではノア&ヴォクシーを合算すれば圧倒的な数で販売トップとなっているので、歴代モデルのユーザーはかなりの数にのぼる。

 また、ファミリーミニバンともなるので、パパよりはママが日常生活で運転する機会も多く、そのような女性のなかには他メーカー車へ乗り換えて細かい操作が変わるのに抵抗を示すケースも目立っているので、ノア&ヴォクシーが長期の新規受注停止や発注していても不安定な納車予定時期であっても、あえて「ノア&ヴォクシーから離れない」ということになっていると筆者は分析している。

 本稿執筆時点はまさに事業年度締め(4月から翌年3月)での上半期末決算セール真っ最中のタイミング。販売現場からは「この時期に思い切りノア&ヴォクシーを販売できないのは歯がゆい」という声も聞かれる。でもそれは「他メーカーライバル車」へ流れるのを危惧しているのではなく、高年式中古車へ流れるだけならまだしも、新車への乗り換え自体をあきらめられてしまうことをより恐れてのコメントのように感じた。